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映画館で手遊び※
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管理人に話をつけた翌週の土曜日の午前、貞と国彦はミニバンに乗ってA市の中心地にあるショッピングモールに向かっていた。
助手席に座った国彦は貞が買ったコート、トレーナー、ジーンズ、スニーカー、立体マスクを身につけ、スマートフォンゲームに夢中になっていた。
拐ってきたときに取り上げた国彦の荷物はもう返されていた。
というのも、国彦が家中を掃除したとき、クローゼットの奥に隠していたのを発見したからだ。
スマートフォンを返すのには抵抗があったが、国彦に「いざってときに連絡取れない方が困るよ」などと言われては、反論などできなかった。
そういった経緯から、貞は国彦に自分の連絡先を教えることになった。
今日、ショッピングモールに来たのは、国彦の希望で映画を見に行くためだった。
このところ、仕事が立て込んでいて休みなく働いていたせいで、近所のコンビニさえ連れて行く時間の余裕もなかった。
そんな状況でも文句ひとつ言わず、「こないだみたいに倒れないでね」と心配までしてくれる国彦の様子に、貞はますます愛おしさが込み上げた。
同時に申し訳なさも感じて、詫びる気持ちも生まれてくる。
埋め合わせをするつもりで、どこか行きたいところはないかと聞くと、いつも読んでいる少年マンガの劇場版を見に行きたいと言ってきた。
それならお安い御用、とショッピングモールに併設されている映画館で鑑賞することとなった。
ショッピングモールの駐車場にミニバンを停めると、まだ空きがたくさんあった。
混雑を避けるため、午前中に出発して正解だった。
「着いたぞ国彦、あ、映画終わったら服を買おう。今あるヤツだけじゃ足りないだろ。」
貞は車のキーを抜き取ると、シートベルトを外した。
「別にいいよ。めったに外に出ないし、服ってそんなに要る?」
国彦がスマートフォンをポケットにしまって、シートベルトを外す。
ショッピングセンターで売っているような服しか買い与えていないのに、国彦はそれに対して何も言ってこない。
今まで付き合った女は、このあたりでアレ買ってコレ買ってと強請ることが多かった。
それだけに、貞は国彦の欲の無さがますます可愛く感じられた。
「春物の服だよ。そろそろ暖かくなるから、それ用の服を買っとかないとな。」
「あ、そっか、そうだね。」
国彦が納得したような顔をした。
映画館に入ると、思ったより人がたくさんいて、チケットを買うのに少し手間取った。
「国彦、ポップコーン買うか?チュロスとか、クッキーもあるぞ。」
思えば、映画館などここ何年も行っていない。
ポップコーンやジュースの他にもいろいろ売っているのを見て、その品数の多さに関心した。
若者の映画離れを食い止めようと、あれこれ工夫した結果かもしれない。
ポップコーンだけでも相当な数のフレーバーがそろっている。
「うーん、何食べようかなあ?おじちゃんは?」
「このコンソメ味のポップコーンうまそうだな。」
「それにするの?」
「うん、ただ、量が多いな。食い切れないかもしれない。」
若者向けに作られたのであろうそれは、一番小さいサイズのカップでも貞が食べると胸やけしそうな量が入っている。
「じゃあ、オレとシェアして食べる?おじちゃんが残した分、オレが食べるよ。」
「ああ、じゃあ、そうしよう。お前は食べたいもの決まってるのか?」
「うん!」
国彦はコーラ、量り売りされているクッキー100グラム、チキンナゲット、チュロスを選んだ。
貞はウーロン茶とコンソメ味のポップコーンを選び、指定された劇場へ入っていく。
劇場内は家族連れが多く、子どもの声が騒がしかった。
40歳の男と10代の少年が2人で映画を見に行く、というのは他人から見たらどう映るのだろう。
不審がられるのではないか、と今さら不安を感じているうち、劇場内が暗転してスクリーンに絵が映し出された。
スクリーンいっぱいに、日本刀を持った少年たちが戦っている。
戦場は列車の中で、主人公たちはリーダー格の青年に倣うかたちで戦い続けていた。
──血がたくさん出てるし、気持ち悪い化け物も出ているのに。子どもは怖くないのかな?
原作のマンガは読んでいたが、やはり面白いとは思えない。
一方、国彦は何かに取り憑かれたかのように、視線がスクリーンに釘付けになっている。
せっかく買ったクッキーもチキンナゲットも全く減ってない。
退屈した貞は、ちょっとしたイタズラを思いついた。
暗がりの中、隣に座っている国彦の腿に手を置き、股まで這わせていくと、指先で優しく撫でさすった。
「やだ、おじちゃんのエッチ。」
国彦が貞の手首を掴んで、軽く睨んだ。
「帰ったら、たっぷり可愛がってやる。」
貞がほくそ笑むと、国彦は赤面した。
助手席に座った国彦は貞が買ったコート、トレーナー、ジーンズ、スニーカー、立体マスクを身につけ、スマートフォンゲームに夢中になっていた。
拐ってきたときに取り上げた国彦の荷物はもう返されていた。
というのも、国彦が家中を掃除したとき、クローゼットの奥に隠していたのを発見したからだ。
スマートフォンを返すのには抵抗があったが、国彦に「いざってときに連絡取れない方が困るよ」などと言われては、反論などできなかった。
そういった経緯から、貞は国彦に自分の連絡先を教えることになった。
今日、ショッピングモールに来たのは、国彦の希望で映画を見に行くためだった。
このところ、仕事が立て込んでいて休みなく働いていたせいで、近所のコンビニさえ連れて行く時間の余裕もなかった。
そんな状況でも文句ひとつ言わず、「こないだみたいに倒れないでね」と心配までしてくれる国彦の様子に、貞はますます愛おしさが込み上げた。
同時に申し訳なさも感じて、詫びる気持ちも生まれてくる。
埋め合わせをするつもりで、どこか行きたいところはないかと聞くと、いつも読んでいる少年マンガの劇場版を見に行きたいと言ってきた。
それならお安い御用、とショッピングモールに併設されている映画館で鑑賞することとなった。
ショッピングモールの駐車場にミニバンを停めると、まだ空きがたくさんあった。
混雑を避けるため、午前中に出発して正解だった。
「着いたぞ国彦、あ、映画終わったら服を買おう。今あるヤツだけじゃ足りないだろ。」
貞は車のキーを抜き取ると、シートベルトを外した。
「別にいいよ。めったに外に出ないし、服ってそんなに要る?」
国彦がスマートフォンをポケットにしまって、シートベルトを外す。
ショッピングセンターで売っているような服しか買い与えていないのに、国彦はそれに対して何も言ってこない。
今まで付き合った女は、このあたりでアレ買ってコレ買ってと強請ることが多かった。
それだけに、貞は国彦の欲の無さがますます可愛く感じられた。
「春物の服だよ。そろそろ暖かくなるから、それ用の服を買っとかないとな。」
「あ、そっか、そうだね。」
国彦が納得したような顔をした。
映画館に入ると、思ったより人がたくさんいて、チケットを買うのに少し手間取った。
「国彦、ポップコーン買うか?チュロスとか、クッキーもあるぞ。」
思えば、映画館などここ何年も行っていない。
ポップコーンやジュースの他にもいろいろ売っているのを見て、その品数の多さに関心した。
若者の映画離れを食い止めようと、あれこれ工夫した結果かもしれない。
ポップコーンだけでも相当な数のフレーバーがそろっている。
「うーん、何食べようかなあ?おじちゃんは?」
「このコンソメ味のポップコーンうまそうだな。」
「それにするの?」
「うん、ただ、量が多いな。食い切れないかもしれない。」
若者向けに作られたのであろうそれは、一番小さいサイズのカップでも貞が食べると胸やけしそうな量が入っている。
「じゃあ、オレとシェアして食べる?おじちゃんが残した分、オレが食べるよ。」
「ああ、じゃあ、そうしよう。お前は食べたいもの決まってるのか?」
「うん!」
国彦はコーラ、量り売りされているクッキー100グラム、チキンナゲット、チュロスを選んだ。
貞はウーロン茶とコンソメ味のポップコーンを選び、指定された劇場へ入っていく。
劇場内は家族連れが多く、子どもの声が騒がしかった。
40歳の男と10代の少年が2人で映画を見に行く、というのは他人から見たらどう映るのだろう。
不審がられるのではないか、と今さら不安を感じているうち、劇場内が暗転してスクリーンに絵が映し出された。
スクリーンいっぱいに、日本刀を持った少年たちが戦っている。
戦場は列車の中で、主人公たちはリーダー格の青年に倣うかたちで戦い続けていた。
──血がたくさん出てるし、気持ち悪い化け物も出ているのに。子どもは怖くないのかな?
原作のマンガは読んでいたが、やはり面白いとは思えない。
一方、国彦は何かに取り憑かれたかのように、視線がスクリーンに釘付けになっている。
せっかく買ったクッキーもチキンナゲットも全く減ってない。
退屈した貞は、ちょっとしたイタズラを思いついた。
暗がりの中、隣に座っている国彦の腿に手を置き、股まで這わせていくと、指先で優しく撫でさすった。
「やだ、おじちゃんのエッチ。」
国彦が貞の手首を掴んで、軽く睨んだ。
「帰ったら、たっぷり可愛がってやる。」
貞がほくそ笑むと、国彦は赤面した。
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