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コミカライズ記念

漫画1巻が発売です!

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 唐突ですが、「百聞は百聞にかず」という言葉をご存じでしょうか。

 百回聞いたことは、百回聞いたことと同義であるという、至極、当たり前の裏町造語なのですが、そういう名前の本屋さんが裏町にあるとのことでして。高千穂に聞いたところによると裏四条・河原町通から、だいたい北上したあたりの、それなりに真ん中のあたりに建っているとのこと。いざ、本屋を目指して先ほどからグルグルと回っているのですが――

 これがちっとも辿り着かない。

 百回、聞いておけば良かった。

 いえ、住所を書いてもらえば良かった。

 一応、アプリの地図で検索したのですが、「それでは面白くなし」とかいうメッセージが表示されてアプリが強制終了されました。

「薫殿も本を読まれるのでしたか、そうでしたか」

 奇遇にも蛙男さんとすれ違い、

「その本屋でしたら、ほら、もう目の前に。表向きは和菓子を売っておりますがな、実のところは本を売っておるのですよ。入ってみればすぐに分かるので百聞は一見に如かずということですな、わっはっは」

 ちっとも上手くない。

 どー見ても老舗しにせの和菓子屋にしか見えませんでしたので七度くらいはスルーしておりましたが、群青色の暖簾のれんをくぐってみれば、なるほど、内装は確かに本屋でした。

 外観からは想像ができないくらいに広そう、すぐに見つかるかな?

 今日は本を買いにきたわけではありません。探しているのは私が主役のコミカライズの第一巻です。本日、発売と聞いていますから、朝から表の京都でぐるぐると本屋を巡っては、陳列されている棚を微笑みながらパシャパシャと写真を撮っていたのです。

 さて、裏町ではどのように置かれているのか。

 棚差しが普通ですが、面置きとか、平置きとか、もしかしたら裏町だからしっかり宣伝してくれて、特典のイラストカード付きで、さらには販促物のイラストカードも飾ってくれてたり。

 なんて期待していたら、想像の斜め上を越えていました。

 なんと、入口の真横に山積みになっていたのです。

 わざわざ専用の台が用意されており、まるでドラマ化した売れっ子作家の新刊のように積まれていまして、それは良かったのですが、問題はドデーンと大きな写真が広告のように飾られていること。販促用のイラストカードもあるのですが、それよりも悪目立ちしているのが、

 ――裏町代表、キツネ娘。東大路通で大の字になって寝る。

 いつ撮ったか全く覚えがない私の写真の拡大版。ヨダレを垂らして道で寝ている恥ずかしい代物でした。

「本物のねーちゃんがいる」

 子供に指を差されます。

 恥ずかしくなって、慌てて写真だけを撮って、そそくさと退散しました。

「どやった? いい感じに飾ってたやろ?」

 土御門屋に戻ると高千穂がクスクスと笑っていました。

「どーして教えてくれなかったのよ!」
「見た方が早いやん、一見に如かずやもの。でも、どうせなら私も一緒のが良かったわ。ほら、第三話で向かい合ってるシーンとか。あれ、私のお気になんよ」

 え~と、どんなシーンだっけ。高千穂の家に泊まった時かな。なんか、それも恥ずかしい場面だったような記憶が。

「最近の漫画って表紙の裏にオマケとかあるんだな」

 テーブル席に座って、土御門屋に置いてある第一巻を読んでいるのはアヤメさんです。

「わりと普通にあったりするわ」
「そうなのか? 少年漫画はそういう文化がなかったからなぁ、これ、気付かない奴がいるんじゃないか」

 ちなみに私もカバーイラストの原稿が送られてくるまで気が付きませんでした。私の知らないところで母がしれっと取材を受けていたことにビックリ。

「ここ、ひっくり返ってんな」

 アヤメさんが首を傾げているので覗き込んでみると、

「ほら、文字が逆になってる」
「……本当だ。あれ、おかしいな」

 私も何回も読んでいるのですが、全然、気付かなかった。

「ま、裏町だからな。逆になることもあるよな。読むたびに新しい発見があるってこった」
「そ、そうだね」

 なんて無理やりの理論。ご愛嬌ということにしていただきたく、申し訳ないと思いはするものの、そういうのも含めて是非とも楽しんでいただければ。

「新しい発見といえば……」

 実は製本版を手に取るのは今日が初めてです。アヤメさんが読んでいるのを横目で見ていると、そこにはハルが登場しているのですが、

「……ハルって、こんなにいい感じなんだっけ?」

 という疑問が。

 この言葉に土御門屋のマスターと、高千穂と、アヤメさんの動きが止まりました。三人ともジッと私を見た後に、プッと笑います。

「なんだ、遅れて魅力に気付いたってやつか?」
「出会いが最悪で、後から発展する恋愛ってあるもんやからねぇ」

 とかなんとか、ニヤニヤしながら肘でコツンと。

「違うって、本物より良い人に描写されてないかってこと」
「そうか? アタシは別に違和感ないけど。じゃあさ、カオルから見て漫画のアタシはどうなんだ?」
「どうって、まんま、だけど」
「高千穂は?」
「それも、まんま」
「だろ? 真神だってそのままだし、ハルも同じさ」
「え~、だって私のイメージだと、もうちょっとツッケンドン……」
「それはカオルの主観が入ってるからだろ」

 あ~、なるほど。私の目線で見た場合だと、私の印象で人物が描かれてしまうってわけか。そうなると客観視している漫画の方が真実に近い感じ? だとすれば本当のハルは常識人で、結構いい奴なわけで、それはいいんだけど――

 改めて、私という存在の客観視が恥ずかしい。

 私ってばはたから見たらこんなに破天荒? それはそれは、なんとなんと、とってもとっても赤面の至りなわけで。

「やっぱり、もう置いてたか」

 ハルの声がしてドキッとします。もう夕方が過ぎたから表での用事が終わったみたい。

「さっき本屋で買おうか考えたが、カオルが持ってるはずだからな……うん、どうした?」

 全員の視線がハルに集まっているので違和感を覚えたようです。

「ハルさんがね、ちょっといい感じやねって話してたんよ。ねえ、薫?」

 なんたる高千穂のブッコミ。これは誤解される表現。

「違う違う、漫画だと客観視って話をしてて、ハルはまともだけど私ってみんなを巻き込んでばかりだなって思って」

「なんだ、またそんなこと言ってんのか」

 ハルはテーブル席に座ってから黒猫の頭を撫でた後に、
 
「だから漫画になってるんだろ」

 静かにつぶやきました。

 その言葉を聞いて、ちょっと考えて、そっか、そうだよねと笑ってしまった私がいます。私は私の道を堂々と闊歩かっぽしてみせると以前に決心したことを思い出しました。

 それから発売記念と称して軽く乾杯し、しばし談笑した後で、

「じゃあ、ここいらで締めておこうかな」

 このままでは話が四散してしまうので、いったん、この場を締めようと思います。それには相応しいセリフがありまして、最後にこんな言葉で統括したいと思います。

 私は両手に札を持ち、勢いよく椅子から立ち上がりました。

「急急如律令にょりつりょう!」
「もう特典の撮影は終わっただろ。早く札を返せ」
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