新訳 美女と野獣 〜獣人と少年の物語〜

若目

文字の大きさ
上 下
19 / 44

帰還

しおりを挟む
野獣は懐から指輪を取り出すと、ジャンティーに手渡した。
一見すると何のへんてつもない、金色の指輪だ。

「これを枕元に置くといい。そうすれば、お前は一瞬後には家族のところへ帰ることができる。ここに戻るときも同じようにして、枕元に置くんだよ。そうしたら一瞬後には、お前はこの城に帰ってこられる」
「ありがとうございます。ウォルター様」
ジャンティーが言われたとおりにすると、それは現実のものとなった。


 ─────────────────────




「ジャンティー!なんてことだ…これは、夢じゃないだな?」
「夢じゃないんだよ、お父さま」
突然現れたジャンティーを見て、シャルルは驚いた顔をして、のっそりと半身を起こした。

「どんなに会いたかったことか…ずっと心配してたんだよ。案の定、こんなことになってしまって……帰ってきて正解だった」
ジャンティーは目に涙を浮かべて、すっかり痩せ細ったシャルルの体を抱きしめた。

抱き返すシャルルの手が背を滑る。
背中に伝わるその手の温かさに、ジャンティーはますます深い喜びを感じた。
自分は本当に帰ってこられたのだと実感できた。

「ジャンティー、いまのいままでどうしていたんだ?あの野獣はお前を生かしておいてくれたのか?そもそも、どうやってここに帰ってきたんだ?野獣のところから逃げてきたのか?」
体を離すと、シャルルが矢継ぎ早に質問してきた。
「ぼくがどうしても家に帰りたいとお願いしたら、1週間だけ家族のところへ帰ってもいいって、お許しをくれたんだ」
「1週間…そうか、1週間か」
この家にいられるのは1週間だけと知った途端、シャルルは残念そうな顔をした。

しかし、それさえも束の間、蒼白だった顔にほんのり赤みがさしたかと思うと、なんとかベッドから自力で立ち上がった。

「アヴァール!リュゼ!喜べ、お兄さまが帰ってきたんだよ!!」
その声を聞いて駆けつけたアヴァールとリュゼはあっけにとられていたが、ふと我に帰って、兄と父親の手前、大喜びしているフリをした。

「お、お兄さま、信じられないわ。こうしてまた会えるなんて思っていなかったから…」
予想外の兄の帰還に、アヴァールは嬉しそうな顔をしてみせた。
「ほんとよね、お姉さま。わたし、嬉しいわ。夢でも見てるのかしら!」
アヴァールとは打って変わって、リュゼは即座に上手に「兄の帰りに歓喜する妹」を演じてみせた。

そんなアヴァールとリュゼの心情にまるで気づかないジャンティーは、2人の妹とかわるがわる抱き合って、再会の喜びに浸った。
一瞬、脳裏に古城の鏡で見た2人の姿がよぎったが、ジャンティーはそれを忘れてしまおうと考えた。
いまこのときの妹たちの姿が、真実なのだと思いたかった。


──そうだ、アヴァールとリュゼはワガママだけど、あんな酷いことを言うような子じゃない。ぼくが帰ってきたことを、こんなに喜んでくれてるんだから。ともかく帰ってこれたんだもの。大好きなみんなの顔を見ることができたんだもの!

「ああ…」
無理をして立ったシャルルが、ベッドに倒れ込むようにして横になった。

──ああ、いけない!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

【完結】守護霊さん、それは余計なお世話です。

N2O
BL
番のことが好きすぎる第二王子(熊の獣人/実は割と可愛い) × 期間限定で心の声が聞こえるようになった黒髪青年(人間/番/実は割と逞しい) Special thanks illustration by 白鯨堂こち ※ご都合主義です。 ※素人作品です。温かな目で見ていただけると助かります。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

すべてはあなたを守るため

高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです

あなたの隣で初めての恋を知る

ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

今夜のご飯も一緒に食べよう~ある日突然やってきたヒゲの熊男はまさかのスパダリでした~

松本尚生
BL
瞬は失恋して職と住み処を失い、小さなワンルームから弁当屋のバイトに通っている。 ある日瞬が帰ると、「誠~~~!」と背後からヒゲの熊男が襲いかかる。「誠って誰!?」上がりこんだ熊は大量の食材を持っていた。瞬は困り果てながら調理する。瞬が「『誠さん』って恋人?」と尋ねると、彼はふふっと笑って瞬を抱きしめ――。 恋なんてコリゴリの瞬と、正体不明のスパダリ熊男=伸幸のお部屋グルメの顛末。 伸幸の持ちこむ謎の食材と、それらをテキパキとさばいていく瞬のかけ合いもお楽しみください。

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

処理中です...