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関係者へ取材
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「青葉、今日は他の人に話を聞きにいくぞ」
出勤して早々、敏雄は指示を出した。
「他の人?」
「ああ、あの中学校の校長に直接取材に行きたかったんだけどな。何度こいつの家に取材しに行っても、いつもいないんだよ。たぶん、今は親戚とか知り合いの家に逃げてるんだと思う」
「…信じられない」
青葉が顔をしかめた。
蔑んでいるような、怒っているような、いろんな感情が入り混じった顔だ。
「ああ、だから、取材できた人がいないか、片っ端からいろんなとこに電話して調べたんだ。そしたら、1人ヒットしたんで、今から会いに行くぞ。向こうも了承してくれた。犯罪ジャーナリストの 大川さんって人だ。アポ取れたから、さっさと行くぞ」
「はい!」
大川とは、会社近くの公民館の待合室で会う約束を交わしていた。
「大川さん、お久しぶりです」
「お久しぶりです、伊達さん」
公民館の待合室。
設置された革製の長椅子に、敏雄と青葉は大川と向かい合わせで座って、それぞれに挨拶を交わした。
大川は現在60歳。
結構に年配ながら、それを感じさせないほどに言葉遣いがはっきりしている。
背筋も常にしっかり伸びていて、動作も20代の若者と並ぶほどに早い。
元は警察官をしていた経歴があり、窃盗や誘拐、恐喝や殺人事件なんかも担当していた。
今回のような少年犯罪の捜査にも携わった経験があるため、それゆえに彼の見解はかなり信用できると敏雄は思っている。
「こちら、わたしの取材に同行してくれることになりました、青葉春也っていいます。まだまだ若輩ですが優秀な子ですから、機会がありましたら、どうか使ってやってくださいね」
敏雄が目配せすると、青葉は急いで名刺ホルダーから名刺を取り出した。
「あ、青葉です。はじめまして、よろしくお願いします」
青葉が取り出した名刺を渡すと、大川がそれを受け取る。
「はじめまして、青葉さん。大川です」
今度は大川が懐から名刺を取り出して、青葉に渡した。
「さっそくですが、大川さんが取材したときの校長の態度はどうでしたか?」
青葉が大川から受け取った名刺をしまったのを見はからって、敏雄は持っていたバッグからレコーダーを取り出し、スイッチを入れた。
「校長の家のインターホン鳴らしたらね、返事はしましたよ。けれど、ドアの外に出ることはしませんでした。まあ、予想通りですがね」
諦めと怒りがこもった声で、大川が答える。
「大川さんには、何と返事したんですか?」
「私がジャーナリストだって名乗ったら、面倒くさそうに「取材には応じられません」とだけ。何を聞いてもそれの一点張りでした」
大川が悔しそうに唇を震わせた。
「ということは、ほとんど何も聞けずじまい、ということですか?」
「そうですね、申し訳ないんですが…直接の取材はできたけど、大した情報は得られてはいません」
大川の眉間にグッとシワが寄る。
「いえ、かまいません。わたしなんか避けられているのか、どこに行っても何度来ても直接の取材もできなかったもんですから…」
大川は「申し訳ない」とは言うが、敏雄は本当にそんなことは構わないと思っていた。
校長が行きそうな場所に何度足を運んでも、何の収穫も得られず骨折り損。
それが何度も続いたから、たとえわずかでも情報を得られるのはありがたい。
「ほかに、何かありませんか?」
「あまりに「取材には答えられない」と言い続けるもんですから、「わかりました、じゃあ広田さんに何か伝えたいことはありますか?それだけ聞いたら帰ります」と言いました」
この「広田さん」とは、亡くなった被害者少女の名字だ。
「それに校長は何と答えたんです?」
「校長は何て言ったと思います?」
大川が意味ありげに、質問に質問で返した。
出勤して早々、敏雄は指示を出した。
「他の人?」
「ああ、あの中学校の校長に直接取材に行きたかったんだけどな。何度こいつの家に取材しに行っても、いつもいないんだよ。たぶん、今は親戚とか知り合いの家に逃げてるんだと思う」
「…信じられない」
青葉が顔をしかめた。
蔑んでいるような、怒っているような、いろんな感情が入り混じった顔だ。
「ああ、だから、取材できた人がいないか、片っ端からいろんなとこに電話して調べたんだ。そしたら、1人ヒットしたんで、今から会いに行くぞ。向こうも了承してくれた。犯罪ジャーナリストの 大川さんって人だ。アポ取れたから、さっさと行くぞ」
「はい!」
大川とは、会社近くの公民館の待合室で会う約束を交わしていた。
「大川さん、お久しぶりです」
「お久しぶりです、伊達さん」
公民館の待合室。
設置された革製の長椅子に、敏雄と青葉は大川と向かい合わせで座って、それぞれに挨拶を交わした。
大川は現在60歳。
結構に年配ながら、それを感じさせないほどに言葉遣いがはっきりしている。
背筋も常にしっかり伸びていて、動作も20代の若者と並ぶほどに早い。
元は警察官をしていた経歴があり、窃盗や誘拐、恐喝や殺人事件なんかも担当していた。
今回のような少年犯罪の捜査にも携わった経験があるため、それゆえに彼の見解はかなり信用できると敏雄は思っている。
「こちら、わたしの取材に同行してくれることになりました、青葉春也っていいます。まだまだ若輩ですが優秀な子ですから、機会がありましたら、どうか使ってやってくださいね」
敏雄が目配せすると、青葉は急いで名刺ホルダーから名刺を取り出した。
「あ、青葉です。はじめまして、よろしくお願いします」
青葉が取り出した名刺を渡すと、大川がそれを受け取る。
「はじめまして、青葉さん。大川です」
今度は大川が懐から名刺を取り出して、青葉に渡した。
「さっそくですが、大川さんが取材したときの校長の態度はどうでしたか?」
青葉が大川から受け取った名刺をしまったのを見はからって、敏雄は持っていたバッグからレコーダーを取り出し、スイッチを入れた。
「校長の家のインターホン鳴らしたらね、返事はしましたよ。けれど、ドアの外に出ることはしませんでした。まあ、予想通りですがね」
諦めと怒りがこもった声で、大川が答える。
「大川さんには、何と返事したんですか?」
「私がジャーナリストだって名乗ったら、面倒くさそうに「取材には応じられません」とだけ。何を聞いてもそれの一点張りでした」
大川が悔しそうに唇を震わせた。
「ということは、ほとんど何も聞けずじまい、ということですか?」
「そうですね、申し訳ないんですが…直接の取材はできたけど、大した情報は得られてはいません」
大川の眉間にグッとシワが寄る。
「いえ、かまいません。わたしなんか避けられているのか、どこに行っても何度来ても直接の取材もできなかったもんですから…」
大川は「申し訳ない」とは言うが、敏雄は本当にそんなことは構わないと思っていた。
校長が行きそうな場所に何度足を運んでも、何の収穫も得られず骨折り損。
それが何度も続いたから、たとえわずかでも情報を得られるのはありがたい。
「ほかに、何かありませんか?」
「あまりに「取材には答えられない」と言い続けるもんですから、「わかりました、じゃあ広田さんに何か伝えたいことはありますか?それだけ聞いたら帰ります」と言いました」
この「広田さん」とは、亡くなった被害者少女の名字だ。
「それに校長は何と答えたんです?」
「校長は何て言ったと思います?」
大川が意味ありげに、質問に質問で返した。
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