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半田

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「ああ、すごかったあ…」
直生が切なげにため息を吐くと、シーツの上にばたりと寝転んだ。
寝転んだと同時に、ふーっと大きなため息を吐いて、額や頬に広がった汗を拭った。

「総治郎さん、私、シャワー浴びてきますね。もう、体中びしょびしょだし」
「わかった。それは脱ぎなさい、片付けといてやる」
総治郎に指示されるまま、直生はトレーニングシャツとブルマ、下着、靴下を脱いで、生まれたままの姿になった。

「じゃあ、先にお湯貰いますね」
言うと直生は、シャワールームに消えていった。
「ああ」



直生の背中を見送った後、総治郎はふと、このホテルを紹介してくれた経営者のことを思い出した。

ベータだてらに数百件ものホテルを経営する会社社長で、間中の紹介を通じて知り合った男だった。
名前は確か半田はんだといった。

彼と出会ったのは、数年前に催された経営者同士の交流会。
当時、彼はまだ30代の若い男で、そのとき総治郎は、会長になってしばらく経ったときのことだった。


「あ…成上さん、はじめまして」
半田はためらいがちに、総治郎に挨拶した。
自分より立場の高い相手を前に、緊張しているのだろう。

「はじめまして、半田くん、だったかな?」
総治郎は懐から名刺を出した。
半田はそれを受け取ると、スムーズに胸ポケットに入れた。
「はい、半田です。今後とも、よろしくお願いします」
半田も同じように、名刺を取り出した。
総治郎も半田と同じように名刺を受け取って、胸ポケットに入れる。

「半田くん、成上さんに"お近づきのしるし"は渡さないのかい?」
総治郎と半田のやりとりを見ていた間中が、クスクス笑いながらやって来た。

「え…いや…」
半田は苦笑いとも、困っているともいったような、なんともいえない顔で間中を見た。

「安心なさい。成上さんは"アレ”を渡したところで、憤慨するような人じゃないから」
間中が、生徒の扱いに慣れた中年教師のように穏やかに、半田の肩に優しく触れた。

総治郎が、いったいどういうことだろうと疑問符を浮かべていると、半田は懐に手を入れてゴソゴソ動かしてから、白い長型4号の封筒を取り出した。

「それは?」
「あー…えっと、私が経営しているホテルの無料券です」
半田はためらいがちに答えた。
半田が経営しているホテルというのは、ラブホテルのことである。

なるほど、ある程度気の知れた相手なら、こんなプレゼントでも笑って喜ばれるだろうが、初対面で立場がはるか上の相手となると、ためらいが生まれるわけだ。

半田の態度が、遠慮がちなのは、そういうことなのだ。

「ありがとう、半田くん。ありがたくいただくよ」
そんな半田の態度に、総治郎はなんだか懐かしい気分になった。
自分も企業したばかりのときは、目上の相手に対してこんな調子だった。


「こんな商売してるような私ですが、よろしくお願いします」
謙虚なような、自虐的なような口ぶりで、半田は改めて総治郎に挨拶した。

「半田くん、どんな商売であっても、成功させたのだから、立派なことじゃないか。誇るべきだよ」
総治郎が笑いかけると、半田は教諭に褒められた園児のように、照れ臭そうに「ふふ」と微笑んだ。
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