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悪夢のお告げ
しおりを挟む昔居た所で。
物凄い言い争いをしてる。
『耐えらんねえんだよ、こんな生活』
…なに?
…私、あなたの言う通りにしてきたつもりだよ?
…あなた、何を耐えたっていうの?
『お前、女捨ててるだろ』
…あなたが、なにもかもダメって言ったからじゃない。
…ミニスカートも、ブラウスも、お化粧さえも。
『好きな女ができたんだよ。とっとと判押せ』
…ああ。
…こんな生活が嫌って、最初言ったのに。
…結局、他の女なんだ。
…私のせいにして、うまく逃げるつもりだったのね。
『まあでも、お前は1人じゃ生きらんねえもんな。
仕方ないから、家に置いてやるよ。
俺とじゃなきゃ、お前はSEXもできねえ女だしな』
…何?その顔。
…触らないで
…バカにしないで!
…嫌だ……嫌!!」
「……て…起きて!!」
「っ!!!」
目覚めた先にあったのは。
憎らしい男の顔でも、汚らしい手でもなく。
投げようとした食器でもなくて。
「あ…」
暗闇の中でもハッキリとわかる。
大好きな、大事な人の綺麗な眼差し。
「よかった…大丈夫?うなされてましたよ…」
そう言うと、温かい胸の中へと抱き寄せてくれた。
優しい温もりと静かに響く心臓の音が。
私の中の悲しい記憶を、ゆっくりと溶かして。
涙にして、押し出してくれる。
「ごめんね、起こしちゃったね…」
心配させたくなくて、そのまま顔を埋めようと思ったんだけど。
「いいんです、そんなこと…あの男の夢でしょう?」
武骨だけどしなやかな指が、私の目元を滑った。
私の人生の1部をぐちゃぐちゃにした男に夢とはいえまた会うなんて。
最悪で、最低で。
なにより、今ここにいてくれる君に申し訳なくて。
「…うん…すごい大喧嘩した時の夢だった」
決して、復縁でも甘い夢でもなかったのが、救いだった。
私が初めて声を荒げて抵抗したのに、それでも小馬鹿にしたようにニヤニヤと迫ってきたあの男から、着の身着のままでこの子の元へ逃げてきた時のこと。
あのシーンがあまりにも鮮明に蘇ってきて。
「本当ごめんね…夢とはいえ、あんなやつのこと…」
「怖かったでしょう」
そんな私を落ち着かせるように、君は背中を撫でてくれて。
ここにいるのは俺だよと、私の目を自分に向けさせる。
けど。
「でも、夢の中身聞いて安心しました」
てをとめて、ふとそんな不思議な言葉を口にする。
「安心?」
「ええ。
…元彼や元夫と喧嘩する夢って、新しい恋が始まることを意味しているんですよ」
夢占いの話。
…だけど、それは今の私には必要のないことで。
「え、新しい恋ってそんな」
そんなはずないよと言いかけた私を。
「や、別の結果もあります」
君は優しく遮って。
「別の?」
「そうです。
すでに相手がいる人は、その相手との関係がより一層深まる暗示だそうです」
教えてくれた結果に、私の胸が高鳴った。
「…関係が、深まる…」
君との、関係。
この大切にしたい関係が、これからが、もっと深まる。
許すことの出来ない存在が、そんなことを告げてくれるなんて。
「ね?だから俺、安心したんです。
貴女との関係がより深まるとか、最高でしょ」
そう言うと君は私の目をまた覗き込んで、にっと可愛い笑顔を向けてくれた。
「…本当だ…よかった」
君のその笑顔に、私の強ばった気持ちがほぐれていくのを感じる。
「うん。
まあ、そんな夢の暗示がなくても深まる一方だと思ってますけどね俺は」
幼い笑顔から、勝気な顔へ。
「…言ったでしょう?俺がいるって。だからさ」
「んっ?」
軽く触れるだけのキスを落としたあと。
「また同じこと言う日が来ると思うんですけど」
君は真剣な眼差しで私を見据えて。
「…俺の、最後の女になって下さい」
暗闇の中で、真剣な言葉を、真剣に。
「…いいの…?だって…」
私はと言うと、喜びの前に私なんかでいいのだろうかなんて考えが頭をよぎってしまって、疑問を投げそうになったんだけど。
「貴方はまだ若いしとか、そういうのナシですよ」
「うっ」
君はそれを見越していたようで、すぐに私の聞きたいことへの答えをぶつけてきた。
そして、そのあと。
噛み締めるように、選びながら告げてくれたのは。
「何度考えても、どんなこと想像しても、俺貴女が一緒じゃないとダメなんです。貴女以外じゃ、ダメだ。
重たいかも知らんけど…俺が俺で居られるのは、貴女が俺を見てくれてるからだって。前以上に思ってて。だから」
貴女以外愛せない…という、きっと誰にも言われることなどないだろうとさえ思っていた言葉と気持ち。
どうして君は。
私をこんなにも驚かせて。
幸せにしてくれるのかな。
「…もう…っ…」
泣き出した私に。
「えっ!?ちょ、あの」
君はちょっと驚いてしまったけど。
私も、伝えなくちゃいけない。
「私だけじゃなかった…
私も、貴方が一緒じゃないとダメだって思ってて…他の人なんてもう考えられなくて…
でもそんな依存してるみたいなこと、言っちゃダメだって思ってたから…」
「…依存なんかじゃないですよ。
それだけ好きで大事だって思ってくれてるんだってわかる…」
君は、私のこんな重たい気持ちも嬉しいと言ってくれるから。
「うん…同じように思ってもらえてて、本当に嬉しい…」
君が私に伝えてくれた気持ちにも重たさなんて感じる訳もなくて。
「これから俺ら、もっと関係が深まりますからね。
昔のことなんて、どうでも良くなるくらいに。
だから、今後本当に離しませんけど。いいですか…?」
「…うん。もちろん。私も離れないからね…」
お互いを、最後の恋人と言える幸せ。
あの日、迷っていた私に君が勇気をくれたから今がある。
君の幸せが私だと言ってくれるから。
喜びと感謝に包まれて、私はもう一度君の腕の中で目を閉じた。
額に、柔らかな唇の感触を感じながら。
fin
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