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いやらしいイタズラ

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ひとしきり飲んで店を出た後、敏雄は酔って潰れた青葉を家に連れて行くハメになった。

青葉は下戸というわけではないが、酒豪というわけでもないらしかった。
だのにハイペースで酒を飲み続けて、自力で立ち上がれないくらいに泥酔してしまったのだ。


酔って自分に寄りかかる青葉の体の、なんと重いこと。
中肉中背で大した腕力もない敏雄が、180センチを優に超えている青葉を自分の部屋に連れて行くのは一苦労だった。

「ったく!ああも無鉄砲に飲むヤツがあるか!」
敏雄は青葉のバカに大きな体を、玄関の廊下に投げ捨てるように置いた。
ゴンっと結構に鈍い音がしたが、玄関マットの上だし、大したケガはしないだろうと踏んで、そのままにした。
何より敏雄だって肩が凝ったし、腰も痛いのだ。
「すいひゃせん…」
ふにゃふにゃ笑いながら、青葉が意味の無い謝罪を述べた。

「あー、くそッ、腰いってえ…」
敏雄は廊下を歩いてリビングまで向かうと、ラックの引き出しから湿布を取り出した。
歳のせいか肩がろくに回らないから、患部に湿布を貼るのも一苦労だ。


「だてさん…」
廊下で寝ていた青葉がふらふらとリビングまでやってきて、ろくに呂律が回っていない舌で名前を呼んできた。
「おいこら、酔ってるなら歩くな」
敏雄は出しっぱなしにしていたラックの引き出しを中に入れると、そばの2人掛けソファに座った。
「酔ってませえん」
言いながら青葉が近寄ってきて、敏雄の隣に座った。

「酔ってるヤツはみんなそう言うんだよ」
「ふふふ」
青葉は敏雄の反論にまともに答えず、どうしたわけか敏雄に抱きついてきた。
本当に重たい。
自分の体の大きさを理解できていない大型犬に、じゃれつかれた気分だ。

「おい、離れろ!」
「へへ…」
敏雄の抵抗もどこ吹く風で、青葉はヘラヘラ笑いながら敏雄の平たい胸にグリグリと頭を押し当ててきた。

──横居もこんなカンジだったな

敏雄は、7年前に横居をホテルまで引きずっていった夜のことを思い出した。
もっとも、横居の場合は元気がなくて、もう少し落ち込んでいたのだけど。

「伊達さん…」
青葉がしがみついていた腕をほどくと、背筋をまっすぐに伸ばして、敏雄と目を合わせた。
青葉の目はまだトロンとしていて焦点が定まっていないが、呂律が回ってきたのを見るに、ほんのり酔いが覚めてきたらしい。
「ん?」
どうせ、この後はすぐに寝てしまうのだろうと考えていた敏雄は、大雑把な生返事をした。

「好きです、付き合ってください」
突然、青葉の目の焦点がしっかり合ったかと思うと、急に告白された。
わけがわからない。
「は?」
「好きです、付き合ってください」
予想外の言葉に唖然とする敏雄を置き去りにするように、青葉はまた同じ言葉を繰り返した。

──相当酔ってるな、コイツ…

「そうかそうか、わかったわかった。ちょっと待てよ」
ちょっとしたイタズラ心が芽生えた敏雄は、ソファから立ち上がると、テーブルに置きっぱなしにしていたレコーダーを手に取り、スイッチを入れた。

──ちょっと遊んでやるか

「聞こえなかったから、もう1回言ってくれ」
敏雄はソファに座り直して、レコーダーをかまえた。
「好きです、付き合ってください」
隣に座った青葉が繰り返す。
「そうか。じゃあ俺にキスしてくれよ、青葉」
言ってから敏雄は、吹き出してしまいそうになった。
どうせやらないだろうし、やったとしても明日には忘れてしまうだろう。

「…はい」
青葉が敏雄の方へ擦り寄ってきたかと思うと、ゆっくりと頭を敏雄の膝に落とした。
瞬間に、すうすうと深い寝息が聞こえてくる。

──このタイミングで電池切れかよ!

あまりにバカバカしい青葉の様子に、敏雄は肩を震わせて笑いを堪えた。
それから、レコーダーを口元へ近づけると、唾液を絡ませてちゅっ、ちゅっと音を立てた。

──明日はこれを聞かせてやるか、反応が楽しみだな

レコーダーのスイッチを切ると、敏雄は自分膝を枕にして寝ている青葉を引き剥がしてソファに放置し、寝室に向かった。

こんなもの、酒が入った上司が、酒が入った部下に働いたくだらないイタズラでしかないのだけど、ここから2人の関係が進展していくのは、また別の話である。
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