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#44-3夜空の懺悔と星降る雫
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<カリス>
「人形から人間に戻せば、それだけ生物ゆえの不完全さが増す。以前デルタが気にしていた寿命も早まるだろう。悠久の時を生きる竜から見ても、これはデルタの言うデメリット、というものではないのか?」
カリスの平坦な声が静かな空気を震わせる。
数秒ほど黙したデルタは、すぐさまニヤリと口角を吊り上げた。
「俺が惚れたのはカリスが完璧だったからじゃない。それに寿命のほうも問題じゃないね」
「なぜ」
「だってカリスの寿命が来たら多分、俺も死ぬから」
胸の辺りに、冷えたものが差し込む。
この男は何を言っているのだろうか。
「何を……」
「ああ、そういえば前に聞きたがっていたよね。竜の殺し方。いいよ、教えてあげる」
いつかの宴会の折りにデルタが出した問答だったか。
正解した際の報酬が、竜の討伐方法だった。竜の討伐命令は現在カリスに課されている最優先事項である。討伐方法を知らなければ命令は遂行できない。
だというのに。
「竜を殺すには」
「いらない」
「えっ」
「聞きたくない」
なぜ言葉の先を聞くことに強い抵抗を覚えるのか。
胸の辺りに、ねばついた不快感が絡みつく。
この不快感は恐らく――怒りだ。
なぜかは分からないが今、カリスは怒っているのだ。
自身の眉間にみるみる皺がよっていくのが分かる。
不満を全面に押し出すカリスの表情にデルタは目を見開き、しげしげと眺めた後、絡まった糸が綻ぶように微笑んだ。
「カリスは……優しいね」
「優しい?」
不機嫌な顔を晒している相手に優しいとは一体どういうことなのか。
因果関係が全くわからない。
カリスが人形だから理解できないのか、デルタの判断基準がおかしいのか。はたまたその両方なのか。
すーっと首を傾げるカリスに、明るい笑い声を上げたデルタが包んだカリスの手を遊ぶように揺する。
「カリスが人間になる日が楽しみだなあ」
その笑顔が余りにも幸せそうで、不快ではない胸の締めつけに息を飲んだ。
「……俺も」
人間になれば、デルタのことがもっと分かるだろうか。
ならば自身もそうなりたいと、願ってしまった。
「俺も楽しみだ」
流れるように出たカリスの言葉に、ようやくデルタが満面の笑みを浮かべた。
月夜の星々も視界から消し去ってしまうほど眩い太陽の笑顔。
この時間がずっと続けばいいと思ってしまうのは何故なのか。
人形のカリスには分からない。分からないから、分かるようになってみようと思う。
またどこかで、水滴が落ちた。
「人形から人間に戻せば、それだけ生物ゆえの不完全さが増す。以前デルタが気にしていた寿命も早まるだろう。悠久の時を生きる竜から見ても、これはデルタの言うデメリット、というものではないのか?」
カリスの平坦な声が静かな空気を震わせる。
数秒ほど黙したデルタは、すぐさまニヤリと口角を吊り上げた。
「俺が惚れたのはカリスが完璧だったからじゃない。それに寿命のほうも問題じゃないね」
「なぜ」
「だってカリスの寿命が来たら多分、俺も死ぬから」
胸の辺りに、冷えたものが差し込む。
この男は何を言っているのだろうか。
「何を……」
「ああ、そういえば前に聞きたがっていたよね。竜の殺し方。いいよ、教えてあげる」
いつかの宴会の折りにデルタが出した問答だったか。
正解した際の報酬が、竜の討伐方法だった。竜の討伐命令は現在カリスに課されている最優先事項である。討伐方法を知らなければ命令は遂行できない。
だというのに。
「竜を殺すには」
「いらない」
「えっ」
「聞きたくない」
なぜ言葉の先を聞くことに強い抵抗を覚えるのか。
胸の辺りに、ねばついた不快感が絡みつく。
この不快感は恐らく――怒りだ。
なぜかは分からないが今、カリスは怒っているのだ。
自身の眉間にみるみる皺がよっていくのが分かる。
不満を全面に押し出すカリスの表情にデルタは目を見開き、しげしげと眺めた後、絡まった糸が綻ぶように微笑んだ。
「カリスは……優しいね」
「優しい?」
不機嫌な顔を晒している相手に優しいとは一体どういうことなのか。
因果関係が全くわからない。
カリスが人形だから理解できないのか、デルタの判断基準がおかしいのか。はたまたその両方なのか。
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「カリスが人間になる日が楽しみだなあ」
その笑顔が余りにも幸せそうで、不快ではない胸の締めつけに息を飲んだ。
「……俺も」
人間になれば、デルタのことがもっと分かるだろうか。
ならば自身もそうなりたいと、願ってしまった。
「俺も楽しみだ」
流れるように出たカリスの言葉に、ようやくデルタが満面の笑みを浮かべた。
月夜の星々も視界から消し去ってしまうほど眩い太陽の笑顔。
この時間がずっと続けばいいと思ってしまうのは何故なのか。
人形のカリスには分からない。分からないから、分かるようになってみようと思う。
またどこかで、水滴が落ちた。
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