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彼の名前は
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「そうですか。それなら、私はお暇します。それでは失礼します。本当に、ありがとうございました」
礼だけを言うと、カルロはさっさと家を出ていってしまった。
名前を知るすべなど、ほかにもある。
それに、彼の名前を知るよりも大事な事情がカルロにはあった。
一軒家を出たカルロは、陽の当たる道を意気揚々と歩いていた。
本日は晴朗で道も乾いているから、とても歩きやすい。
歩いているうち、少し向こうに畑が見えてきて、さらに歩くと一生懸命に農作業に勤しんでいる農民も見えた。
背格好から見るに、中年の男だ。
──ちょうどよかった!
聞きたいことがあったカルロは、農民の元へ駆けていった。
「こんにちは、今ちょっとよろしいでしょうか?」
カルロが話しかけると、農民は作業する手を止めて顔をあげた。
カルロの思った通り、その人は中年の男であった。
年の頃40代半ば。
いかにも農夫の着るような野良着を着ていて、頭には麦わら帽子、帽子からはみ出た茶色い髪はボサボサ。
顔は日に焼けて、幾重ものシワが畳まれている。
手も同じように日焼けして荒れ放題で、爪は一部割れている。
その容貌から、この男の日頃の仕事ぶりが垣間見えた気がした。
「別にいいですけれど。あなた、この辺じゃあ見かけない人ですね。最近引っ越されたのですか?」
農民の男が帽子を取ると、彼の頭頂部が露わになった。
彼の髪の量そのものは豊かなのに、そこここに白髪が散っている。
「いいえ。私は旅のものです。ここいらに用事があるので伺いました」
「ここいらに?」
農民の男は先ほどの若い男と同様に、「こんな辺鄙なところに?」といった顔をした。
「ええ、ちょっと訳あってこちらに訪ねて来たのです」
「そうですか、ところで何のご用です?」
「ここから少し離れた場所に、古い一軒家がポツンと建っているでしょう?実はきのう、その家の家主さんに大変お世話になったのです。しかし、急いで家を出るよう言われたので、その方のお名前を聞きそびれてしまいまして。もしご存知でしたら、家主さんのお名前を教えてくださいませんか?」
「ああ、あの家なら知っていますよ」
「本当ですか?それで、あの人のお名前は?」
カルロが前のめりになって話を聞こうとした際、少し向こうから「おーい!」という声が聞こえてきた。
「お父さん、いってきまあす!」
声の主は、まだ10歳になるかならないかの男の子だった。
「お父さん」と呼びかけたことから察するに、この農民の男の息子であろう。
「おう、ピノキオによろしくな!」
農民の男は息子に手を振った。
息子は「うん!」と元気よく返事すると、急ぎ足で駆けていき、やがて見えなくなった。
「そうだ、旅の人。そいつの名前なんですがね、ピノキオってんですよ。さっき言った名前」
「そうですか、あの方はピノキオさんというのですね」
カルロは教えてもらった恩人の名を復唱した。
「ええ、この近辺でヤツの名前を知らない人はいませんよ」
礼だけを言うと、カルロはさっさと家を出ていってしまった。
名前を知るすべなど、ほかにもある。
それに、彼の名前を知るよりも大事な事情がカルロにはあった。
一軒家を出たカルロは、陽の当たる道を意気揚々と歩いていた。
本日は晴朗で道も乾いているから、とても歩きやすい。
歩いているうち、少し向こうに畑が見えてきて、さらに歩くと一生懸命に農作業に勤しんでいる農民も見えた。
背格好から見るに、中年の男だ。
──ちょうどよかった!
聞きたいことがあったカルロは、農民の元へ駆けていった。
「こんにちは、今ちょっとよろしいでしょうか?」
カルロが話しかけると、農民は作業する手を止めて顔をあげた。
カルロの思った通り、その人は中年の男であった。
年の頃40代半ば。
いかにも農夫の着るような野良着を着ていて、頭には麦わら帽子、帽子からはみ出た茶色い髪はボサボサ。
顔は日に焼けて、幾重ものシワが畳まれている。
手も同じように日焼けして荒れ放題で、爪は一部割れている。
その容貌から、この男の日頃の仕事ぶりが垣間見えた気がした。
「別にいいですけれど。あなた、この辺じゃあ見かけない人ですね。最近引っ越されたのですか?」
農民の男が帽子を取ると、彼の頭頂部が露わになった。
彼の髪の量そのものは豊かなのに、そこここに白髪が散っている。
「いいえ。私は旅のものです。ここいらに用事があるので伺いました」
「ここいらに?」
農民の男は先ほどの若い男と同様に、「こんな辺鄙なところに?」といった顔をした。
「ええ、ちょっと訳あってこちらに訪ねて来たのです」
「そうですか、ところで何のご用です?」
「ここから少し離れた場所に、古い一軒家がポツンと建っているでしょう?実はきのう、その家の家主さんに大変お世話になったのです。しかし、急いで家を出るよう言われたので、その方のお名前を聞きそびれてしまいまして。もしご存知でしたら、家主さんのお名前を教えてくださいませんか?」
「ああ、あの家なら知っていますよ」
「本当ですか?それで、あの人のお名前は?」
カルロが前のめりになって話を聞こうとした際、少し向こうから「おーい!」という声が聞こえてきた。
「お父さん、いってきまあす!」
声の主は、まだ10歳になるかならないかの男の子だった。
「お父さん」と呼びかけたことから察するに、この農民の男の息子であろう。
「おう、ピノキオによろしくな!」
農民の男は息子に手を振った。
息子は「うん!」と元気よく返事すると、急ぎ足で駆けていき、やがて見えなくなった。
「そうだ、旅の人。そいつの名前なんですがね、ピノキオってんですよ。さっき言った名前」
「そうですか、あの方はピノキオさんというのですね」
カルロは教えてもらった恩人の名を復唱した。
「ええ、この近辺でヤツの名前を知らない人はいませんよ」
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