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再会
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クリスマスが終わると瞬く間に時間は過ぎ、年末年始を迎えて慌ただしい日常を送っていた真彩。
徐々に落ち着きを取り戻して一月も半ばに差し掛かった頃、理仁からある提案をされた。
「悠真を幼稚園に……ですか?」
「ああそうだ。悠真も毎日大人と過ごすより、同年代の子供と過ごす方が良いだろう。送迎は朔や手の空いてる組員に任せられるし、お前の手を煩わせる事もねぇ。どうだ?」
理仁の提案というのは、悠真を幼稚園に通わせるという事。
勿論、真彩もずっと考えていた事の一つだ。過去に保育園に通わせていたものの色々あって仕事も住まいも失った経緯もあり、経済的にも保育園に通わせる事が困難になって退園させてしまっている。
それ以降同年代の子供と過ごす機会は職探しの際預けていた託児所くらいのもの。
鬼龍家に来て朔太郎や他の組員たちが面倒を見てくれてはいるものの、やはり同年代と過ごす時間を作る事も大切だろう。
「悠真を知り合いが経営する園に通わせる事が出来る。お前さえ良ければ頼むが?」
「本当ですか? 是非、お願いします」
「そうか。早速話をつけておく。早ければ来月から通わせられると思うが、四月からの方がいいか?」
「いえ、早く通えるのであればすぐにでも。よろしくお願いします」
そして、それから数日が経った夜に正式に悠真の幼稚園入園が決定した。
最近は母親離れも出来ているし、幼稚園に通える事を喜ぶかと思っていた真彩だったのだけれど、
「ゆうま、いくのやだ」
幼稚園に通う事になったと告げるや否や、悠真は顔を顰めて幼稚園行きを嫌がった。
「お友達と遊べるよ?」
「さくとあそぶからいい」
「でもね、朔太郎くんもお仕事があるでしょ? いつまでも悠真とばかり遊んではいられないの。それに、悠真もそろそろお家以外で過ごす事に慣れなくちゃ駄目なのよ?」
「いや! ゆうまいかない!」
「あ、ちょっと、悠真!?」
真彩が幼稚園に通う大切さを話して聞かせてみたものの、行きたくないと言って聞く耳を持たない悠真は真彩から逃げるように離れて勢いよく部屋を出て行くと、
「おっと、悠真。走ると危ねぇぞ」
真彩に用のあった理仁が部屋を訪れ、危うくぶつかりそうになった所で悠真は抱き抱えられた。
「理仁さん、すみません。大丈夫でしたか?」
「ああ、問題ない。それよりも、何で悠真は不機嫌なんだ?」
「実は、幼稚園の話をしたら行くのを嫌がりまして……」
「そうか……悠真、ママと離れるのは嫌か?」
「うん……ママも、さくも、しょうも、りひとも……はなれるのいや……」
真彩から事の詳細を聞いた理仁が悠真に問い掛けると、泣きそうになりながら幼稚園に行きたがらない理由をぽつりぽつり話始めた。
どうやら悠真は家を離れて知らない人たちの中で過ごす事が不安なようなのだが、理仁はこの展開を予想していたようで、ある質問をする。
「悠真、それなら朔が一緒だったらどうだ?」
「さくもいっしょ?」
「そうだ。朔も一緒に幼稚園に行くなら行けるか?」
「……うん」
「分かった」
朔太郎も一緒にという意味がイマイチ理解出来ない真彩が不思議に思っていると、
「真彩、ちょっと来い」
悠真を抱いたまま理仁は真彩を呼び寄せ、ある場所へ向かって行く。
着いた先は離れにある建物で、理仁がドアを開けると、中には机に向かう朔太郎の姿があった。
「あれ? 三人揃ってどうしたんスか?」
「朔、来月からお前も園に行く事になった。園長に話はつけておく」
「ああ、やっぱりそうなりましたか。分かりました!」
理仁の話を聞いてすぐに状況を理解し、全てを納得した朔太郎。
「あ、あの……朔太郎くんも幼稚園にって、どういう事なんですか?」
離れに来て二人の話を聞いても全く理解出来ない真彩は理仁に問い掛けると、
「ああ、悪い。お前には話が見えねぇよな。実はな、少し前朔太郎に頼んで悠真が保育園や託児所に通ってた頃の話を聞いてもらってたんだが、話を聞く限り幼稚園行きを良く思わなさそうだったから、先手を打っておいた」
こうなった経緯を話し出した。
朔太郎が悠真に話を聞いたところによると、保育園や託児所に行っていた頃も、何度か行きたくないと思った出来事があったという。
それというのも他の園児たちが父親と遊んだ話をするからで、その話を聞いた理仁は幼稚園の話をすれば行きたがらないかもしれないと考えた。
そこで、どうすれば通ってくれるかを考えた時、いつも一緒に居る朔太郎が同じ空間に居れば通えるかもと思い、朔太郎には前もって話をして、悠真が幼稚園行きを嫌がったら『保育補助者』として園でアルバイトをする事になっていたのだ。
「――そういう訳で、朔太郎は来月から園でアルバイトをする」
「悠真の事は任せてください! 通っちゃえば案外楽しみになると思いますし、全然問題ないっスよ!」
「……ごめんね、悠真のせいで朔太郎くんにはいつも迷惑ばかりかけて……」
「いやいや、迷惑なんかじゃないっス! それに、理仁さんからはこれを機に資格も取得しろって言われたんで、今は通信講座で勉強もしてるんスよ」
「そうなの?」
「やってみると結構楽しいし、園でのアルバイトもプラスになると思うから俺自身も楽しんでくるので、姉さんが申し訳なく思う事はないっス!」
「うん、分かった。これからも悠真をよろしくお願いします。でも、無理だけはしないでね」
「丈夫が取り柄なんで、平気っス!」
「これで園の問題は一先ず解決だ。後で入園にあたって必要な書類の記入を頼むぞ、真彩」
「はい」
こうして入園問題は片付いたのだけど、悠真が幼稚園に通い始める事で真彩たちの運命が大きく変わっていく事を、この時はまだ誰も知る由も無かった。
徐々に落ち着きを取り戻して一月も半ばに差し掛かった頃、理仁からある提案をされた。
「悠真を幼稚園に……ですか?」
「ああそうだ。悠真も毎日大人と過ごすより、同年代の子供と過ごす方が良いだろう。送迎は朔や手の空いてる組員に任せられるし、お前の手を煩わせる事もねぇ。どうだ?」
理仁の提案というのは、悠真を幼稚園に通わせるという事。
勿論、真彩もずっと考えていた事の一つだ。過去に保育園に通わせていたものの色々あって仕事も住まいも失った経緯もあり、経済的にも保育園に通わせる事が困難になって退園させてしまっている。
それ以降同年代の子供と過ごす機会は職探しの際預けていた託児所くらいのもの。
鬼龍家に来て朔太郎や他の組員たちが面倒を見てくれてはいるものの、やはり同年代と過ごす時間を作る事も大切だろう。
「悠真を知り合いが経営する園に通わせる事が出来る。お前さえ良ければ頼むが?」
「本当ですか? 是非、お願いします」
「そうか。早速話をつけておく。早ければ来月から通わせられると思うが、四月からの方がいいか?」
「いえ、早く通えるのであればすぐにでも。よろしくお願いします」
そして、それから数日が経った夜に正式に悠真の幼稚園入園が決定した。
最近は母親離れも出来ているし、幼稚園に通える事を喜ぶかと思っていた真彩だったのだけれど、
「ゆうま、いくのやだ」
幼稚園に通う事になったと告げるや否や、悠真は顔を顰めて幼稚園行きを嫌がった。
「お友達と遊べるよ?」
「さくとあそぶからいい」
「でもね、朔太郎くんもお仕事があるでしょ? いつまでも悠真とばかり遊んではいられないの。それに、悠真もそろそろお家以外で過ごす事に慣れなくちゃ駄目なのよ?」
「いや! ゆうまいかない!」
「あ、ちょっと、悠真!?」
真彩が幼稚園に通う大切さを話して聞かせてみたものの、行きたくないと言って聞く耳を持たない悠真は真彩から逃げるように離れて勢いよく部屋を出て行くと、
「おっと、悠真。走ると危ねぇぞ」
真彩に用のあった理仁が部屋を訪れ、危うくぶつかりそうになった所で悠真は抱き抱えられた。
「理仁さん、すみません。大丈夫でしたか?」
「ああ、問題ない。それよりも、何で悠真は不機嫌なんだ?」
「実は、幼稚園の話をしたら行くのを嫌がりまして……」
「そうか……悠真、ママと離れるのは嫌か?」
「うん……ママも、さくも、しょうも、りひとも……はなれるのいや……」
真彩から事の詳細を聞いた理仁が悠真に問い掛けると、泣きそうになりながら幼稚園に行きたがらない理由をぽつりぽつり話始めた。
どうやら悠真は家を離れて知らない人たちの中で過ごす事が不安なようなのだが、理仁はこの展開を予想していたようで、ある質問をする。
「悠真、それなら朔が一緒だったらどうだ?」
「さくもいっしょ?」
「そうだ。朔も一緒に幼稚園に行くなら行けるか?」
「……うん」
「分かった」
朔太郎も一緒にという意味がイマイチ理解出来ない真彩が不思議に思っていると、
「真彩、ちょっと来い」
悠真を抱いたまま理仁は真彩を呼び寄せ、ある場所へ向かって行く。
着いた先は離れにある建物で、理仁がドアを開けると、中には机に向かう朔太郎の姿があった。
「あれ? 三人揃ってどうしたんスか?」
「朔、来月からお前も園に行く事になった。園長に話はつけておく」
「ああ、やっぱりそうなりましたか。分かりました!」
理仁の話を聞いてすぐに状況を理解し、全てを納得した朔太郎。
「あ、あの……朔太郎くんも幼稚園にって、どういう事なんですか?」
離れに来て二人の話を聞いても全く理解出来ない真彩は理仁に問い掛けると、
「ああ、悪い。お前には話が見えねぇよな。実はな、少し前朔太郎に頼んで悠真が保育園や託児所に通ってた頃の話を聞いてもらってたんだが、話を聞く限り幼稚園行きを良く思わなさそうだったから、先手を打っておいた」
こうなった経緯を話し出した。
朔太郎が悠真に話を聞いたところによると、保育園や託児所に行っていた頃も、何度か行きたくないと思った出来事があったという。
それというのも他の園児たちが父親と遊んだ話をするからで、その話を聞いた理仁は幼稚園の話をすれば行きたがらないかもしれないと考えた。
そこで、どうすれば通ってくれるかを考えた時、いつも一緒に居る朔太郎が同じ空間に居れば通えるかもと思い、朔太郎には前もって話をして、悠真が幼稚園行きを嫌がったら『保育補助者』として園でアルバイトをする事になっていたのだ。
「――そういう訳で、朔太郎は来月から園でアルバイトをする」
「悠真の事は任せてください! 通っちゃえば案外楽しみになると思いますし、全然問題ないっスよ!」
「……ごめんね、悠真のせいで朔太郎くんにはいつも迷惑ばかりかけて……」
「いやいや、迷惑なんかじゃないっス! それに、理仁さんからはこれを機に資格も取得しろって言われたんで、今は通信講座で勉強もしてるんスよ」
「そうなの?」
「やってみると結構楽しいし、園でのアルバイトもプラスになると思うから俺自身も楽しんでくるので、姉さんが申し訳なく思う事はないっス!」
「うん、分かった。これからも悠真をよろしくお願いします。でも、無理だけはしないでね」
「丈夫が取り柄なんで、平気っス!」
「これで園の問題は一先ず解決だ。後で入園にあたって必要な書類の記入を頼むぞ、真彩」
「はい」
こうして入園問題は片付いたのだけど、悠真が幼稚園に通い始める事で真彩たちの運命が大きく変わっていく事を、この時はまだ誰も知る由も無かった。
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