56 / 82
半田
しおりを挟む
「ああ、すごかったあ…」
直生が切なげにため息を吐くと、シーツの上にばたりと寝転んだ。
寝転んだと同時に、ふーっと大きなため息を吐いて、額や頬に広がった汗を拭った。
「総治郎さん、私、シャワー浴びてきますね。もう、体中びしょびしょだし」
「わかった。それは脱ぎなさい、片付けといてやる」
総治郎に指示されるまま、直生はトレーニングシャツとブルマ、下着、靴下を脱いで、生まれたままの姿になった。
「じゃあ、先にお湯貰いますね」
言うと直生は、シャワールームに消えていった。
「ああ」
直生の背中を見送った後、総治郎はふと、このホテルを紹介してくれた経営者のことを思い出した。
ベータだてらに数百件ものホテルを経営する会社社長で、間中の紹介を通じて知り合った男だった。
名前は確か半田といった。
彼と出会ったのは、数年前に催された経営者同士の交流会。
当時、彼はまだ30代の若い男で、そのとき総治郎は、会長になってしばらく経ったときのことだった。
「あ…成上さん、はじめまして」
半田はためらいがちに、総治郎に挨拶した。
自分より立場の高い相手を前に、緊張しているのだろう。
「はじめまして、半田くん、だったかな?」
総治郎は懐から名刺を出した。
半田はそれを受け取ると、スムーズに胸ポケットに入れた。
「はい、半田です。今後とも、よろしくお願いします」
半田も同じように、名刺を取り出した。
総治郎も半田と同じように名刺を受け取って、胸ポケットに入れる。
「半田くん、成上さんに"お近づきのしるし"は渡さないのかい?」
総治郎と半田のやりとりを見ていた間中が、クスクス笑いながらやって来た。
「え…いや…」
半田は苦笑いとも、困っているともいったような、なんともいえない顔で間中を見た。
「安心なさい。成上さんは"アレ”を渡したところで、憤慨するような人じゃないから」
間中が、生徒の扱いに慣れた中年教師のように穏やかに、半田の肩に優しく触れた。
総治郎が、いったいどういうことだろうと疑問符を浮かべていると、半田は懐に手を入れてゴソゴソ動かしてから、白い長型4号の封筒を取り出した。
「それは?」
「あー…えっと、私が経営しているホテルの無料券です」
半田はためらいがちに答えた。
半田が経営しているホテルというのは、ラブホテルのことである。
なるほど、ある程度気の知れた相手なら、こんなプレゼントでも笑って喜ばれるだろうが、初対面で立場がはるか上の相手となると、ためらいが生まれるわけだ。
半田の態度が、遠慮がちなのは、そういうことなのだ。
「ありがとう、半田くん。ありがたくいただくよ」
そんな半田の態度に、総治郎はなんだか懐かしい気分になった。
自分も企業したばかりのときは、目上の相手に対してこんな調子だった。
「こんな商売してるような私ですが、よろしくお願いします」
謙虚なような、自虐的なような口ぶりで、半田は改めて総治郎に挨拶した。
「半田くん、どんな商売であっても、成功させたのだから、立派なことじゃないか。誇るべきだよ」
総治郎が笑いかけると、半田は教諭に褒められた園児のように、照れ臭そうに「ふふ」と微笑んだ。
直生が切なげにため息を吐くと、シーツの上にばたりと寝転んだ。
寝転んだと同時に、ふーっと大きなため息を吐いて、額や頬に広がった汗を拭った。
「総治郎さん、私、シャワー浴びてきますね。もう、体中びしょびしょだし」
「わかった。それは脱ぎなさい、片付けといてやる」
総治郎に指示されるまま、直生はトレーニングシャツとブルマ、下着、靴下を脱いで、生まれたままの姿になった。
「じゃあ、先にお湯貰いますね」
言うと直生は、シャワールームに消えていった。
「ああ」
直生の背中を見送った後、総治郎はふと、このホテルを紹介してくれた経営者のことを思い出した。
ベータだてらに数百件ものホテルを経営する会社社長で、間中の紹介を通じて知り合った男だった。
名前は確か半田といった。
彼と出会ったのは、数年前に催された経営者同士の交流会。
当時、彼はまだ30代の若い男で、そのとき総治郎は、会長になってしばらく経ったときのことだった。
「あ…成上さん、はじめまして」
半田はためらいがちに、総治郎に挨拶した。
自分より立場の高い相手を前に、緊張しているのだろう。
「はじめまして、半田くん、だったかな?」
総治郎は懐から名刺を出した。
半田はそれを受け取ると、スムーズに胸ポケットに入れた。
「はい、半田です。今後とも、よろしくお願いします」
半田も同じように、名刺を取り出した。
総治郎も半田と同じように名刺を受け取って、胸ポケットに入れる。
「半田くん、成上さんに"お近づきのしるし"は渡さないのかい?」
総治郎と半田のやりとりを見ていた間中が、クスクス笑いながらやって来た。
「え…いや…」
半田は苦笑いとも、困っているともいったような、なんともいえない顔で間中を見た。
「安心なさい。成上さんは"アレ”を渡したところで、憤慨するような人じゃないから」
間中が、生徒の扱いに慣れた中年教師のように穏やかに、半田の肩に優しく触れた。
総治郎が、いったいどういうことだろうと疑問符を浮かべていると、半田は懐に手を入れてゴソゴソ動かしてから、白い長型4号の封筒を取り出した。
「それは?」
「あー…えっと、私が経営しているホテルの無料券です」
半田はためらいがちに答えた。
半田が経営しているホテルというのは、ラブホテルのことである。
なるほど、ある程度気の知れた相手なら、こんなプレゼントでも笑って喜ばれるだろうが、初対面で立場がはるか上の相手となると、ためらいが生まれるわけだ。
半田の態度が、遠慮がちなのは、そういうことなのだ。
「ありがとう、半田くん。ありがたくいただくよ」
そんな半田の態度に、総治郎はなんだか懐かしい気分になった。
自分も企業したばかりのときは、目上の相手に対してこんな調子だった。
「こんな商売してるような私ですが、よろしくお願いします」
謙虚なような、自虐的なような口ぶりで、半田は改めて総治郎に挨拶した。
「半田くん、どんな商売であっても、成功させたのだから、立派なことじゃないか。誇るべきだよ」
総治郎が笑いかけると、半田は教諭に褒められた園児のように、照れ臭そうに「ふふ」と微笑んだ。
0
お気に入りに追加
228
あなたにおすすめの小説
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(10/21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
※4月18日、完結しました。ありがとうございました。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる