上 下
54 / 73

大嵐吹き荒れて

しおりを挟む
そうして迎えた年明け。

「敏雄さん!これ、ヤバいですよ!!」
青葉が、自身のスマートフォンの画面を見せてきた。
「…やっぱり、そうなるか」

年が明けて早々、週刊文士のSNSが、かつてないほどに炎上していた。

原因は、某大物音楽プロデューサーの引退。
その引退の原因というのが、横居が取材した不倫であった。


このプロデューサーの妻は、数年前に発症したクモ膜下出血よる後遺症があり、療養中。
その妻が入院していたとき、自宅に30代の女性看護師を連れ込み、そこから出てきたところを横居が突撃取材した。

引退表明は、その一部始終が掲載された記事が公開された矢先の出来事だった。 
引退会見の際には、「今回の不倫騒動のけじめとして引退する」「もともと要介護になった妻の面倒に疲れていたことも原因」と話していた。


そこから、このプロデューサーが引退した原因は週刊文士の度が過ぎるほどの報道が原因とされ、大衆の怒りに火をつけたのだ。

横居が普段取り扱っている不倫やパワーハラスメントなんかの報道は、人々の関心を集めやすい反面、反感を買うこともある。
こういった報道を繰り返しているうち、その反感がどんどん大きくなっていき、今回のようなことになったのだ。

デスクに駆けつけてみれば、概ね敏雄の想像どおりの光景が広がっていた。
電話が鳴りっぱなしになっている。
おそらく、抗議の電話であろう。

敏雄が自分のスマートフォンをみると、先ほどから異常な数の着信が来ている。
全員、仕事で関わった敏雄の知人だ。
今回の騒動について聞きたいことがあるから、敏雄にかけているのだ。

「もしもし、あ、はい、あ、えっとですね…」
「彼を取材した記者はいまは出払っていまして…はい、あー…」
「すみませんが、個人情報なので、それは言えないんです、いや、ですから…」

記者やカメラマンが、ひっきりなしに鳴る電話の対応に追われ、現場はすっかり混乱していた。



「ねえ、あの人の取材したの、横居さんですよね?」
「そうだったはずだ」
先ほど来たメールを返信しながら、敏雄は青葉の疑問に答えた。
メールの内容は言わずもがな、音楽プロデューサーの引退についてのことだ。

「どうなるんですかね?」
「わからん。でも、何のお咎めもなし、とはならないと思う。たぶん、お前も巻き添え喰らうかもしれんから、覚悟しとけ」
言って敏雄は、スマートフォンをポケットにしまった。
「わかりました」

編集部の電話は、相変わらず鳴り止まない。
「取材した記者を出せ」「ふざけるな」「彼が自殺でもしたらどうするつもりだ」という抗議に始まり、「死ね」「殺してやる」という脅迫に、嫌がらせの無言電話。

その中には真っ当なテレビ取材の申し込みもあり、この騒ぎについてどう思うのか聞かせてもらうため、テレビ出演して欲しいとの打診でだった。

番組は日曜日の朝10時から放送されている、ベテラン芸人2人組が司会を務める人気ワイドショーで、結構な視聴率を誇る。
そんな場面だから、下手をすれば批判は激化することになるだろう。

敏雄の予測通り、横居はこの失態のフォローを兼ねて、顔にボカシをかけた状態でテレビ出演することとなった。
本人は不服そうにしていたが、編集長命令とあっては、断れるわけもない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

たとえ性別が変わっても

てと
BL
ある日。親友の性別が変わって──。 ※TS要素を含むBL作品です。

魂なんて要らない

かかし
BL
※皆様の地雷や不快感に対応しておりません ※少しでも不快に感じたらブラウザバックor戻るボタンで記憶ごと抹消しましょう 理解のゆっくりな平凡顔の子がお世話係で幼馴染の美形に恋をしながらも報われない不憫な話。 或いは、ブラコンの姉と拗らせまくった幼馴染からの好意に気付かずに、それでも一生懸命に生きようとする不憫な子の話。 着地点分からなくなったので一旦あげましたが、消して書き直すかもしれないし、続きを書くかもしれないし、そのまま放置するかもしれないし、そのまま消すかもしれない。

誰よりも愛してるあなたのために

R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。  ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。 前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。 だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。 「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」   それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!  すれ違いBLです。 ハッピーエンド保証! 初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。 (誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります) 11月9日~毎日21時更新。ストックが溜まったら毎日2話更新していきたいと思います。 ※…このマークは少しでもエッチなシーンがあるときにつけます。 自衛お願いします。

誓いのような、そんな囁き

涼雅
BL
浮気なんてものとは程遠い存在のはずだった 俺とお前の関係でそんなこと、ありはしないと思っていた それはもう過去のこと。 今はもう違うんだ

【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?

おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。 『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』 ※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。

一年前の忘れ物

花房ジュリー
BL
 ゲイであることを隠している大学生の玲。今は、バイト先の男性上司と密かに交際中だ。ある時、アメリカ人のアレンとひょんなきっかけで出会い、なぜか料理交換を始めるようになる。いつも自分に自信を持たせてくれるアレンに、次第に惹かれていく玲。そんな折、恋人はいるのかとアレンに聞かれる。ゲイだと知られまいと、ノーと答えたところ、いきなりアレンにキスをされ!? ※kindle化したものの再公開です(kindle販売は終了しています)。内容は、以前こちらに掲載していたものと変更はありません。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

処理中です...