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洗い合い
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直生はボディスポンジを片手に持つと、総治郎をバスチェアに座らせて、背後に回った。
「力加減いかがですか?」
直生がボディソープを浸したスポンジを、背中のうえで上下左右に動かす。
「ちょうどいいよ。ありがとう」
泣いた子をあやすような優しい手つきに、総治郎はすっかりリラックスしていた。
思えば、誰かにこうされたことも何年ぶりのことであろうか。
「ねえ、スポンジじゃなくて胸にボディソープつけて背中洗いましょうか?動画でそういうの見たんです」
直生がクスクス笑う。
「きみはそうやって要らんことばかり覚えて…」
直生が言っているのは、アダルト動画なんかでよく見る「ボディ洗い」とかいうヤツのことだろう。
悲しいかな、すでに50歳とはいえ総治郎も男なので、1回ぐらいは体験してみたいという気持ちはある。
そうか、じゃあやってみてくれ。
そんな言葉が、うっかり口から出そうになった。
アレを現実でやってもらうのは、さすがにちょっと恥ずかしいし抵抗があるので、総治郎はグッと唇を噛み締めて、うっかり口が滑らないように堪えた。
「……もう充分だ、そろそろ流そう。きみは先に湯船に浸かりなさい」
総治郎はなんとか話題を逸らした。
「はあい」
教師から軽い注意を受けた学生みたいな返事をすると、直生は言われた通りにバスタブに入った。
直生の動きに合わせて、バスタブの水面がゆらゆら揺れる。
「ねえ、ここのバスタブ、広くていいですね。うちのは狭かったんですよ」
体を洗う総治郎を見つめながら、直生が微笑む。
「そうか?というか、意外だな。あんな大きな家だから、風呂も広くて大きいものだと思ってた」
総治郎が体をついた泡を流しながら答える。
「うーん、大きな家っていっても、ほとんどはお客様用と従業員用だから、私たち家族の住居スペースは狭いんですよ。だからお風呂も狭くて、だいたいは家族で順番にひとりずつ入ってたんです」
「なるほど」
花比良家は大きな家で優雅に暮らしているイメージがあったので、意外だった。
思えば、結婚してからというもの、花比良家に挨拶に行っていない。
これからのことを考えると、一度くらい挨拶すべきであろう。
総治郎は頭を洗いながら、子どもができた際の挨拶を考えた。
「それでも、お父さまとお母さまは一緒に入りたがるんですよ。大人ふたりが同時に入るもんだから、湯船がバーっと出ちゃうんです。笑っちゃうでしょ、いい歳して」
口ではそう言うが、直生は何やら嬉しそうだ。
なんだかんだ言っても、両親が大好きなのだろう。
「夫婦仲が良くて、いいことじゃないか」
「まあ、そうですよね。私も弟が小さいときは一緒に入ってました。でも、弟が中学校上がったら、ひとりで入るようになっちゃいましたね。拒否されたときは、ちょっと寂しかったなあ」
直生が懐かしげに語る。
そういえば直生には弟がいた。
結婚式以来、一度も会っていないし、この弟にも挨拶しておくべきであろう。
総治郎は髪についた泡を流しながら、挨拶の言葉を考えていた。
「ほら、総治郎さん、入ってください」
直生がバスタブの片側に寄って、隙間を作った。
「ああ」
促されるままに総治郎がバスタブに入ると、中に張られていたお湯の水位が上がっていき、あっという間に溢れた。
こんなやりとりにも、もうすっかり慣れてしまった。
「力加減いかがですか?」
直生がボディソープを浸したスポンジを、背中のうえで上下左右に動かす。
「ちょうどいいよ。ありがとう」
泣いた子をあやすような優しい手つきに、総治郎はすっかりリラックスしていた。
思えば、誰かにこうされたことも何年ぶりのことであろうか。
「ねえ、スポンジじゃなくて胸にボディソープつけて背中洗いましょうか?動画でそういうの見たんです」
直生がクスクス笑う。
「きみはそうやって要らんことばかり覚えて…」
直生が言っているのは、アダルト動画なんかでよく見る「ボディ洗い」とかいうヤツのことだろう。
悲しいかな、すでに50歳とはいえ総治郎も男なので、1回ぐらいは体験してみたいという気持ちはある。
そうか、じゃあやってみてくれ。
そんな言葉が、うっかり口から出そうになった。
アレを現実でやってもらうのは、さすがにちょっと恥ずかしいし抵抗があるので、総治郎はグッと唇を噛み締めて、うっかり口が滑らないように堪えた。
「……もう充分だ、そろそろ流そう。きみは先に湯船に浸かりなさい」
総治郎はなんとか話題を逸らした。
「はあい」
教師から軽い注意を受けた学生みたいな返事をすると、直生は言われた通りにバスタブに入った。
直生の動きに合わせて、バスタブの水面がゆらゆら揺れる。
「ねえ、ここのバスタブ、広くていいですね。うちのは狭かったんですよ」
体を洗う総治郎を見つめながら、直生が微笑む。
「そうか?というか、意外だな。あんな大きな家だから、風呂も広くて大きいものだと思ってた」
総治郎が体をついた泡を流しながら答える。
「うーん、大きな家っていっても、ほとんどはお客様用と従業員用だから、私たち家族の住居スペースは狭いんですよ。だからお風呂も狭くて、だいたいは家族で順番にひとりずつ入ってたんです」
「なるほど」
花比良家は大きな家で優雅に暮らしているイメージがあったので、意外だった。
思えば、結婚してからというもの、花比良家に挨拶に行っていない。
これからのことを考えると、一度くらい挨拶すべきであろう。
総治郎は頭を洗いながら、子どもができた際の挨拶を考えた。
「それでも、お父さまとお母さまは一緒に入りたがるんですよ。大人ふたりが同時に入るもんだから、湯船がバーっと出ちゃうんです。笑っちゃうでしょ、いい歳して」
口ではそう言うが、直生は何やら嬉しそうだ。
なんだかんだ言っても、両親が大好きなのだろう。
「夫婦仲が良くて、いいことじゃないか」
「まあ、そうですよね。私も弟が小さいときは一緒に入ってました。でも、弟が中学校上がったら、ひとりで入るようになっちゃいましたね。拒否されたときは、ちょっと寂しかったなあ」
直生が懐かしげに語る。
そういえば直生には弟がいた。
結婚式以来、一度も会っていないし、この弟にも挨拶しておくべきであろう。
総治郎は髪についた泡を流しながら、挨拶の言葉を考えていた。
「ほら、総治郎さん、入ってください」
直生がバスタブの片側に寄って、隙間を作った。
「ああ」
促されるままに総治郎がバスタブに入ると、中に張られていたお湯の水位が上がっていき、あっという間に溢れた。
こんなやりとりにも、もうすっかり慣れてしまった。
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