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土の章06 捜査対象
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「能力っすか。それはエルウ現象を引き起こす可能性の高い危険を冒すほどの価値があるんすか?」
「えぇ、勿論ですよ。私単独では能力生み出すことが出来ませんからね。私は私という存在で既に完結していて、発展性がありません。ですから別の可能性を模索するには、私の断片を宿した方の助力が必要なのです。そしてそれは『外なる世界』に唯一対抗しうる能力の発現に繋がるのです」
得体の知れない外敵から身を守るには必要なことだろうと一応は納得する。エルウ現象と紅脈は、いわば『外なる世界』からもたらされた攻撃の痕跡なのだから、防衛手段を講じなければ、いつかこの世界そのものが滅びてしまいかねない。
「星鳴舎に住んでるボクらは、南境先輩の後を追うことになるのですか」
「知恵さんは既に独自の能力として物質変成を発現していらっしゃいますので問題ありません。今回の試みに南境の方々を利用したのは、彼らに発展性が望めなかったからですね。魔術一辺倒で思考停止してしまいましたからね。焔さん自身も魔術だけにこだわっていて、魔導具を使おうともしていませんでした。その辺りに関しては、南境の分家である南雲家の燐紅さんは融通が利いていましたが、一族からは煙たがられていたようですね」
「それって南境の方々を虐殺までする必要はあったんすか」
南雲先輩の話では彼女以外の南境にまつわる人間は、老若男女問わず全て焼き殺されていたという。それを成したのが行方不明の南境先輩ではないかとの証言を持ち込んで来た。それだけのことを可能にする炎熱系の魔術を行使出来るのは、彼女くらいだったので誰も南雲先輩の証言を疑わなかった。
地下に住まう人間は魔力など持っていないのだから、地上に住んでいる魔力持ちの人間相手に敵うはずもない。きっと一方的な虐殺が行われたことだろう。
「私も無意味にそのようなことはしませんよ。焔さんが私の閾下支配を受け入れてくださらずに、魔錠を失ってエルウ現象が発生してしまった場合に、被害を最小限に抑えるためには必要な措置ですね。南境のみなさんには、エルウ現象が小規模なうちに紅脈を塞ぐ素材として、前もって燐紅さんが宿していた私の断片に摂り込ませていただいたのです。そのお陰もあって、焔さんから魔錠を引き剥がす際に生じてしまった小規模な紅脈を、早期に封じることが出来ました」
「待ってください。魔錠もなしに紅脈を封じれるんすか。それなら相応の犠牲を払うことになってでも今すぐに──」
「ダメなんですよ、それでは。確かに封じるだけなら可能ですが、単に傷が見た目上で一時的に塞がるだけなんです。それに小規模なエルウ現象は現在世界中で発生しています。それを塞ぐのに今も多くの犠牲を払って保持しているのです。ですから魔錠を失う危険を冒してでも、新たな能力を得なければ遠からず私は消滅を免れません。勿論、私に住まう貴女達もですね」
話を聞く限り手段を選んでいられる段階はとっくに過ぎ去っているのかも知れない。
「今後、どうされるつもりなんすか」
「わかりません。ただ『外なる世界』から持ち込まれた能力を私が得るか解析することが出来れば、なにか新たな方策が導き出せる可能性はあります」
「センパイが持ってたものは奪われてしまったんすよね。それが他にもある保証はあるんすか。それにセンパイが殺されるまで能力の存在に気付けなかったんすよね。それがまだ存在してるかも知れないなんて、あまりにも希望的観測過ぎるんじゃ」
「知恵さんの言うことも最もです。私も希望に縋ってむやみやたらと時間を浪費するつもりはありません」
「ということは、そう言えるだけの根拠があるんすね」
「えぇ、奪われてしまった今だからこそわかるんです。私の内に異物が紛れ込んでいることが。これは栞さんの宿していた私の断片を解析出来たことが大きいですね。ただ『外なる世界』から降り注ぐ赤光の影響で正確な位置までは割り出せないのが悔しいところですね」
傷を負った自身の体内を探るようなものだから厳しいものがあるのだろう。しかも対象は自身を構成する細胞のひとつでしかないのだから仕方のないことなのかも知れない。
「どこ程度まで絞り込めているんすか」
「現在、私の断片を宿していて能力を発現していない方ですね。能力が発現している方であれば閾下支配で『外なる世界』の能力の有無を探ることが出来ますから」
「それでボクはここに呼ばれたんすね。既に能力を発現してるんすから。でも能力を発現しなくても閾下支配で調べられそうなものですけど。現に南境先輩や南雲先輩も影響を受けていたわけっすし」
「単に残った子らたちが閾下支配の影響をほとんど受け付けないだけなんですよ。それと燐紅さんは宿している私の断片がちいさ過ぎて『外なる世界』の能力に耐えられるほどの強度が彼女の器にはないと解析で既にわかっています」
一定以上の大きさを持ったオヅノの断片を宿せている人間でしか『外なる世界』の能力が持てないというのならかなり絞り込める。と言うよりも全てボクの知っている人物ばかりだろう。そして彼女の発言からボクが導き出せる該当者は9人だけだった。
「えぇ、勿論ですよ。私単独では能力生み出すことが出来ませんからね。私は私という存在で既に完結していて、発展性がありません。ですから別の可能性を模索するには、私の断片を宿した方の助力が必要なのです。そしてそれは『外なる世界』に唯一対抗しうる能力の発現に繋がるのです」
得体の知れない外敵から身を守るには必要なことだろうと一応は納得する。エルウ現象と紅脈は、いわば『外なる世界』からもたらされた攻撃の痕跡なのだから、防衛手段を講じなければ、いつかこの世界そのものが滅びてしまいかねない。
「星鳴舎に住んでるボクらは、南境先輩の後を追うことになるのですか」
「知恵さんは既に独自の能力として物質変成を発現していらっしゃいますので問題ありません。今回の試みに南境の方々を利用したのは、彼らに発展性が望めなかったからですね。魔術一辺倒で思考停止してしまいましたからね。焔さん自身も魔術だけにこだわっていて、魔導具を使おうともしていませんでした。その辺りに関しては、南境の分家である南雲家の燐紅さんは融通が利いていましたが、一族からは煙たがられていたようですね」
「それって南境の方々を虐殺までする必要はあったんすか」
南雲先輩の話では彼女以外の南境にまつわる人間は、老若男女問わず全て焼き殺されていたという。それを成したのが行方不明の南境先輩ではないかとの証言を持ち込んで来た。それだけのことを可能にする炎熱系の魔術を行使出来るのは、彼女くらいだったので誰も南雲先輩の証言を疑わなかった。
地下に住まう人間は魔力など持っていないのだから、地上に住んでいる魔力持ちの人間相手に敵うはずもない。きっと一方的な虐殺が行われたことだろう。
「私も無意味にそのようなことはしませんよ。焔さんが私の閾下支配を受け入れてくださらずに、魔錠を失ってエルウ現象が発生してしまった場合に、被害を最小限に抑えるためには必要な措置ですね。南境のみなさんには、エルウ現象が小規模なうちに紅脈を塞ぐ素材として、前もって燐紅さんが宿していた私の断片に摂り込ませていただいたのです。そのお陰もあって、焔さんから魔錠を引き剥がす際に生じてしまった小規模な紅脈を、早期に封じることが出来ました」
「待ってください。魔錠もなしに紅脈を封じれるんすか。それなら相応の犠牲を払うことになってでも今すぐに──」
「ダメなんですよ、それでは。確かに封じるだけなら可能ですが、単に傷が見た目上で一時的に塞がるだけなんです。それに小規模なエルウ現象は現在世界中で発生しています。それを塞ぐのに今も多くの犠牲を払って保持しているのです。ですから魔錠を失う危険を冒してでも、新たな能力を得なければ遠からず私は消滅を免れません。勿論、私に住まう貴女達もですね」
話を聞く限り手段を選んでいられる段階はとっくに過ぎ去っているのかも知れない。
「今後、どうされるつもりなんすか」
「わかりません。ただ『外なる世界』から持ち込まれた能力を私が得るか解析することが出来れば、なにか新たな方策が導き出せる可能性はあります」
「センパイが持ってたものは奪われてしまったんすよね。それが他にもある保証はあるんすか。それにセンパイが殺されるまで能力の存在に気付けなかったんすよね。それがまだ存在してるかも知れないなんて、あまりにも希望的観測過ぎるんじゃ」
「知恵さんの言うことも最もです。私も希望に縋ってむやみやたらと時間を浪費するつもりはありません」
「ということは、そう言えるだけの根拠があるんすね」
「えぇ、奪われてしまった今だからこそわかるんです。私の内に異物が紛れ込んでいることが。これは栞さんの宿していた私の断片を解析出来たことが大きいですね。ただ『外なる世界』から降り注ぐ赤光の影響で正確な位置までは割り出せないのが悔しいところですね」
傷を負った自身の体内を探るようなものだから厳しいものがあるのだろう。しかも対象は自身を構成する細胞のひとつでしかないのだから仕方のないことなのかも知れない。
「どこ程度まで絞り込めているんすか」
「現在、私の断片を宿していて能力を発現していない方ですね。能力が発現している方であれば閾下支配で『外なる世界』の能力の有無を探ることが出来ますから」
「それでボクはここに呼ばれたんすね。既に能力を発現してるんすから。でも能力を発現しなくても閾下支配で調べられそうなものですけど。現に南境先輩や南雲先輩も影響を受けていたわけっすし」
「単に残った子らたちが閾下支配の影響をほとんど受け付けないだけなんですよ。それと燐紅さんは宿している私の断片がちいさ過ぎて『外なる世界』の能力に耐えられるほどの強度が彼女の器にはないと解析で既にわかっています」
一定以上の大きさを持ったオヅノの断片を宿せている人間でしか『外なる世界』の能力が持てないというのならかなり絞り込める。と言うよりも全てボクの知っている人物ばかりだろう。そして彼女の発言からボクが導き出せる該当者は9人だけだった。
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