恋人以上、恋愛未満

右左山桃

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3章 恋の証明

36 雅の独白 懐かしい声・1

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しっかし、まぁ。
やっぱり、というか何というか。


「本郷さんは知ってるんだね。美亜のことも……」

「もちろんです」

「それで?」

「はい?」

「本郷さんは、美亜についての何をどこまで知ってるの?」

「おおまかな人物像は把握しておりますよ。雅さんが社長に連れ戻されるまで同棲していた彼女ですからね」


そうだね。
これは本郷さんが俺を調べあげる上で知り得る情報だし?
美亜のことを知っていたとしても不思議じゃない。
そうだとしても。


「俺、今まで美亜に未練があるとこなんて見せたことあった?」

「いいえ」

「だったら……」

「微塵も興味のないフリをしているお姿に、ずっと感心しておりました」

「…………」


煽ってくる本郷さんに、俺は顔の筋肉を動かさず淡々と言葉を返した。


「……今更、別れた彼女と結婚したいなんて思わないんじゃない?」

「違うんですか?」

「美亜にだって新しい彼氏がいるよ」

「それ。自分で言ってて傷つきませんか」

「…………」


そうだよ。
そんな未来は考えたくもない。
でも、それでも今度こそは。


「きっと、やっと平穏に暮らしてる。変な憶測で彼女に迷惑かけないで!」


美亜を守らなければならない。
そのために負う傷なんて厭わない。
結局、仕事上では理解しあえても敵なんだ。
美亜のことに関しては、親父もこの人も。


「…………雅さん……」


今までにないくらいきつい口調で忠告すれば、本郷さんはビクリと肩を震わせて悲しそうな顔になった。


「すみません……。そうですよね。今までのことを考えれば、頑な態度にもなりますよね。……ですが、そろそろ認めてしまっても良い頃合いではないでしょうか? 悲願を達成なさるのですし……」

「…………」


それも知ってるんだ。
……当たり前か。


「社長に『本当に従順に俺に従うんだな? だったら営業成績で部内トップを取ってみせろ』と言われて、今月本当に達成するのですから」

 「…………」

 「営業部門に配属されてまだ1年……すごいことですよ? この頑張りで、十分彼女への気持ちが本気であることは社長に伝えられると思います」

 「…………」


口を開きかけて、でも反論する言葉が出なくてまた噤む。
本気で怒っている俺に怯みながらも、俺の美亜への気持ちに確信を持っている本郷さんには何を言っても無駄な気がした。
本郷さんから指摘されたぐらいだ。
今は黙って泳がせてくれているけど、俺の考えていることなんて親父にもバレバレなんだろう。


「……そうだよ。絶対、美亜のこと認めさせてやる。そして、二度と傷つけるような発言はしないって誓わせるんだから……」


本郷さんを睨みながら口では言うものの、頭の中は、ずっと隠し通した気持ちをあっさり認めたことに自分でびっくりしていた。
何ぶっちゃけちゃってるの!?
もっと伝えるタイミングを慎重に選ぶべきだったんじゃないの!?
もうひとりの自分がすごい勢いで罵ってきたけど、本郷さんは悪ふざけが過ぎても俺と親父の関係が悪化するようなことは望んでいない。
そんなの本郷さんに何のメリットもない。
だから大丈夫……と、無理矢理前向きな気持ちに切り替える。
認めたことを後悔しない訳じゃないけど、いい加減、ひとりで美亜への不毛な気持ちを抱き続けることに疲れたんだと思う。


「俺を効率よく動かせる条件なら親父は乗ってくると思ったんだよ。なんでもかんでも親父の言いなりになっているのは嫌だったし」

「……それは……内心、社長は頭を抱えたことでしょう……」

「あの人、あれでも約束は守るからね。焦っていたと思うよ」


本郷さんは親父の焦る姿でも想像したのか、面白そうに「ふ……」と笑う。


「それでは……。長かったですよね……今まで」

「……まぁ……」

「誘惑は色々あったでしょう」

「ないよ。そんなの」

「……鈍感ですか」

「だからさぁ、あの父親だよ? 誰を好きになっても同じだから」

「口で言うほど、本当にそうだとは思ってないですよね。『当分恋愛はいい、どうせ別れさせられるから』と、私には仰いますけど。違うんでしょう? ずっと、諦められない人がいるからなんでしょう?」

「…………」


諦めないことが美徳だとは思わない。
新しい一歩を踏み出す足かせにだってなりかねないから。
俺が起こそうとしている行動が、俺にとって、美亜にとって、正しいことなのか自信が持てない。
別れてから時間が経ちすぎた。
魅力的な女の子だし、新しい恋人ができていたって全然不思議じゃない。

いつか迎えに?
バカバカしい。
そんな夢みたいな願望を持ち続けたって、虚しいだけだよ。
そう思いながらも、捨てきれなかった願いがあった。
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