近くて遠いキミとの距離

夏目萌

文字の大きさ
上 下
4 / 11
1

1

しおりを挟む
 201号室の住人が小谷くんだと分かってから数週間。

 あれ以来、今までは全く顔を合わせる機会がなかった筈なのにちょこちょこタイミングが被り、顔を合わせる日が増えた。

「おはよう、小谷くん」
「……ああ」

 彼から挨拶をしてくる事はないので基本私からしてみるものの、『おはよう』の四文字すら返さない。いつも『ああ』の二文字だけ。

(別にいいけどさ)

 特別仲良くなりたいとか、そういう訳じゃないからいいと言えばいいけど、いつかは『おはよう』と返ってくるかもなんて淡い期待を抱いてみたり。

 存在を認識すると、大学構内でもよく見掛けるようになった。

 そもそも一緒の学部で同じ学科を専攻しているから当然なのだけど杏子が言っていた通り、彼はいつも一人だった。

 講義中も殆ど寝ていてただ出席しているだけみたいだし、正直何の為に大学へ来ているのか疑問だったりする。

(まぁ、大学出の方が就職に有利だからかな?)

 私たちは文学部の国文学科という学科を専攻している。

 私の場合、どうして選んだのかと聞かれると考えが安易かもしれないけど、元から本が好きという事や昔から教科で『国語』『現文』『古典』という文系が得意だった事が挙げられると思う。

 それにこの学科は他にも、教育学、哲学や宗教学、日本語学なども学べる事から、目指せる職業も幅広い。公務員は勿論、作家、編集者、小中高それぞれの教諭などが人気だとオープンキャンパスの時には説明を受けた記憶がある。

 まだ大学に入ったばかりだから就職の事はあまり考えてはいないけど、好きな事を学んで幅が広がればと思っていた。

(小谷くんも、そういう職業目指してる……とか?  そう言えば、小谷くんって帰りは深夜になる事が多いよね)

 ここでこうして寝ているのは恐らく、深夜までバイトをしている為だと思う。

 私も週に何日かは深夜までバイトを入れているけれど、彼の場合はほぼ毎日と言ってもいい。

 いつだか私が深夜トイレに行く為に部屋を出た時に帰って来る事が何度かあったり、私も深夜までのバイトを終えて帰宅した際タイミングが被ったりした事があったから。

(そんなにお金が必要なのかな?  まぁ、私も人の事は言えないけど……)

 気付けば事ある毎に小谷くんについて考えている自分がいた。

(別に、深い意味は無いもの。好奇心からよ、うん。絶対そう!)

 どうして気になるのか、それは自分でも分からず不思議な感覚だった。


「葉月、今週末ってバイトだったりする?」

 ある日のお昼休み、食堂で杏子と杏子の知り合いの先輩で一学年上の宮野みやの  由奈ゆなさんの三人でお昼ご飯を食べていると、突然杏子が週末の予定を聞いてきた。

「ううん、今週末は久々に休みだよ」
「何か予定ある?」
「特には」

 という私の返答を聞いた杏子と由奈さんは見つめ合うとニヤリと笑みを浮かべ、「じゃあさ、合コン行こうよ!」と由奈さんが言った。

「合コン!?」

 今までそういったお誘いがなかったから、心底驚きを隠せない。

「あれ?  もしかして葉月ちゃん合コン初めて?」
「は、はい……」
「それなら今回デビューしちゃいなよ!」
「そうそう、合コンくらい今どき普通よ普通」
「は、はあ……」

 っていうか、そもそも私は恋愛経験自体なくて、『彼氏いない歴=年齢』というやつで、異性との関わりはほぼ無いのでちょっと苦手だったりする。

「相手は由奈さんの知り合いでエリート物件だよ!」
「そうよ、今回は結構当たりだと思うわ」
「で、でも……」

 折角の誘いではあるけど、私は内気で知らない人と話すのが苦手だし、何より『お金が勿体ない』と思ってしまう自分が何とも悲しい。

「ねぇ葉月、行こうよ~」
「そうだよ、葉月ちゃん可愛いんだから、自信持って!  出会いの場を大切にした方がいいよ~」
「う、うーん……」

 お誘いは有難いけど、やっぱり合コンは気が進まない。どう断ろうか半ば困り果てていると、

「ここ、いい?」

 定食のトレーを持った小谷くんが空いている私の隣の席を指差した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

正妃に選ばれましたが、妊娠しないのでいらないようです。

ララ
恋愛
正妃として選ばれた私。 しかし一向に妊娠しない私を見て、側妃が選ばれる。 最低最悪な悪女が。

【R18】鬼上司は今日も私に甘くない

白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。 逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー 法人営業部メンバー 鈴木梨沙:28歳 高濱暁人:35歳、法人営業部部長 相良くん:25歳、唯一の年下くん 久野さん:29歳、一個上の優しい先輩 藍沢さん:31歳、チーフ 武田さん:36歳、課長 加藤さん:30歳、法人営業部事務

セカンドラブ ー30歳目前に初めての彼が7年ぶりに現れてあの時よりちゃんと抱いてやるって⁉ 【完結】

remo
恋愛
橘 あおい、30歳目前。 干からびた生活が長すぎて、化石になりそう。このまま一生1人で生きていくのかな。 と思っていたら、 初めての相手に再会した。 柚木 紘弥。 忘れられない、初めての1度だけの彼。 【完結】ありがとうございました‼

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

最強総長様は白色の〇〇〇〇?

かしあ
恋愛
小さい頃、この容赦のせいで周りからいじめられてた…。 「初めて見る髪色、莉音って〇〇〇〇なんだよね??」 「う、うん」 「白色ってあまり見ない色で綺麗だね〜!」 両親を亡くした莉音を家族として出迎えてくれたのは佐野原家。 でも私の容赦のせいでまた同じ悲劇が起きたらどうしよう。 怯えてた莉音だけど、彼女は決意した。 二度と同じ悲劇が起きないように強くなろうと…。 そんな彼女の本当の姿とは??

旦那様、離婚しましょう

榎夜
恋愛
私と旦那は、いわゆる『白い結婚』というやつだ。 手を繋いだどころか、夜を共にしたこともありません。 ですが、とある時に浮気相手が懐妊した、との報告がありました。 なので邪魔者は消えさせてもらいますね *『旦那様、離婚しましょう~私は冒険者になるのでお構いなく!~』と登場人物は同じ 本当はこんな感じにしたかったのに主が詰め込みすぎて......

【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?

との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」 結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。 夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、 えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。 どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに? ーーーーーー 完結、予約投稿済みです。 R15は、今回も念の為

処理中です...