二次元だって、裏切ります

若目

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要エリカについて

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「料理のおまけで限定のシールとかコースターとか貰えるみたいだけど、それだけのためにこれだけ払うの?こんなペラペラで見るからに安っぽいグッズのために?わざわざ電車や車で来て?わざわざ予約して行列に並んで?」
編集者が資料をめくって、新しいページを開いた。

「ええ」
「物好きがいるもんだねえ」
編集者は呆れたようにクスクス笑った。





「ところで、コレの原作描いた要エリカって人、デビューはいつだっけ?」
編集者が資料を片手に持ったまま尋ねてくる。

「2010年です。今から15年前ですね。デビュー作のタイトルは「ナイン」。『月刊ファンタジア』の新人漫画大賞佳作に選ばれたことが漫画家デビューのきっかけ。当時、現役高校生でした」

「高校生?それなら、当時は結構に騒がれたんじゃないの?」
編集者が顔を上げた。

「ううん、そうでもないみたいです。漫画家の世界では、高校生デビューってよくあることらしいから。それに、デビュー当時はヒット作に恵まれてなくて、ほとんど読み切り専門だったみたいですよ」

「売れない漫画家だったわけだ。まあでも、大半はそうだよね。ミュージシャンでも役者でもお笑い芸人でも。駆け出しの頃はみんなそう」

「ええ。それで、出世作はこの月刊ファンタジアで連載されてた「ブラック・サーヴァント」で、それは35巻で完結。それの連載中に「ダークサイド・ストーリー」の原案とキャラクターデザイン担当に抜擢されてます」

「漫画家やイラストレーターとしてはそこそこの出世コースですよね。ところがこのゲーム、あっという間に終わってしまったわけだ。どうしたわけか人気の絶頂だったときに」

「そうです。終わった原因は諸説あって、どれが正しいかは現在模索中ってところですねー」
真紀子はもう一度、エディターズバッグからペットボトルを取り出すと、ミネラルウォーターを一口飲んだ。

「諸説っていうと、どういうのがあるんです?」
「運営や配信会社と揉めたパターンです。ダクストは運営も配信元も大手だったんですけど、スケジュールや報酬の面でトラブルになって、要エリカ側が逃げたって話があります」

「ふーん。ほかには?」
編集者がまた資料に目を通す。

「過労説。さっきスケジュールで揉めたって言ってましたけど、そのスケジュールがなかなかハードだったそうで。要エリカはダクストのほかに「ブラック・サーヴァント」の連載抱えてたんです。その連載自体はダクストの配信中に無事に終わりましたけど、その中で細かいカット描きの仕事が入ることもあったし。マンガ家は基本的に「忙しいから」で仕事を断れないみたいです」

「みたいですねえ。月刊ファンタジアは専属契約じゃないらしいし、漫画家って基本はフリーランスみたいなもんだから、かなりの大物でもないと断ったら次に仕事もらえるかわからなくて、引き受けざるを得ないって聞いたことありますよ」
資料からほとんど顔を上げずに、編集者はマキナの説明を反芻した。

「それで倒れてメンタルにも支障が出たってことでマンガ家辞めたって説があります。あと、ファンとかアンチからの嫌がらせ説」

「ファンからの嫌がらせ?」
編集者の顔が、ガバッと勢いよく上がった。
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