上 下
21 / 38
優しく、時に嫉妬深い彼からの溢れる程の愛情

1

しおりを挟む
「あー疲れた……もう無理」
「お疲れ様、撮影、今日はだいぶ長引いたね」
「ああ、新人がとちってばっかで何度もやり直し。ようやくいけたと思ったら今度は別の奴がミスしてさぁ、本当イラつく」
「まあまあ、誰にでもミスはあるよ。ね?」
「分かってるけどよ……」
「ほら、もう帰ろ?  明日は午後からだし、今日はこれからゆっくり休めるよ」
「なあ……莉世りせ、今日も泊まってく?」
「うーん、そうだね……でもなぁ」
「泊まってかねぇなら、俺が莉世のとこ行くぞ?」
「それは駄目だよ。……仕方ないなぁ、分かった、今日も泊まるよ。でも、今週はもうこれで四度目だよ?  もう少し減らさないと……」
「何だよ、ジジイが文句言ってんのか?」
「そうじゃないけど、節度ある行動をって言われてるから」
「分かってるって。今週は今日で終わりにするよ」

 私と雪蛍ゆきほくんが交際を始めてから、もうすぐ一年という月日が経とうとしている現在、社長を始め、事務所の人たちにはそれとなく知られているものの世間には相変わらず内緒のまま。

 私は今日も彼のマネージャーとして業務をこなし、彼の送迎を行っていた。

 雪蛍くんは早く公表したいみたいだけど、私や社長はまだ早いと思っている。

 だって、彼は元から人気ではあったけれど、最近は更に人気度が増しているから。

 それというのも、

「あ、雪蛍くんの曲が流れてる」
「あー、この曲はなかなかの出来だよな。歌いやすかったし」

 最近彼は歌手活動も始め、以前にも増して活躍の場を広げているからだ。

 雪蛍くん本人は歌が少し苦手で社長がオファーを受けようとした時は渋っていたのだけど、レッスンを受けてみるとみるみる上達していき、当初の予定通り主演ドラマの主題歌を担当する事になった。

 するとデビュー曲は記録的ヒットとなり、早々に二曲目を発売。今ちょうどラジオから流れてきたのが彼の二枚目のシングルに収録されているカップリング曲だった。

 とまあ、こんな感じで以前よりも売れている事もあって、熱愛報道なんてものが出回りでもすればイメージダウンは避けられないので、私たちの関係はまだまだ内緒にしなくてはいけない。

 勿論私だって、周りに言えたらどんなに楽かと思うけど、知られればリスクも伴うし、何より公表すれば彼のマネージャーを降りなくてはいけなくなってしまうので、まだまだ彼をサポートしたい私は、今はまだこのままでいいかなと思ってしまうのだ。

「美味そうな匂いがする。今日は肉じゃがだな?」

 マンションに着き、部屋に入るなり雪蛍くんは嬉しそうな声で私に問い掛ける。

「うん。この前食べたいって言ってたでしょ?」
「そうそう。何か煮物とかって定期的に食いたくなるんだよなぁ」
「あはは。雪蛍くん、和食好きだもんね。それじゃあシャワー浴びて来ちゃって?  その間に用意しておくから」
「分かった」

 いつもは帰宅後シャワーに行くように促すも渋ってなかなか行かないのに、ご飯が用意されていると素直に従うような可愛い一面がある。

 いつもでは無いけど、迎えまで余裕のある時はご飯の用意をしてから迎えに行くのだ。

 最近現場には主に私に付いて勉強中の新人マネージャー小柴くんが待機しているので、私は打ち合わせや雪蛍くんの送迎をメインに動いている。

 初めの頃は小柴くんの事を嫌っていた雪蛍くんも、最近では彼の頑張りを評価しているみたいで、それなりに良い関係を築いているらしく、教育係の私としてはひと安心だった。

 ただ、小柴くんも私と雪蛍くんの関係を知っているから自分は邪魔な存在なのではと仕事中も気を使ってくれる事はあるけど、そこはやっぱり仕事が最優先だから気にしないでと言ってあるものの、どうにも気になってしまうようだ。

 それを考えると、やっぱり私は雪蛍くんのマネージャーを辞めるべきかなと迷ったりもする。

 だって、周りがやりにくそうにしているのを見ていると申し訳ない気持ちになるから。

 でも、それを雪蛍くんに言ったら全力で阻止されそうだから困ったものだ。


「美味い!  やっぱり莉世の作る飯はどれも美味い」
「ふふ、ありがとう。そう言って貰えると作りがいがあるよ」

 お風呂から上がった雪蛍くんと共に夕ご飯を食べていると、私の手料理を『美味しい』とベタ褒めしてくる彼。

 彼の喜ぶ顔が見れるから色々してあげたいって思うし、褒められたらやっぱり嬉しい。

 終始和やかムードの食卓だったのだけど、私に掛かってきた一本の電話で状況は一変する。

「社長から電話だ」
「ジジイから?  ったく、一体何の用だよ?  くだらねぇ話ならさっさと切っちまえよ?」
「そういう訳にはいかないよ」

 突然掛かってきた社長からの電話を不思議に思いながら電話に出る。

「――お疲れ様です、お待たせしてすみません。何かありましたか?」
『南田くん、今雪蛍のマンションかね?』
「あ、はい……そうです」
『それなら雪蛍も居るんだな?』
「ええ、おりますけど」
『悪いが、雪蛍と一緒に今すぐ事務所へ来てくれ』
「分かりました、すぐに伺います」

 社長は雪蛍くんと一緒に居ることを確認すると、彼と共にすぐ事務所へ来るようにとだけ言って電話を切ってしまう。

「何だって?」
「雪蛍くんと一緒に、すぐに事務所に来るようにって」
「これから?  風呂入っちまったのに……面倒だな」
「仕方ないよ。何か急な用事なんだもの。急ごう」

 文句を垂れる雪蛍くんを説得し、私たちは事務所へ向かうことにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冷徹御曹司と極上の一夜に溺れたら愛を孕みました

せいとも
恋愛
旧題:運命の一夜と愛の結晶〜裏切られた絶望がもたらす奇跡〜 神楽坂グループ傘下『田崎ホールディングス』の創業50周年パーティーが開催された。 舞台で挨拶するのは、専務の田崎悠太だ。 専務の秘書で彼女の月島さくらは、会場で挨拶を聞いていた。 そこで、今の瞬間まで彼氏だと思っていた悠太の口から、別の女性との婚約が発表された。 さくらは、訳が分からずショックを受け会場を後にする。 その様子を見ていたのが、神楽坂グループの御曹司で、社長の怜だった。 海外出張から一時帰国して、パーティーに出席していたのだ。 会場から出たさくらを追いかけ、忘れさせてやると一夜の関係をもつ。 一生をさくらと共にしようと考えていた怜と、怜とは一夜の関係だと割り切り前に進むさくらとの、長い長いすれ違いが始まる。 再会の日は……。

腹黒伯爵の甘く淫らな策謀

茂栖 もす
恋愛
私、アスティア・オースティンは夢を見た。 幼い頃過ごした男の子───レイディックと過ごした在りし日の甘い出来事を。 けれど夢から覚めた私の眼前には、見知らぬ男性が居て───そのまま私は、純潔を奪われてしまった。 それからすぐ、私はレイディックと再会する。 美しい青年に成長したレイディックは、もう病弱だった薄幸の少年ではなかった。 『アスティア、大丈夫、僕が全部上書きしてあげる』   そう言って強姦された私に、レイディックは手を伸ばす。甘く優しいその声は、まるで媚薬のようで、私は抗うことができず…………。  ※R−18部分には、♪が付きます。 ※他サイトにも重複投稿しています。

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー

葉月とに
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。 立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。 優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?

もつれた心、ほどいてあげる~カリスマ美容師御曹司の甘美な溺愛レッスン~

泉南佳那
恋愛
 イケメンカリスマ美容師と内気で地味な書店員との、甘々溺愛ストーリーです!  どうぞお楽しみいただけますように。 〈あらすじ〉  加藤優紀は、現在、25歳の書店員。  東京の中心部ながら、昭和味たっぷりの裏町に位置する「高木書店」という名の本屋を、祖母とふたりで切り盛りしている。  彼女が高木書店で働きはじめたのは、3年ほど前から。  短大卒業後、不動産会社で営業事務をしていたが、同期の、親会社の重役令嬢からいじめに近い嫌がらせを受け、逃げるように会社を辞めた過去があった。  そのことは優紀の心に小さいながらも深い傷をつけた。  人付き合いを恐れるようになった優紀は、それ以来、つぶれかけの本屋で人の目につかない質素な生活に安んじていた。  一方、高木書店の目と鼻の先に、優紀の兄の幼なじみで、大企業の社長令息にしてカリスマ美容師の香坂玲伊が〈リインカネーション〉という総合ビューティーサロンを経営していた。  玲伊は優紀より4歳年上の29歳。  優紀も、兄とともに玲伊と一緒に遊んだ幼なじみであった。  店が近いこともあり、玲伊はしょっちゅう、優紀の本屋に顔を出していた。    子供のころから、かっこよくて優しかった玲伊は、優紀の初恋の人。  その気持ちは今もまったく変わっていなかったが、しがない書店員の自分が、カリスマ美容師にして御曹司の彼に釣り合うはずがないと、その恋心に蓋をしていた。  そんなある日、優紀は玲伊に「自分の店に来て」言われる。  優紀が〈リインカネーション〉を訪れると、人気のファッション誌『KALEN』の編集者が待っていた。  そして「シンデレラ・プロジェクト」のモデルをしてほしいと依頼される。 「シンデレラ・プロジェクト」とは、玲伊の店の1周年記念の企画で、〈リインカネーション〉のすべての施設を使い、2~3カ月でモデルの女性を美しく変身させ、それを雑誌の連載記事として掲載するというもの。  優紀は固辞したが、玲伊の熱心な誘いに負け、最終的に引き受けることとなる。  はじめての経験に戸惑いながらも、超一流の施術に心が満たされていく優紀。  そして、玲伊への恋心はいっそう募ってゆく。  玲伊はとても優しいが、それは親友の妹だから。  そんな切ない気持ちを抱えていた。  プロジェクトがはじまり、ひと月が過ぎた。  書店の仕事と〈リインカネーション〉の施術という二重生活に慣れてきた矢先、大問題が発生する。  突然、編集部に上層部から横やりが入り、優紀は「シンデレラ・プロジェクト」のモデルを下ろされることになった。  残念に思いながらも、やはり夢でしかなかったのだとあきらめる優紀だったが、そんなとき、玲伊から呼び出しを受けて……

Catch hold of your Love

天野斜己
恋愛
入社してからずっと片思いしていた男性(ひと)には、彼にお似合いの婚約者がいらっしゃる。あたしもそろそろ不毛な片思いから卒業して、親戚のオバサマの勧めるお見合いなんぞしてみようかな、うん、そうしよう。 決心して、お見合いに臨もうとしていた矢先。 当の上司から、よりにもよって職場で押し倒された。 なぜだ!? あの美しいオジョーサマは、どーするの!? ※2016年01月08日 完結済。

【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~

蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。 嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。 だから、仲の良い同期のままでいたい。 そう思っているのに。 今までと違う甘い視線で見つめられて、 “女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。 全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。 「勘違いじゃないから」 告白したい御曹司と 告白されたくない小ボケ女子 ラブバトル開始

色々と疲れた乙女は最強の騎士様の甘い攻撃に陥落しました

灰兎
恋愛
「ルイーズ、もう少し脚を開けますか?」優しく聞いてくれるマチアスは、多分、もう待ちきれないのを必死に我慢してくれている。 恋愛経験も無いままに婚約破棄まで経験して、色々と疲れているお年頃の女の子、ルイーズ。優秀で容姿端麗なのに恋愛初心者のルイーズ相手には四苦八苦、でもやっぱり最後には絶対無敵の最強だった騎士、マチアス。二人の両片思いは色んな意味でもう我慢出来なくなった騎士様によってぶち壊されました。めでたしめでたし。

慰み者の姫は新皇帝に溺愛される

苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。 皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。 ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。 早速、二人の初夜が始まった。

処理中です...