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喧騒と収束
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「おい、待て!待てったら!このくそったれ!」
地べたに這いつくばったまま、自分を置いて去っていく馬車に向かって、ピノキオは悪態をつき続けた。
後で聞いた話なのだけど、溺れた男の子はこの町の人間ではなく、訳あってこの町にやってきたどこぞの金持ちのご子息様だったのだという。
乗っていた馬車はなかなか凝った装飾であったし、男の子が着ていた服もなかなか上等なものであったから、それを聞いて少しばかり納得いった。
しかし、全てに納得がいったわけではない。
こんなこと、納得できるわけがない。
金持ちの悪ガキが言いつけを破って湖に近づいたりしなければ、悪ガキの親が自分の子どもから目を離したりしなければ、ジェペットは死ななかったはずだ。
ピノキオの怒りの原因はそれだけではない。
悪ガキの親は、我が子を救助したジェペットになどろくに見向きもせずに、自分の子どもだけを馬車に乗せると、颯爽とどこかに行ってしまった。
自分の子どもの命の恩人に対して、何か思うことは無いのだろうか。
感謝や謝罪の言葉ひとつ寄越すことも無いまま走り去った金持ち連中に対して、ピノキオはずっと怒りを抱いて生きてきた。
その怒りの根源が、目の前に現れたのだ。
これが、冷静でいられようか。
─────────────────────
「おい!落ち着け!落ち着かないかピノキオ!!このワル坊主め!!」
「うるさいうるさい!離せ!!」
バナーレや周囲の人たちの制止を振り解くと、ピノキオはカルロに馬乗りになり、襟首を思い切り掴んだ。
「落ち着けったら!!」
見かねたバナーレに体当たりされ、ピノキオは道っぱたにごろごろ転がって、うつ伏せに倒れた。
恰幅が良く上背もあるバナーレに体をぶつけられて、細身のピノキオが勝てるわけもない。
「いっ…つッ……げほっ…げほッ!ぐえっ!」
ピノキオはその場に突っ伏して呻き、咳き込んだ。
体のあちこちが痛いし、服や髪にはチリやホコリがついて汚れるし、口には砂やチリが入って最悪の気分だ。
「……ピノキオさん!」
先ほどピノキオに乗っかられて、その場に座り込んでいたカルロが、悲鳴に近い声をあげた。
カルロはすっくと立ち上がると、ピノキオに歩み寄ろうしたが、バナーレや周囲の町民たちが止めに入った。
「新町長さま!いまピノキオに近寄ったら、今度こそは、ただではすみませんよ!!」
バナーレにそう言われても、カルロはそれを振り切ってピノキオに近づこうとした。
しかし、それより早くピノキオが駆け出して行ったため、それは叶わなかった。
「ピノキオさん…」
その場から走り去っていくピノキオの背中を、カルロは名残惜しそうに見つめた。
それをそばで見ていたバナーレは、カルロのその瞳が奇妙に煌めき、頬は異様に紅潮して赤みがさしてきていることに気がついていた。
地べたに這いつくばったまま、自分を置いて去っていく馬車に向かって、ピノキオは悪態をつき続けた。
後で聞いた話なのだけど、溺れた男の子はこの町の人間ではなく、訳あってこの町にやってきたどこぞの金持ちのご子息様だったのだという。
乗っていた馬車はなかなか凝った装飾であったし、男の子が着ていた服もなかなか上等なものであったから、それを聞いて少しばかり納得いった。
しかし、全てに納得がいったわけではない。
こんなこと、納得できるわけがない。
金持ちの悪ガキが言いつけを破って湖に近づいたりしなければ、悪ガキの親が自分の子どもから目を離したりしなければ、ジェペットは死ななかったはずだ。
ピノキオの怒りの原因はそれだけではない。
悪ガキの親は、我が子を救助したジェペットになどろくに見向きもせずに、自分の子どもだけを馬車に乗せると、颯爽とどこかに行ってしまった。
自分の子どもの命の恩人に対して、何か思うことは無いのだろうか。
感謝や謝罪の言葉ひとつ寄越すことも無いまま走り去った金持ち連中に対して、ピノキオはずっと怒りを抱いて生きてきた。
その怒りの根源が、目の前に現れたのだ。
これが、冷静でいられようか。
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「おい!落ち着け!落ち着かないかピノキオ!!このワル坊主め!!」
「うるさいうるさい!離せ!!」
バナーレや周囲の人たちの制止を振り解くと、ピノキオはカルロに馬乗りになり、襟首を思い切り掴んだ。
「落ち着けったら!!」
見かねたバナーレに体当たりされ、ピノキオは道っぱたにごろごろ転がって、うつ伏せに倒れた。
恰幅が良く上背もあるバナーレに体をぶつけられて、細身のピノキオが勝てるわけもない。
「いっ…つッ……げほっ…げほッ!ぐえっ!」
ピノキオはその場に突っ伏して呻き、咳き込んだ。
体のあちこちが痛いし、服や髪にはチリやホコリがついて汚れるし、口には砂やチリが入って最悪の気分だ。
「……ピノキオさん!」
先ほどピノキオに乗っかられて、その場に座り込んでいたカルロが、悲鳴に近い声をあげた。
カルロはすっくと立ち上がると、ピノキオに歩み寄ろうしたが、バナーレや周囲の町民たちが止めに入った。
「新町長さま!いまピノキオに近寄ったら、今度こそは、ただではすみませんよ!!」
バナーレにそう言われても、カルロはそれを振り切ってピノキオに近づこうとした。
しかし、それより早くピノキオが駆け出して行ったため、それは叶わなかった。
「ピノキオさん…」
その場から走り去っていくピノキオの背中を、カルロは名残惜しそうに見つめた。
それをそばで見ていたバナーレは、カルロのその瞳が奇妙に煌めき、頬は異様に紅潮して赤みがさしてきていることに気がついていた。
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