上 下
12 / 22

返答

しおりを挟む

「今日は少ないんだね。お腹の調子悪い?」
光史朗がエビフライ定食を乗せたトレーを、テーブルの上に置いた。

「いや…大丈夫だよ」
いつもはバカに食べるのに、今日に限って菓子パン1つと紙パックのコーヒー牛乳だけを摂る小山を不思議に思ったのだろう。

食事に誘われることも、光史朗から話しかけられるのも、これが初めてのことだ。
今までは小山が話しかけて、光史朗が最低限の返事をする、ということの繰り返しだっただけに、小山は戸惑いが抑えられなかった。

──伊伏さん、どうしたんだろ…まあ、嬉しいけどさ……

菓子パンをかじりながら、小山はエビフライを箸でつまむ光史朗を見つめた。
光史朗は箸の持ち方はもちろん、食べ方もキレイなので、ともに食事していると気分がよくなる。

「ダイエットとか?あ、違うよね。営業部ってすごい歩くもん。脚すっごい鍛えられるでしょ?」
光史朗が箸で白米を1口分つまんで、口に放り込む。

「まあね、日によっては1日中外回りだよ。そういうときはもう、ふくらはぎがパンパンになってるね。競輪選手ってあんなカンジかも」
「そうだよね。ぼくは1日中デスクに座りきりだよ。だから、うちの先輩は「腰が痛い」「肩がこる」ってしょっちゅう嘆いてる」

昨夜からの苦悩がウソのように、小山は晴れやかな気分になった。
光史朗の心情ははっきりしないが、こうも気にかけて、話しかけてくれるのは素直に嬉しい。

「ねえ、ワンダーランドカフェで隣に立ってたあの女の人は?」
「ああ、アイツはうちの姉だよ。アイツのワガママであそこに行くことになって、そこで伊伏さんに会ったワケ」
話しながら食べているうち、小山はコーヒー牛乳も菓子パンも全て食べきった。

「キレイな人だよね。最初見たとき彼女かと思ったよ」
「イヤだな伊伏さん、よしてくれよお!あんなのが彼女とかマジ勘弁!!」
光史朗の言葉に、小山はケラケラ笑った。

「そんな否定しなくても…」
「いや、マジでムリ。アイツ、ホントにガサツだし、人づかい荒いし。あ、そうだ。伊伏さんと一緒にいた女の子たちは?あの子たちとはどういう関係?」
「みんな友達だよ」
幸史郎が首を振った。

「へえ、高校の同級生とか、大学の友達とか?」
「ううん、全員ネットで知り合った子。実を言うとね、本名も住所も知らない」
「え?マジ⁈それで友達って言えんの?……いや、今どき珍しくないか。最近はそういう人が多いって聞くし」

小山がウーンと考え込む。
思い返してみれば、自分の友達にもどこに住んでいるのか、仕事は何をしているのか全く知らないが、それなりに仲良くしている人がいる。

「まあ、気は合うし、いっしょにいると楽しいよ」
「まあ、いっしょいて楽しかったら、なんでもいいよね!」
「うん、そうでしょ。あ、ねえ、ところで、昨日の話の返事なんだけど…」
エビフライ定食を完食した光史朗が唐突に切り出してきて、小山は身構えた。

「な、なに?」
小山がごくりと生唾を飲みこむと、口内にわずかに残っていたコーヒー牛乳が喉を通り抜けていった。
「ぼくでよかったら、付き合ってください」
「え、あの…いいの?」
小山はかーっと顔が熱くなり、酸欠寸前の魚みたいに口をパクパク動かした。

「告白してきたのはそっちじゃない。ヘンな小山さん!」
光史朗がクスッと笑った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談? 本気? 二人の結末は? 美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

【完結】遍く、歪んだ花たちに。

古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。 和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。 「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」 No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。

僕は本当に幸せでした〜刹那の向こう 君と過ごした日々〜

エル
BL
(2024.6.19 完結) 両親と離れ一人孤独だった慶太。 容姿もよく社交的で常に人気者だった玲人。 高校で出会った彼等は惹かれあう。 「君と出会えて良かった。」「…そんなわけねぇだろ。」 甘くて苦い、辛く苦しくそれでも幸せだと。 そんな恋物語。 浮気×健気。2人にとっての『ハッピーエンド』を目指してます。 *1ページ当たりの文字数少なめですが毎日更新を心がけています。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

合鍵

茉莉花 香乃
BL
高校から好きだった太一に告白されて恋人になった。鍵も渡されたけれど、僕は見てしまった。太一の部屋から出て行く女の人を…… 他サイトにも公開しています

推しを擁護したくて何が悪い!

人生1919回血迷った人
BL
所謂王道学園と呼ばれる東雲学園で風紀委員副委員長として活動している彩凪知晴には学園内に推しがいる。 その推しである鈴谷凛は我儘でぶりっ子な性格の悪いお坊ちゃんだという噂が流れており、実際の性格はともかく学園中の嫌われ者だ。 理不尽な悪意を受ける凛を知晴は陰ながら支えたいと思っており、バレないように後をつけたり知らない所で凛への悪意を排除していたりしてした。 そんな中、学園の人気者たちに何故か好かれる転校生が転入してきて学園は荒れに荒れる。ある日、転校生に嫉妬した生徒会長親衛隊員である生徒が転校生を呼び出して──────────。 「凛に危害を加えるやつは許さない。」 ※王道学園モノですがBLかと言われるとL要素が少なすぎます。BLよりも王道学園の設定が好きなだけの腐った奴による小説です。 ※簡潔にこの話を書くと嫌われからの総愛され系親衛隊隊長のことが推しとして大好きなクールビューティで寡黙な主人公が制裁現場を上手く推しを擁護して解決する話です。

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

ハッピーエンド

藤美りゅう
BL
恋心を抱いた人には、彼女がいましたーー。 レンタルショップ『MIMIYA』でアルバイトをする三上凛は、週末の夜に来るカップルの彼氏、堺智樹に恋心を抱いていた。 ある日、凛はそのカップルが雨の中喧嘩をするのを偶然目撃してしまい、雨が降りしきる中、帰れず立ち尽くしている智樹に自分の傘を貸してやる。 それから二人の距離は縮まろうとしていたが、一本のある映画が、凛の心にブレーキをかけてしまう。 ※ 他サイトでコンテスト用に執筆した作品です。

処理中です...