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これからのこと

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「春也、軽蔑しただろう?」
「そんな、とんでもない」
これは、間違いなく青葉の本音だ。

軽蔑どころか、何でもそつ無くこなす完璧な上司だと思っていた敏雄の人間的な部分を垣間見た気がして、青葉は不思議な安心感さえ抱いた。

「俺はヤロウ2人がかりで若い女にケガさせたような、どうしようもねえ悪党だぜ?」
「もう過去のことじゃないですか」
青葉は立ち上がると、敏雄の隣に座り込んだ。

「ぼく、恋人の過去のことをとやかく言う気はないです」
青葉は、敏雄の頬を両手で優しく包み込んだ。
普段なら、こんなことをするのは敏雄のほうだ。

青葉の瞳が、敏雄を射抜くように見つめる。
やっぱりこの瞳には、何をしても勝てない気がする。

「優しいなあ、お前は優しすぎるよ、春也」
「ふふ、そうですかね」
青葉の両手が離れていく。
それと引き換えに顔が近づいてきて、唇を重ねられた。

「ねえ、そんな優しくていい子なぼくに、ご褒美くれませんか?」
唇を離すや否や、青葉はそんなセリフを吐いた。
こんな誘い文句をどこで覚えてきたのか。
ひょっとして、自分と過ごすうちにそういう駆け引きを身につけたのだろうか。

敏雄はウブでかわいくて真面目な青葉が好きだったが、こんな青葉も悪くはない気がした。

「いいぜ。ほら」
敏雄は着ていたシャツをめくり上げると、薄い胸を青葉の目に晒した。






─────────────────────







それから1ヶ月後。
横居は謹慎が明けて、現場に復帰することになった。
前ほどとはいかないが元気を取り戻したようだったし、無茶苦茶な取材もしなくなった。

さすがに、アレほどの騒動が起きたともなると、大人しくならざるを得ないらしい。
青葉に突っかかることもしなくなったので、敏雄は安心して2人と接することができた。







─────────────────────




「あ、そういえばね、敏雄さん」
いつものように現場に向かう途中、ライトバンの助手席に座った青葉が話しかけてきた。

「うん、どうした?ションベン行きたくなったのか?」
「やだなあ、とっくに済ませましたよ、そんなの」
敏雄の冗談に、青葉はクスッと笑った。

「それならよかった。で、どうした?」
敏雄は上機嫌でハンドルをきった。
「そろそろひとりで現場出ないかって、編集長から言われました」
「おっ、出世したんだなお前。まあ、ここ最近、修羅場の連続だったし、お前はそれを乗り越えてみせたものな。頑張れよ!」
「はい!」
青葉が笑ってみせる。

以前と変わらぬ、屈託のない笑顔だ。
かつては横居もこんな顔をしていた。

ひょっとしたら、いつかはこの笑顔が曇ってしまう日が来るのかもしれない。
それでもいまは、青葉の成長を喜びたい。

敏雄は微笑みながら、どこまでも続く道路をライトバンで走り続けた。
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