上 下
1 / 6
第一話

疑心暗鬼

しおりを挟む

「怒り」
それは数ある感情の中でもっとも抱きたくなく、一番扱いにくいものである。
そして怒りは他者に向ける事もあれば己にも抱く。

しかし動物の中には怒りをコントロールするものがいる。
そう、私達人間だ。

人間は予想不可能だ。
彼らは怒りの扱う方法を間違えてる事もあるが糧にし生きながらえるものである。

そして人間の凄さは怒りの話だけじゃない。
人間は他の動物に比べて知恵が発達している。

ここで昔話を一つ。
知恵。それを持つ事は人類の侵した最初の罪だった。
天国で暮らしていた女は蛇に唆され神から食べてはいけないと言われていた禁断の果実を食べ知恵をつけた。やがて男も女に勧められその実を食べ同じように知恵をつけた。
お互いはそこで自分達が裸だと気付き恥を知った。
男と女はそれぞれ木の陰に隠れる。
それを神が不審がる。
『なぜお前達は隠れるのか』
『私達が裸だからです』
『あれを食べたのか!』
知恵を持ち神の怒りに触れて下界に堕とされた。
知恵があるということは疑うことを知る事。
疑う事それ自体が即ち罪である。
昔々まだ地球に人間がいなかった時の話。
そしてそれから壮大な時間が流れたのちにもう1人、楽園からではなく魔界から地球に堕とされた者がいた。

その者こそがこれから始まる「物語」の「主役」なのかもしれない。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

冬の一日は短い。特にそれが貴重な休みだと余計にそう感じてしまう。
窓を見るといつの間にか日は落ちていた。
給料が入ったのをいい事に一日中服やらコスメやらを買い込んだ私は日が暮れた景色を商業施設の窓を眺めながらコーヒーを飲んでいた。土日でこの時間に窓際のカウンター席が空いていてついていた。スマホを取り出そうとバッグに手を入れるとコツっと布の感触が手に当たった。あえて入れておいたリングケースが当たったのだ。  
ケースが入ってる事を確認すると私はそそくさとスマホの記事を読んで気を紛らわす。

「待たせてごめん」
と周吾は私に言ってこのケースを目の前で開けて
「俺とずっと一緒にいてください」という言葉でプロポーズを受けた。最高にロマンチックで素直に嬉しいと思ったが次に自分が何を思ったかと思うのは恐怖の感情だった。「びっくりした。綺麗!」と精一杯笑顔を作ると彼は私に指輪をはめてくれた。
私とは正反対に彼はよかった、よかった‥とプロポーズが成功したからか安堵した表情を浮かべた。私が彼を見て思った事は「羨ましい」だった。
そんなに安心しきっちゃって羨ましい。私は不安でいっぱいいっぱいなのに。そんな表情を察したのか彼は私に大丈夫かと問いかける。「ちょっと気分悪くなっちった」ごめんと謝り彼と別れた。帰りの電車で窓には指輪をつけた自分がガラスに映り込んでドキドキしている。それから2週間私は一回も指輪を付けていない。
でも大切な指輪だ。彼が好きだ。だが結婚は好きだけで成り立つものなのだろうか。

結婚で変わる事が増えるのは断然女性側だ。
苗字から始まり、それぞれの相手の環境に順応しなければいけない。そりゃあ男性にも別の苦労があるのだろうが。

世の中の夫婦は果たしていくらが思い描いている結婚生活を送れてるのだろう。

今年で31。同じくらいの年齢の子は確かに今結婚したり産休中の子もいたりして焦りはあったもののプロポーズされて、他人事が当事者事になった途端怖くなってしまった。素直にプロポーズを受け入れていたら今頃は仕事柄綺麗に手入れをしているネイルを施した人差し指に指輪をしっかりと付けているだろう。

職場では結婚したり子持ちの社員やお客様の旦那の愚痴を私は耳にする。
「上野さんは結婚とかされてるんですか?」
お客様の爪を塗りながら聞かれてまだと答えると
「意外です~」と言われてしまい複雑な気持ちになった事はある。
お客様曰く他のネイリストよりもファッションやメイクが落ち着いているかららしい。
確かに私の服装は室内の仕事では膝下Aラインのスカート にノースリーブの羽織を着ている事が多い。
女性らしく、しかしカッチリしたファッションは好きだしお客様でもデスクワークをしている人は多いのでネイルも服に合わせるてるのでお客様にも褒めてもらったり自分にもしてほしいと言ってくれる方もいるが未婚で意外は言われるのもなんとも言えない気分になって友達に愚痴ると「まあ、20代の子と比べられたなら仕方なくない?つばきだって実際好きな服の系統がそれなんでしょ?」似合ってるからいいじゃんとフォローはされたが。
休みの日で今日みたいに外に買い物にいく時はもっとコートや小物はカジュアルなのだが。

踏み込んだ話が出来るのはネイリストだからだろうか。美容師もきっと同じ事を思う人がいるかもしれない。
やれ、結婚した途端相手に女がいた。などは幸い聞かないが子供が出来たら家事育児全部私なんだと言ってきた知り合いの愚痴はとてもじゃないが婚約者にそうはあってほしくない。ましてや義家族問題や子どもの話に取り合ってもらえないなどそういう話を耳にする度にそういう失敗はしたくないと思いつつ彼を見ていた。彼は一人暮らしで家族とも別居希望。家事はどうだったかな?付き合いはじめてしばらくしてお互いの家でデートした時は彼も一緒にしてくれてはいた。だから彼が私の敵になるはずがない。そう。狡い、卑しいけど「そんな素敵な彼」に愛されたいという自分がどこかにいた。そうだ。私は彼が好きだ。もう31だ。そう言い聞かせ私はコーヒーを飲みほした。

周吾との出会いはいわゆる職場のみんなでご飯に行こうとなった時、誘ってくれた友人が行き場所に悩んでいた時にそれだったら、とおすすめを教えてくれてその流れで強引に友達が「じゃあ春日さんも一緒に行きましょう」と引っ張って連れてきた人だ。
てっきり友人と2人で行くつもりだったから気が乗らないがその時の周吾、その頃の春日さん(当時はそう呼んでいた)は色々気を遣ってくれたのが分かる。
あとから判明したが同じ商業施設の旅行代理店勤務らしい。

だからなのか話しやすく、しかし物腰柔らかでスマートに見えたその人も悩みはあるらしく愚痴もいいあったりネイルについても抵抗はないらしくどうやってこれ描いてるの?俺絵下手なんだと言って来たので友達が持っていたネイルを彼に塗ってこう描くのと実演が始まる。ネイルサロンには男性もたまには来るが大丈夫だろうかと彼を見ていると最初は驚いていた彼も友達がネイルを仕上げていく内に動揺が感心に変わったらしい。
さすがに帰り際除光液で私が落とす羽目になった。
いつもの知り合いと行くご飯もいいが、たまには知らない人と一緒にご飯を食べたり遊んだりもありだなと思えた日だった。

それから3人やもっと大勢でを繰り返して2人でも行くようになり冷やかされながら悪くないかもと思っていたら彼から告白をされた。

付き合って3年。

今は11月。もうすぐクリスマスだ。



その日を機に返事をすれば彼は喜んでくれるに違いない。毎年店が一番混み合う繁忙期だがこのイベントが楽しくてついこの間までは足が弾んだのに、今日は違う。何かが待ったをかけるような気分だ。場所を変えなければ。
私は一旦早足でモールを後にした。

真冬の外は寒い。そして日が暮れるのもあっという間だ。
帰る前に何か食べて帰ろうと思う。モールでコーヒーだけですませたのは行き飽きた場所であるから。たまには違ったものが食べたい。駅に行くまでの道になにかないかと思いスマホで調べる。とその時電話が鳴った。「げ」母からの電話に一瞬引いてしまった。まあいい。出るだけ出て今出先だからと適当なとこで切ればいい。通話ボタンを押しスマホを耳に当てたと同時に母の声が聞こえてきた。『あら、出た』と自分でかけたくせに私がたまにしか電話に出ないせいか驚いているみたいだ。「どうしたの?」と手短にというニュアンスで質問すると『いや、なんて事ないけど元気かと思ってかけてみたのよ。アンタ全然連絡したいじゃない』ケラケラ母は能天気に笑う。「元気だよ。とくにないなら切るね」と言うと母はすかさず『最近、周吾さんとはどうなの?』と聞いてきた。今は話題にしてほしくなかった。「別に変わった事はないよ」と言うなり『そう‥』と母は消沈したような声色でため息をつく。「何?」イラッとし語尾を強くすると母は『あんた達付き合ってどれくらいだっけ?』と聞いてきた。「3年」と言うと母は『周吾さんからは何も言ってこないの?』と聞かれやっぱり電話に出るんじゃなかったと後悔する。「余計な事考えないで」と忠告をする。が『アンタもう31になったでしょ。お母さんの頃は25までお嫁にいかなきゃ心配されたわよ」と言う。うるさい。「お母さんの頃はね」と含みを込め言い返すと母は「まあ、長く付き合いすぎもなんなら他にいい人いないの?」と訳が分からない質問をされた。分かりたくもない。ふざけんな。私は忙しいからなど取り繕うのも忘れて通話ボタンを切った。『他にいい人いないの』には絶句した。彼は物じゃない。
まったくありえなさすぎる!

ふうーっとため息を吐き壁にもたれかかる。ここはどこだろう。寒いから早く建物に入りたい。歩きながら話していたけど駅に着く手前か、大通りから小道に入ってみたがどうやらここは店先の入り口。だれもいない事をいい事に立ち止まったが。ふとガラッと店の引き戸が空き中から定員が看板を店先に出すところだった。あ、と目が合いお辞儀をするが彼は気づかなかったのか中も言わず看板を立てると中に入っていった。カンジ悪。
てかここは何屋?入り口の奥のガラスにはカウンター席があるが一応飲食店かかと思い入り口の看板を見る。ristorante魔窟(まくつ)いや、センス・・と呆れたがメニューを見てさらに唖然とした。キッシュ、ボルシチ、オムライス‥。
メニューの数が豊富だ。
でもキッシュはフランス、ボルシチはロシア、オムライスは日本料理だ。メニューに統一性がない。
しかしあるメニューに目が止まってしまいそれが決定打となり魔窟に足を踏み入れる。レストランでガラッと引き戸を引くのには違和感があった。「いらっしゃいませー」とカウンター奥からよく通る挨拶とカシャンと出入り口の引き戸が閉まる音が聞こえたが中を見て驚く。「誰もいない・・」と声が出た。正確には角の壁に合わせて待ちの姿勢で下を向いてるウエイターと1人いるだけだが。
やっぱ、帰ろうかな。適当になんか上手いこと言ってと後ろに一歩後退りするとウエイターはジトッと私を見て「いらっしゃいませ。一名様こちらにどうぞ」と声をかけられた。「あ、はい・・・」
条件反射で言いくるめられた感じがしたが断れなく私は指定されたカウンター席に腰を掛ける。本当はゆっくり広いテーブルに掛けたいとこだが、私が一人だからだろう。仕方ない。ふうっとため息をつくとウエイターがお冷を持ってくる。お礼を言うとなにもなかったかのようにウエイターはまた先ほどの壁に戻っていった。なんか一言言えと気になったがカウンターに立て掛けてあるメニュー表に目を通すと
さっきは気づかなかったが(仮)と書いてある。
値段は750円という他の店より遥かに安いと思われる金額だ。
これはどういう事だろうと思い思案する。
セットではなくメインのメニューだけでこの金額ってことなのか。
気になる。けどあのウエイターに声を掛けるのは気が引けるなと悩んでいると「お客様もし、お決まりにならない時はおすすめのコースもございますよ」と正面から声がする。エプロンと帽子をつけたその人はウエイターとはコックだろうか。ウエイターとはうって変わって爽やかな声でそう告げた。「あ、いえ。食べたい物は決まってるんですけど」と答えると失礼しましたとコックが言ったので「仮ってなんですか?」と聞いてみるといきなりぱあっと表情が明るくなり彼は語り出した。ここが開店して間もない店だという事を話してくれた。「だからまだメニューも決定はしてなくてお客様次第でメニューも決めていこうと考えてるんですよね」と話してくれた。成る程、だから無人と声には出さず納得してるといつのまにかウエイターが横にいたので「わっ」と驚く。相変わらず仏頂面で表情を変えない。何事と思ったがペンと注文表を準備してるのが見えたのであ、注文かと思い私はリハプッラを注文した。リハプッラは実は彼との思い出がある。彼が初めて連れて行ってくれた多国籍料理店で食べた料理である。それはフィンランドのクリームソースがかかったミートボールといえば分かりやすく周吾に何度もミートボールと言って食べ、その都度リハプッラだってとやり取りをしながら食べたフィンランドの家庭料理である。
日本のミートボールとは違い外はカリカリで中はジューシーな味にミートボールより美味しいと驚いた記憶がある。それまで周吾とのデートは洋食のレストラン中心だったが彼の趣味が旅行好きでグルメな彼にとって自分の趣味を彼女に打ち明けた日でもあった。後日談だが私が多国籍料理を気にいるかヒヤヒヤして見ていたと彼から聞いた時は嬉しくってニヤニヤしたのも覚えている。
楽しかったな。あの頃はー。
1人回想に浸っていると横にウエイターの気配がして何ごとかと思ったらウエイターは手に籠を持っていた。荷物入れだ。荷物を入れろという事なのだろう。一応接客するつもりはあるみたいだけ。
ジッといる?と聞かれたみたいな表情だったので籠を受け取りお礼を言うとまたウエイターはガラスに対面した入り口付近に手を重ねた姿勢で立っている。

そこにいると入り口開けてもお客入ってこないんじゃないかなと思っていたが私はスマホを眺める。
カメラロールを見返す。中にはデートや外食したご飯と周吾との写真ばかりだ。
前は1人でファミレスやカレー屋に行くにも勇気が行ったが周吾とのデートで今は同僚や後輩に美味しいご飯屋を教えてたりできるまでになって、あまりスポーツはしない方だったけど周吾が食べてばかりでは脂肪がつくからと一緒にストレッチしたり。
付き合っていない頃と随分自分も変わったなと思った。
そうしているとキッチンから良い香りがしてお待ちかねのリハプッラが出てきた。
ウエイターは一言「お待たせしました」と言ってコトッとセットメニューが運ばれてくる。


うわ、美味しそう!
接客ベタなウエイターにツッコむのを忘れて私は料理に見入ってしまった。

メインのリハプッラにセットのパンと小さいスープも温かくかわいくカットされたフルーツがサラダもつけられている。

本当にセットであの値段なのかと疑問ではあるがあの金額以上でもケチる必要はない。

食べる前に写真を撮らないとと思いシャッターを構え躊躇してしまった。店内には私1人しかいなくシャッター音が響く。そこでしまったと思い

「あの」とついにウエイターを呼ぶと彼は猫背のままこっちに来る。

「あ•••、ここって写真撮っても大丈夫ですか?」と聞くとウエイターが答える前に奥から「いいですー」とコックのよく通る声が聞こえた。

よかったと安堵しているとウエイターはまた猫背のまま元の位置に戻っていく。

許可は貰えたので私は料理をカメラロールの額面に収まるように綺麗に写す。

頂きます。そっと手を合わせいよいよ一口目を味わう。
ー美味しい!ー

つい笑いが出そうになって慌てて水を飲む。

ウエイターに見られてないか気になったのだがどうやら彼はキッチンの奥にいるのか店内には私だけだ。

リハプッラは周吾と一緒に食べた時と同じように味にクセがない。たしか周吾と食べたのには細かく切ったオリーブが生地に入っていて日本人用にアレンジされているがこれはこれで美味しい。
周吾がいたらそういう事を話しながら今食べていたのかなと思うと少しゆっくり食べる事にした。

結論。魔窟の料理はとても美味しかった。
リハプッラと交互に食べたパンも付け合わせのスープやサラダはどれも口に合い食べ終わる頃には穴場だなあ。これから買い物した後はリピートしようとと決めた。

お冷を飲み切って満腹感に浸っているいつの間にか店内に戻ったウエイターがお冷を持って来た。

「••ありがとうございます」とグラスを渡すと無言で受け取り水を注いでいく。その間ウエイターを横目で観察する。

無愛想だけど絵にはなるよな。
見た感じ爽やかではなく髪はもっさりしていてパーマだろうか。若干うねっていて下を向かれると目が合わせづらい。スタイルも良さそうだが彼は気を抜くと少し猫背じみている。
同じ接客をしているので目に余るところはある。
周吾とはまた違ったタイプだ。
周吾は接客業だからと髪型は気にする方だ。
確かに周吾もオフの日はラフな髪型になってるけど
何考えてるんだろ。

後は会計だけになった。改めて店内を見渡す。
細長い鰻の寝床のような作りの建物は土間の床に私が座っているカウンターの他に対面式のテーブルが2つ。決して広いとは言えない。
なんだかまるで「定食屋見みたい・・・」
「そうなんですよ!」
つい呟いた直後何度か聞いたよく通る声が正面から聞こえてきて「え?」と返す。
目の前にはカウンターを挟んでさっきのコックが顔を出して来た。
「珍しいんですけどね。昼は家の親が昼は定食屋にして夜から俺が仕切ってるんです」
まだ始めたばっかりなんですけどねと付け足す。
どうやらコックと思っていた人は店長らしい。
だからウエイターは看板をつけていたのか。
どこかの誰かとは違う短髪で人懐っこく話すのでウエイターよりもこの人についなんでも質問したくなってしまう。
「ここのメニューって多国籍ですよね。不思議だなと思って」
「そう。メニュー絞る時に俺も悩んだんですよ。
最初は普通に洋食レストランにしようかって悩んでたんですけどね。美味しい物沢山作って出したいって絞るか悩んでいたらコイツが」とウエイターを指を指し「『べつに絞んなくていんじゃね』って」
と店長がウエイターの真似をすると「俺、そんなんじゃねーし」と真似をした彼にウザ!っとでもいいたげな表情で返す。
すると「店では敬語つったろ」と店長に言われるとムスッとして顔を背けた。
「あのー」とそんな「彼」について知りたい事が言いたい事がある私が店長に『彼は?』とも言いたげに目配せすると「ああ、アイツは拾ってきました」とひょうひょうした口調で続けるものだから「は!?」と真顔で返してしまった。いや冷静になれ自分。拾うとは例えでたまたま知り合いでいいウエイターをみつけたという意味かもしれない。
「いやあね、正確には俺の両親がなんですど道端で倒れてるとこ拾ってきて行くあてがないからって住み込みで俺が雇ったんです。最初は親達が人出欲しがっていたんですけどコイツ定食屋に適正なくて俺がこき使う事にしてます」
拾うは例えじゃなく本当に拾って来やがった。ヤバ!
張本人は何か言いたげにしているがますますウエイターに対してのヤバい奴疑惑が止まらない。
「まあ、確かにホスト追い出されて行き倒れ出るしょーもねーヤベえ奴だけど」
ホスト•••。ダルそうにしている彼がウエイターや持て成す系な仕事は彼に向くのだろうか。まあクマが取れればイケメン?ではあるか
「しっかり躾けていきますんでなんかあったら俺に言って下さい。ほらコイツあんなんでしょ?」と気だるそうなウエイターの表情を店長が真似ると「似てねー」とウエイターが不機嫌に返してきた。
なんとなくここの背景が分かってきたところで店長が「でもリハプッラを知ってる人がいてよかった~」
一応メニューには入れてるけど頼む人いるかなってメニューの候補に入れるの迷ってたんだよねと店長が打ち明けると「前に専門店食べて美味しかったから」と言うと店長はそっか~と納得し「よかったらうち、デザートやお酒、あ。苦手じゃなかったらあるから気軽に立ち寄ってね。とくに酒だけはコイツ作るの上手いから」と店長がまたウエイターを指して話したからか驚いた。あ、でもホスト上がりならそうなのかもしれない。
まだ、少し小腹は空いている。
「あの、じゃあ少し飲んでいっていいですか?」
そう申し出るとウエイターはカウンターに入って来て「何にする?」と聞いてきた。
「敬語」と店長に注意され「何にしますか」とウエイターが言い直したので少し笑ってしまった。「おすすめで」と彼に全て任せる事にした。

「ねぇ~~~、どう思う~~~?」
どれくらい飲んだだろう。ウエイターが作る酒は店長の話していた通りどれも飲みやすくてついでと出てきたおつまみも美味しくて完全に出来上がった状態の面倒な奴が誕生してしまった。

「おい、おまえそれくらいにさせろ」
店長はウエイターに水を渡すようにしてるのを止めさせる。
「大丈夫ですよぅ~~。・・・ヒック・・、わたしつよいんで~」
とその手には乗るまいとまたウエイターに酒を注文するが「悪い。材料足りなくなったから今日はここまでだ」と奴がやれやれとため息をつきながら片付けを始めるので、どうせコイツも店長とグルなんだと思うと勝手にまたイライラしてきた。
自分が酒を飲んで定員に迷惑をかけているのは分かってる。でも人は今私しかいないし入ってくる気配もない。だったら少しくらい話を聞いてもらっても
いいではないか。いじけていると店長は「まあ、マリッジブルーってやつじゃない?」と声をかけてくれる。そうなのだろうか。憎いって思うのは異常ではないだろうか。ブルーな気分が不安なら今の私の頭を占めるものを色に例えるなら黒か血みたいな茶褐色な液体が広がっては蠢く。そんな感じだ。
「まあ、してみて嫌んなったら別れれば」
とウエイターが溜息混じりに投げやりに
答える。それは私が飲んでるからって適当すぎる返しではないか?とイラッとした顔をすると店長がまたウエイターを叱るが彼は引かない。「まあ、別れたところで次は無いかもだけどな」と言い切られてギクッとする。そうだ。そんな事もありうるのだ。
何か言い返したいけど反論もしがたい。
「まあ、相手が可哀想だろうな」
またウエイターが言うと店長がさっきより強めに彼を叱る。
「もう、本当ごめんねー!」と店長がぺこぺこ頭を下げるものだからなんだか何をどうしたいのか分からなくなって1人になりたくなった。
「ちょっとトイレに」と言うとウエイターはあっちとトイレの方向を指差しそれに従って目指し個室に入る。顔と目が赤くなって我ながらヤバい。
どうしてこんな事彼らに打ち明けたんだろう。
確かに悪酔いしたのは申し訳ない。
こういった事は同性に相談するべきだっただろうか。いや、無理だ。
彼らだったら何かこの胸に刺さって抜けない棘を取り去ってくれる予感がしたのに。
他力本願で自分が情けなくなる。

鏡に向かうと飲んだからか赤くなった顔に化粧がところどころ剥げていて冬用のお気に入りの縦型籠バッグから化粧道具を取り出そうとしてあれっ?とがさごそ中を焦る。
指輪がない!!!
正確には指輪を入れたケースごとだけど!

(ヤバい、ヤバい!!)
勢いよく席に戻ってきた私を店長とウエイターが驚いた顔で戻ってきたと迎えたが私が床の籠に入れて置いた紙袋を漁ると店長が「大丈夫ー?」探しものー?と聞いて来た。
「はい。ちょっと」
見つかるはず、見つかるはず!と何度も中を確認するが見当たらない。
ヤバい。本当にない。

「本当に大丈夫?バッグに入ってんじゃない?」と探し物と気づいた店長に言われそうかな?と不安げにまたバッグをきちんと確認するも指輪は見つからない。
「指輪なくした•••。」
「え、どんなやつ?」俺らも探すよと店長が申し出たので「婚約指輪です」と告げると「え?」と店長の顔が青くなっていた。

「ショップ袋の中もう一回見てみて!」
一大事とばかり店長はさっきも見たショップ袋を指差す。
「え?はい••」でもそこはさっきも見たから無意味じゃと思いながら袋の中身を出し買った衣類やアクセを出していくがやっぱり箱は出てこない。

ちゃんと付けておくんだった。いや、でもー。

「もう一回こっちのバッグ探して!」
今度は店長が私のポーチを指差したので従う。
「何度も見たんですけど••」こちらも中身を出し底まで確認する。ない。

嘘だ•••。

まさかここに来る前にモールに置き忘れた?
一回電話してみようか。

店長は心配そうに「他に思いあたるところない?ここまで歩いて来たんだよね?」と私の動向について聞いて来てくれる。
しかし「もう一人」はというと
店長と私をよそに腕を組んでこちらの様子を見ているだけでそんな姿を見て焦りがイライラに変わってくる。


心配するフリくらいしろっつーの!!
てゆうかここに来て荷物預かったのってコイツじゃん。

まさかー!

コイツが盗んだ!?
店長は行き倒れていたコイツを両親が拾ったと言っていた。コイツの財布事情は知らないがここも開店してさほど経っていないならたいした持ち金は無いんじゃないだろうか。

たしか指輪には名前は彫っていなかった。
結婚して指輪をもらった友達が不謹慎だが知った話として教えてくれた。リングにイニシャルを彫る人もいるがそうすると買取価格が下がるらしい。考えてみればそうだが話していた友達は深い意味などなくもらった彼から聞いた豆知識と笑ってまあ私はそんな事しないけどと惚気て話していたが。

だからウエイターは指輪を見つけて魔がさしたんじゃないんだろうか。

これ以上私がここで指輪を探す事を諦めて探すのをやめてウエイターを見ていたからだろうか?彼もジッと私を見つめ返してくる。

なんなんだ。こっちが悪いみたいじゃん。
「何?」沈黙が重くやり切れなくなって口を割ったが意外にも彼は私の心を読んだのか「いや、言っておくけど俺はとってねーから」と断言してきた。

「嘘」と声が漏れてヤバ!っと口を覆ったがヤツは表情を変えず壁に寄りかかっているが店長はこの空気を何とかしなきゃと思っているのか頭をかきながら「ごめんね。なんか嫌な思いさせてこっちでも指輪探しておくよ」と申し出られてお願いをする。

もしこのままー。
やましい事を考える。
もしこのまま指輪が見つからなかったらこのプロポーズは無かった事になるのだろうか。

スーッと身体が冷えてく。
そんな考えが思い浮かび本当に自分、最低なんだなという感情に涙が出てきた。

そんなとこを見てしまったからか店長ははいっとティッシュを渡してくる。

私、ただの客なのに
酔っ払いだし迷惑かけるし、怒りにまかせて自分の事お構いなしに気に触った奴疑ったりいまだ周吾のプロポーズ素直に受け入れられないし指輪は見つからないし
最低だ。

「すみませ、••」グスッと謝罪を連呼して2人に詫びる。

「『汝、隣人を愛せよ』」
急にウエイターがそう私に言ってきたので「はあ?」と間抜けに答えると「知らない?」この言葉と聞いて来たので「はい」と返事をするとやれやれみたいな顔をされた。
何なんだ。

「隣にいる奴を自分のように大事にしろと言っていて」とウエイターが説明すると店長が「俺、元々仏教だし」とウエイターの話を遮るのでなんだ、宗教の話かとまた引いた。元ホストから宗教勧誘の話をされるのは御免だ。

「自分大事にしてますよ」自虐気味に答える。
大事にしすぎて自分の事ばっかで嫌になってくるけど。

本当の意味で大事にしてるかは分からないけど。
それに自分を大事にとかピンとは来ない。

「お前、彼氏の事相談する前惚気てたじゃん?」とウエイターに聞かれて(したっけ?)と考えて店長にそうだっけ?と聞くと
「してたよ~。それから突然指輪貰ったけど悩んでるんですけどって言われて女子は分からんって思ったけど~笑」と言われ(あ!)となんとなく思い出してきた。

ウエイターはまた悩ましそうにお前がいると話がそれるとシッシッという仕草をしたが
「まあ、俺の作った酒、うまいやら天才やら言っていたけど•••。それは当然だが人を褒めるのが上手いみたいだな」
「それは•••、仕事柄」
お客様相手の仕事をやっているので話はできるかなくらいだ。
「でもさあ、いい事だよ。ほら男って煽てられると弱いじゃん」と店長も私を固定してくれる。
「なんか、ありがとうございます」と照れていると
「彼氏もそんなとこが惚れてるんだと思うよ」と言われて「でも周吾•••、彼とはその上手くやってけるのかって」
そうだ。恋愛と結婚は違う。
好きと上手くやっていけるかは=(イコール)じゃない。
「まあ、そんなに悩んでるんだったら本人に言えばいんじゃねえ?」
ウエイターがまた適当発言をしたので
「嫌ですよ!嫌われます」と言うと店長がニヤニヤして「嫌われたくはないんだ」と聞いてくる。

なんか店長も冷やかし始めるし、と呆れていると
「結婚したらそれこそ喧嘩は増えるだろうな」とウエイターが言うと
「多かれ少なかれ話し合いの場を設けるのは大事だよ」と店長が意外にも真面目に諭すように答える。

そうなのか。確かにどんなに上手くいって見えそうな夫婦も喧嘩0のところはないらしい。

「まあ、相手もアンタの話じゃ顔はいいらしいし金もあるならふられたら案外またすぐ女作って結婚すんじゃねえ」ケタケタウエイターが笑う。
これには店長も「あるかも!」と同調していたので

「それだけは嫌!!」と反発すると
「じゃあ、やる事は1つなんじゃねえ?」と言われてハッとなる。

「あ、でも指輪」
無くした事を周吾に謝らなくては。

振られるかな。自分。
虫がいいけど今更怖くなる。

「もう1回さ、トイレ探してみようか」
店長にそう言われ

個室に入る手前の洗面台の下を見ると
「あった!」

水色の箱の中身を確認するとちゃんと中には指輪がキラッと光っていた。
「よかったあ~」
安堵し箱を抱きしめてトイレを出て店長達に見せると店長は「なんだ、あったじゃ~ん」
焦った~と気を張って抜けたのか苦笑して脱力していた。
ウエイターはそれを見てまたやれやれみたいなジェスチャーをする。

「大変お騒がせしました・・・」
2人に謝る。
「まあ、見つかってよかったじゃない」
「マジで警察突き出さるとこだったし」
気を遣った返事や自己を安否する感想は様々な言葉をかけられる。

「それでさ、どうするの?」
と店長が率直に質問しウエイターが
「またすぐ失くすんだろ。付けとけよ」
と私に指輪を付けるように促す。

「うん」
まだ、結婚は未知の世界だ。
でもこの先周吾が別の人といるのは嫌だ。

箱のリボンを外し蓋を開ける。
え、ここで付けるの?と店長はそんな顔をしていたが。
丁度いい。
2人が証人だ。
指輪を自分の左手の人差し指に付ける。

「ピッタリじゃん」
ウエイターがニヤッと初めて皮肉を言われた以外の笑顔を見せた。

「まあね」
と言うと「帰り失くすんじゃねーぞ」とまたウエイターに小声を言われ、それに対し店長は「彼氏か?」とツッコんでいた。

店を出た時は陽はとうに落ちていた。
駅にはスーツを着ている人が見られて私みたいに呑んだ人や残業明けの人達なのだろう。

電車を待ちながらふと指輪を見る。
光る「それ」を見つめて「綺麗・・・」とやっと今度はプロポーズの時とは違う素直に思った事を呟いた。

まだ怖い。
でも失くすのも怖い。
やっと気づけた。当たり前だけど。

そんな事がやっと分かると「はあ~」と思った以上に大きな溜息が出た。

周りにいた人がそれに少し反応したので口に手をあてついお辞儀をする。

人の視線を少し浴びた後だろうか。
妙に指輪が気になる。

さっき付けた指輪にまだ胸が高まっているし慣れない。

そうなるとますますそわそわして落ち着きがなくなり私よりもみんな私の指輪に視線がいった気になった。

落ち着け。自意識過剰だ。誰も取ったりはしない。

そう思考を巡らせているとホームに電車が入って来た。

席に座る。そして指輪のケースが入ったバッグを膝に置く。

中々この時間帯でも電車は混む。
車内は丁度良く暖かい。
それに合わせてお酒やらさっきの緊張がきてうつらうつら眠気が襲う。


やば、寝るかも。

そう思うとまた横に人が座る。電車は思ったよりスペースがないにも関わらず詰められる。

こうなると寝られない。

よからぬ事を考える。まさか横に座った人が寝てる隙を見計らい指輪を取ってしまう事を考えてしまう。

いや、流石にそれは自意識過剰だけどまた失くしたりなんかできない。

ふと、さっきのウエイターの『また、失くすんだろ。付けとけよ』という言葉を思い出しソワソワとバッグを握っていた手を指輪に重ねる。

失くさない!今度は絶対に。

決意すると電車は走行を開始する。

バッグの隙間からスマホのライトが光り通知を知らせる。

周吾からだ。

『久しぶりに飯一緒に行きたい』
彼らしい。

つい口角が緩む。

すかさず返信する。
『今日いいお店見つけたんだ。
クリスマスディナーあるから一緒に行かない?』
今度は私が周吾を連れて行く番だ。
魔窟に行ったらどういう反応を彼はするだろう。
驚いて喜ぶ?それとも邪道だって気に入ってはもらえないだろうか。

お店にはお詫びを買っていくべきだろうか。
そもそも出禁にはされないだろうか。
接客をしているから今日の私は相当迷惑な客だっただろう。

そんな事を電車に揺られながら考える。


タタン、トトン。
列車は走る。もうすぐクリスマスだ。
街の眩しく光るネオンを見ながら私はもう一度綺麗と思った。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「ありがとうございました」
カシャンと出入り口の引き戸が閉まると
淡々と最後の客を出口まで送り出すとウエイターはのそのそ閉店の準備を始めた。
エネルギーは必要最低限に使えばいい。
客がいても彼の調子が変わった用に思えないが仕事モードが落ち着くとさらに動作はゆっくりだ。
大体彼は給仕される側の者だった。
よって不服だが三大要求は彼にもある。
拾われた身、従順にしておけば前の職場以上よりはマシな食と寝床は確保できる。


レジを閉めると看板を撤去しメニューのボードを店の奥にしまう。
明日は店長夫婦がまたこの店を開けるため兎に角
片付けと掃除はするようしつこく言われているが片付けまではできても掃除は苦手だ。

それは店長に任せるているが納得していないのかぶちぶち小声を言ってくるが適材適所だ。
しょうがない。

やる事がないから皿は洗う。
キッチンのモップをかけながら店長は今日の客入りの少なさを嘆きウエイターは適当にあしらう。

「それにしてもー」
モップがけに一息ついた店長がウエイターに「洗面台の下からでてくるとはねえ」
やっぱ落としちゃったのかねえ?呑気にけらけら笑いながらウエイターに話しかける。
「そうなんじゃね」と興味がないように返すと「いや、見つかってよかったじゃん!お前だってそんなんだからお客に苦い顔されたり疑われたりするんだから気いつけろ」と叱られ今日何度目もしたようにハイハイと彼を払う。
それが分かり諦めたのか「じゃあ、鍵掛けて来いよー」と言うとポイっと鍵を投げてウエイターに渡す。
「りょーかい」と答えて店長が店の上に消えるのを見送り看板を見せ奥に直す。
それから鍵を入り口まで閉めに行くはずが彼は小さな声で何かを唱える。
すると入り口の鍵がひとりでに回った。
鍵穴からは黒い煙が現れ分散し消えていく。
そして鍵は弧を描きキラッと光ったかと思うとふわっとウエイターの手元に戻る。

魔力を使ったのだ。

「まだ、こんなもんか・・・」と今日使った魔力を彼は振り返る。
たまにこうして自分の魔力の腕を彼は日常で試している。人間に気付かれない範囲で試しているが店長にはバレた事がない。

他愛もなくさっきみたい動作や店長に気付かれない範囲でイタズラを仕掛けたりする。
あとは
「今日は久々イラついたし・・・」勘に障ると手が出るのは下界にいたころの名残か、
今の魔力はその百分の一だろうか。
今日の件の指輪を失くした客は自分に相談した彼氏との未来を信じ切れてなかった。
挙句自分を疑ってきた時は腹が立ったけれど何しろ人間に興味があるのだ。

下界から人間界に貫道されて放り出された彼は自分とは似ても似つかない人間の思考が非常に気になってしかたなく
ときおり今日みたいなお客が来ると(開店してまだ間もないけれど)今日みたいに魔力でちょっかいを出してしまうというか、世話を焼いてしまうというか。
つまるところ指輪を消したりまた出したり全ては魔力の成せる技である。

(まあ、よくもあんなナメクジみたいに男一人の事で悩んでたのが一言であの客は男に対する疑いの感情をそれを奪われたくない決意の感情に変えてしまった)

「やっぱ女無理だわ」
女心とはころころ変わる物である。

思い返すと自分を想っていてくれたと思った女もあれくらい自分の事を想ってくれていたらまた今違った未来があってましてや人間界で働く事なんてなかったはずだ。

いつまでこの生活を続けるのか自分でも検討がつかないが今更下界に帰るなんてナンセンスとは思ってはいるが。

そんな事を考えてると「お前、電気早よ消せー」
と店長が戻って来る。

また生返事をしようとすると「急がねえとお前の夜食、食うぞー」と言われ階段を駆け上がる。

「現金すぎんだろ」と呆れられたのでそれとこれとは別だと話すと今度は店長がはいはいと生返事をする。

魔窟はいつもこうやって静かにー
いや騒がしく閉じる。
そしてまた街の日が落ちる時間にひっそりと口を開けて待っている。

罪深き、愛すべき迷える誰かをー。























しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

処理中です...