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一章
1ー2 一期一会の中国茶屋 白瑞香(はくずいこう)の巻
しおりを挟むポツッ ポツッ
猫を探してる最中、雨は急に降り出した。
「なんでこんな時に!」
その時、視界が悪くなる中何か動いた気がした。
間違いない。
さっきの黒猫だ。
猫は素知らぬ顔をして軒先にある店にフラッと入って行ってしまった。
「待って!」
急いで店に入る。
猫はどうやら店の奥に入ってしまったらしい。
「どうしよう」
とにかく店員に断るしかないが、店内は静かだ。
見ると正面のショーケースには何種類かの茶葉が置いてあり、その上にはレジと奥には色鮮やかな花を乾燥させた瓶が整然と並んでいる。
「ここ・・・もしかしてお茶屋さん?」
入り口の前で入るのをためらっていると奥から何やら物音や喋り声が聞こえて思わず
「すみませーん!」と店員であろう人が中にいると確信し声を掛ける。
すると
「!」
のそっと奥から出て来たのは2メートル近くは身長がありそうな前髪で目を隠し、異国の雰囲気の制服を着こなした店員だった。
「お待たせして申し訳ありませんでした。
いらっしゃいませ」
大きい見た目とは裏腹に丁寧にお辞儀されこちらも返す。
「こんにちは。あの、そちらに猫ちゃんが入っていってしまって。
ポーチを咥えて持って行っちゃったみたいなんですけど」
そこまで言うと
「ああ、そうだったんですね。
少々お待ち下さい」
そう店員は断りすぐ奥から猫ごとポーチを持って来た。
「すみません、この子が」
そう言いながら
「これはお客様のだから返しなさい」
そう注意すると猫は意外にも素直にポーチを口から離した。
「本当にすみません」
店員は頭を下げて桃花にポーチを返す。
「いえ、こちらこそ。ぬいぐるみみたいな形してるからおもちゃみたいって思われたかもしれません」
ポーチを受け取ると猫は桃花にニャアーと鳴いた。
「ニャアーじゃない。本当に子がすみません」
やり取りがおかしくつい少し笑ってしまう。
「いえ、この子このお店の猫ちゃんだったんですね。
ええっとここはお茶屋さんですか?」
「はい。ここは桃花源(とうかげん)。
中国茶や工芸茶を販売しているお店になります」
「そうなんで、すね・・・ッゴホッ・・・ヒュー」
外の雨が酷くなってきた。
(いけない)
急に寒くなってきたからまた咳が出てきてしまう。
「ッゴホッ・・・すみません」
謝ると店員は
「お客様、どうぞこちらへお掛けください。
こちらにお荷物を。ブランケットをすぐにお持ちします」
と桃花の荷物を預かろうとする。
「あの、私でも」
言いにくいが客として入ってきた訳じゃないと遠慮していると
「大丈夫。うちの猫が失礼をしてしまったのですから。
うちはこの通り目立たない場所にありいつも「こんな感じ」ですしお代なんて受け取れません。
風邪もおひきのようですし、是非雨宿りして行って下さい」
そう温かい言葉をかけられて桃花は素直に甘える事にしたのだった。
「こちら白瑞香(はくずいこう)といって喉に効くお茶になります。どうぞ」
店員はそう言ってベンチの端にお盆ごと茶器を置いた。
中には花のように芳しい香りの淡い茶色お茶が入っている。
「ありがとうございます」
礼を言い一口茶を飲むと桃花はその飲みやすさに驚いた。
「美味しい!」
新発見だとでもいった感じで口を押さえると店員も
「気に入って頂けてよかった」
と満足しているようだった。
「あの、こういったお茶初めて飲んだんですけど飲みやすいです」
「よかった。中国茶は現地ではポピュラーなお茶なのですがこちらでは馴染みがあまりないせいかやはり懸念される方が多いので私達も嬉しいです。
そうだ。
よかったらこちらもどうぞ。桃のプリンです」
「ええ、ここ喫茶店もしてるんですか?」
「いえ、これは単に私が従業員用に作った物です」
サラッと店員が言ったので桃花は次の発言に詰まった。
「悪いです。頂く訳にはいきません」
「しかし、この酷い雨では客足は今日は望めません。
従業員も今日は休みの連絡があったので誰かに食べて欲しかったのですが」
店員は心なしかしょげている様に見える。
「是非、頂きます」
弱っている身体に沁みて余計に美味しく感じる。
「このプリン、絶品です」
「お口に合ってよかった」
「あ」
「どうかされましたか?」
「いえ」
(写真撮っておけばよかった)
つい、新しい店や目新しい物を見つけるとカメラを向けたがるのは桃花のクセだが善意で出してくれた物を撮影するなんて無礼だ。
ここは中華街の中にあるもメインの通りからは目立たない場所にある。
それと入ってきてもう一つ気になる事があった。
それはカウンター横の階段だ。
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