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一口目

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 この私が歳桃の殺すよという脅し程度にビビるわきゃねえ。
 だが、その警告には素直に従うべきだと野生の勘が告げていた。ひとまず大人しくじっとしておくことにした。
「ハグする前に、君のせいで完全にいつもの僕に戻っちゃったとつい責めてしまったけれど。逆だったね。むしろ君がいつもの僕に戻してくれたお陰で、僕たちの敵の真の目的が分かった。敵──いや学校ここでは不審者と呼んだ方がしっくりくるかな。僕のすぐ後方にあるドアの向こう側で不審者は身を潜めている。その不審者の目的はことだ」
 真剣ぶった声ではない。真剣そのもので僅かだが緊張をはらんだ歳桃の声に、思わず表情も気持ちも引き締まった。
 非現実的ですぐには信じ難い話だが、嘘を言っているようには聞こえねぇ。
 たとえ冗談でも、歳桃が心から慕っているように見える歳桃の友人を、歳桃が不審者呼ばわりするとは考えにくい。
 そうなると、ドアを開閉した人物=不審者≠歳桃の友人。
 不審者の正体が気になるところだが……。
「今しがた、不審者はドアを開けて水鉄砲から噴射した毒で君の目潰しをしたうえで、ナイフで刺殺しようとした」
 まさか。知らず知らずのうちに、切迫した危機的な状況に陥ってるのは私の方だったのか。
 歳桃はそれに巻き込まれているだけ?
「僕が放った殺気で不審者さんは怯んだみたいだ。撃たずにそのままドアを閉めたのが微かな音と気配で分かった。ドアを開けてから閉じるまでの6秒間、液体を浴びたような感覚に襲われることはなかった。今のところ、痛み、痒み、痺れ、体温の変化などの中毒症状は出ていないけれど。日課の自殺が原因で僕の五感が麻痺していないとは言いきれない。君は僕の頭や背中、足にれないこと。ある程度毒に耐性がある僕とは違って、君はないから念のためにね」
 歳桃は私の手首を掴んで抱き寄せ、私ごと半回転した。
 恐らく、半回転した理由は自分の顔を狙われるリスクが高い身体の正面側ではなく背面側をドアに向けるためだろうが。
 歳桃は、自分の背中を盾にすることで不審者の攻撃から私を庇った。
 庇った? 歳桃が私を庇うことに一体何の得がある。
 いや、あるんだろう。先を読み、歳桃に都合のいい見返りを私からもらえることを期待して、計画的に庇った。
 こいつに限って、咄嗟に庇ったなんてことはあり得ないからな。
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