近くて遠いキミとの距離

夏目萌

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 小谷くんはと言うと、寝ることなく座って本を読んでいた。

(寝なくて大丈夫なのかな?)

 暇を持て余した私がちらりと彼を盗み見ると、

「何?」

 そんな私の視線に気付いた彼が、鋭い目つきで私を見ながら問い掛けてきた。

「あ、ご、ごめん……その、小谷くん、寝なくて大丈夫かなって、思って」
「そういうアンタは寝なくていいの?」
「私は大丈夫だよ」
「とか言って、さっきから欠伸しまくってんじゃん。無理しないで寝れば?」

 どうやら彼は全てを見抜いているようで、私が必死に眠気を隠していたのは無駄だったらしい。

「……で、でも」

 確かに眠いけれど、やっぱりこの状況で眠るというのは気が引ける。

 口ごもって何も言えなくなった私に小谷くんは、

「……そんな警戒しなくても、何もしねぇよ」

 やはり全てを見透かしているのか、そんな言葉を投げかけてきた。

「え……」
「そういう心配してんじゃねーの?」
「べ、別に、そういう訳じゃ……」
「まぁ、どーでもいいけど。眠いなら我慢しねーで寝とけよ。俺ももう寝るし。布団はねぇから、その座椅子倒して寝ろよ」

 そう言って小谷くん押し入れからタオルケットを出して手渡してくれる。

「それと、これ掛けとけ。洗ってあるから安心しろ」
「あ……ありがとう」
「じゃ、電気消すぞ」
「うん」

 私の返事を聞いた小谷くんは電気を消すと、布団に潜り込んだ。

「……何から何まで、本当にありがとう、小谷くん」
「別に……礼を言われる様な事は何もしてねーよ。じゃ、おやすみ」
「うん……おやすみ」

 気を張っていた私は小谷くんとのやり取りで安心したのかもしれない。

 彼の言葉に甘えて座椅子を倒し、タオルケットを掛けた私は意外とすぐに眠りに堕ちていったのだった。

 翌朝、バイトがある小谷くんは私を残して出掛けて行ってしまう。

 私は不動産屋が開くまでどこかで時間を潰すつもりでいたのだけど、部屋に居ていいと半ば強引に鍵を預けられてしまった。

 家主が居ない部屋に置かせてもらうというのは気が引けたけれど、正直助かったのは言うまでもない。

 それから無事に部屋へ入れた私は、小谷くんが鍵を取りに来る約束になっていたので、一晩お世話になったお礼も兼ねて夕飯ご馳走しようと作って待っていた。

 夕方になり陽も傾きかけた頃、バイトを終えた小谷くんがやって来た。

「お疲れ様。それと、昨日は本当にありがとう」
「別に、大した事してねぇし」

 そんなやり取りをしつつ鍵を手渡し、夕飯の事をどう切り出そうか迷っていると、

「……何か、美味そうな匂いだな」

 小谷くんがポツリと呟いた。

「あ、肉じゃが作ったの……昨日のお礼にと思って小谷くんの分も作ったんだけど……良かったら、どう……かな?」

 これはチャンスと彼の言葉に便乗する形で夕飯に誘ってみると、心底驚いた表情を見せたかと思ったら、

「……せっかくだから、貰う」

 少し俯き、ボソッと呟いた。

「本当?   良かった。じゃあ、上がって」

 昨日の事がなければこんな台詞、小谷くん相手に絶対に言う事はなかっただろう。

 昨日は初めて異性の部屋に入り、今日は初めて異性を部屋へ招き入れたのだ。

「アンタ、料理上手いんだな」
「そ、そうかな?  人並みだと思うけど」
「ふーん」
「小谷くんは、料理したりする?」
「簡単な物なら。けど、面倒だから基本しない」
「そ、そっか」

 彼はご飯を米粒一つ残さず綺麗に食べた。作る方としては、この上なく嬉しい事だ。

 相変わらず無愛想というか、ぶっきらぼうな物言いではあったけれど、表情は何だか嬉しそうに見えた気もする。

(喜んで貰えたみたいで良かった)

 昨日と今日共に時間を過ごしてみて、彼はなんて言うか、無愛想で不器用なだけで決して嫌な人ではないと改めて思えたし、これからもこうやって交流出来たらいいかもなんて密かに思ったりしていた。
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