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一章

1ー1 一期一会の中国茶屋 白瑞香(はくずいこう)の巻

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汗と一緒に愚痴まで溢れ出しそうだ。

スーパーの従業員勝手口を出て来た迎 桃花(むかえ ももか)は両手いっぱいの紙袋の持ち手を握りしめそう思った。

六月末、長崎市内の気温は湿気を纏い暑い。

新商品の冷凍シュウマイを売り込みたく多めに持ってきたのだ。

しかし
「ごめんねえ、せっかくだけど。
とりあえず餃子と胡麻団子は買うからよろしく!」
と売り場担当者の返事はそう甘くない。

「おかしいなぁ。この間、上司と一緒の時は少しは買ってくれてたのに」

桃花は中途で長崎市内の食品会社に入社したての新社会人だ。

「大丈夫。迎さんは声が小さい事が弱点だけど、ゆっくり話せばみんな話は聞いてくれるから」

初めての営業に弱気になっていた時に上司はそう言ってくれた。

フォローはありがたい。

でも
(そもそも私、広報志望してたんだけどなあ泣!!)

その場では分かりましたと返したけど上手くやっていける気がしない。

インスタやエックスでの投稿を見るのが好きで自分もアカウントを作って発信もしていた。

面接の際、広報に志望する為の自己PRにもした。

しかし、数少ないフォロワーの数や記事の力量不足か新卒だからか配属先は営業だった。


餃子や胡麻団子は確かに美味しい。
桃花だって夕飯に自社の冷凍餃子を使う事だってあるが、新商品だって中に大きいシュウマイを一口かじればひき肉とプリプリのエビが入ってサブではなく食卓のメインになる!

シュウマイの事を考えてると、辺り一体に空腹の胃を刺激するいい匂いが立ち込める。

そうスーパーの側にあるのは長崎の観光名所の一つ、長崎新地中華街だ。

昼時は平日でもここは観光客達も来る事で賑やかだ。

そろそろ休憩したい気分になった桃花は昼食に悩んでいた。

「どうしようかな」
中華街は基本、レストランかテイクアウトだ。


紙袋を両手に大量に持っている為座りたい。
しかし中華街ではテイクアウトする事になる為、それは今は難しい。

「しまったなあ」

今が秋や冬なら、ちょっと行ったコンビニのイートインで肉まんを堪能できたが今は梅雨。

タイミングが悪い。

それに気のせいか空模様が怪しくなって来た。

折りたたみ持って来てるけど紙袋を持った手で傘まで持てるだろうか自信はない。

そう思いながらため息を吐いて下を向いた瞬間

「ニャっ!!」
と正面横から現れた猫と追突しそうになり大勢を崩した。

「ッ!イタッ」
手をついたから顔からは倒れなかったが盛大に転けた。

「あ~」
スーツの泥を仕方なく払う。

猫は少し遠くから頭を低くしてジッと見てる。

よく見るとまん丸く眉毛辺りが白い変わった猫だ。

縮こまってる様子からまるで「ごめんね」と謝ってるように見えた。

しかし悪いのは前方不注意の自分だ。

「ごめんね。君かわいいね」
驚かせた為小声で謝ると猫はピクッと反応し、桃花の奥に落ちているある物に飛びついた。

「え?」
気づくと猫の口は何かを咥えている。

それは桃花のカバンから落ちたパンダ型のポーチだった。
赤ちゃんパンダのぬいぐるみ型ミニポーチは猫には楽しそうなオモチャに見えたのだろう。

「っ、それ返して」
そっと手を伸ばすが猫には人間がオモチャを横取りするようにしか思えない。

ピューッと勢い良く猫はポーチを加えたまま中華街を駆けていく。

「嘘?待って・・・っこほっ」
砂埃のせいか、気温が急に下がって来たからか桃花からは咳が出てきた。

(まただ。風邪でもないのに)
痰が絡む咳が出る

「ゴホッゴホッ・・・」
咳が止むとヒューと気管から音がする。

季節の変わり目だから子供の頃にかかり治ったと思われたが軽い喘息だろうか。

(とにかく今は猫を探さなきゃ)

桃花はバッグや紙袋をしっかり持ち直し猫が向かった方角に向かって行った。



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