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第百八十話『僕たちは取り囲まれる』
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宣伝兼二人の観光時間をギリギリまで引き延ばすために考え出した、衣装姿での文化祭めぐり。衣装係の子は少し苦い表情をしていたけど、『それが二人の観光のためになるなら』と予備のもう一着を作り上げてくれた。そのバックアップがあるからこそ、ボクは自信を持ってその提案が出来たのだけど――
「……これ、想像以上に宣伝効果が凄いことになってない?」
「――うん、多分つむ君が思ってた以上にね」
主演を無事務め切った二人と一緒にいろんな人に囲まれている状況の中、セイちゃんと千尋さんはぼんやりと呟く。校舎へと移動するべく少し中庭に出ただけだったのだけれど、その瞬間に群衆が僕達の周りに集まってきていた。
何がすごいかって、それが生徒だけじゃなく外部からのお客さんも多く加わってできている集団だという事だ。二人の演技は今までのどれより真に迫っていたし、一番見ごたえがあった劇なのは間違いない。……だけど、まさかここまで凄いことになるとは……
「ねえねえねえ、あの演技どうやって練習したの⁉」
「凄まじくいい演技だった、ぜひ君たちの劇をまた見せてほしい!」
「脚本を最大限生かす役者の鑑のような演技だったわ、興味があればぜひ役者としての勉強を……‼」
興味から質問する人、純粋な賞賛を投げかける人、色々すっ飛ばしてスカウトする人まで、たくさんの人がセイちゃんたちに話しかけようと詰め寄ってくる。文化祭と言う特別な空気がそうさせるのか、お客さんたちのテンションも思った以上に高いようだった。
とはいえ、この人たちをどうにか捌いて行かないと文化祭巡りなんて出来るはずもない。人波をかき分けて進もうにもこの人たちはセイちゃんたちを目当てにしているわけだし、僕たちが動けばこの人たちも確実についてくる。どうにかして強引に校舎に入れば、もう少しだけ切り抜けるのが楽にはなりそうなのだけれど――
「……すみませーん、ちょっとここ通りますねー!」
どうにか突破策を練っていたその時、この数週間で大分耳になじんできたクラスメイト達の声が横から聞こえてくる。その直後、人波を切り裂くようにして十数人の生徒たちが現れた。
「ごめんなさい、ただでさえウチ公演スケジュールがカッツカツなので! できれば主演の二人にも文化祭を満喫させてあげたいんで、できれば散っていただけると幸いですー!」
僕たちの誰も言い出せなかったことを堂々と告げると、人波が僅かに怯んだかのように広がる。それでも色々と諦められない人はいるのか、完全に輪が散っているわけではなさそうだ。
だけど、さっきのガッチガチな人の輪に比べればいくらか隙間も見付けられるし、牽制もしてくれているから、上手く後者の中には入れれば振り切ることだってできそうだ。
ここに居続ければ他の人も千尋さんたちを見つけるだろうし、そうなればまた人の輪が完成するのは時間の問題だ。……なら、ここは思い切るしかないかもしれない。
「……二人とも、ちょっとごめんね!」
二人の手をとっさに握りしめ、僅かに見える隙間を縫うようにして校舎の中へと飛び込んでいく。二人とも最初は少し戸惑っていたけれど、すぐに意図を察してついてきてくれた。
必死に走っている中でクラスメイトと目が合うと、「よくやった」と言わんばかりにパチンと語目を瞑られる。とっさの判断ではあったけれど、どうやら期待に応えることは出来たようだ。
「走るよ二人とも! ……目標は、とりあえずいつもの踊り場で!」
「うん!」「了解!」
文化祭のテンションに中てられて高らかに告げると、二人がそれに同調して返してくれる。それがなんだか嬉しくて、足もなんだか軽くなるような気がして。
――僕達の文化祭巡りは、全力疾走から幕を開けた。
「……これ、想像以上に宣伝効果が凄いことになってない?」
「――うん、多分つむ君が思ってた以上にね」
主演を無事務め切った二人と一緒にいろんな人に囲まれている状況の中、セイちゃんと千尋さんはぼんやりと呟く。校舎へと移動するべく少し中庭に出ただけだったのだけれど、その瞬間に群衆が僕達の周りに集まってきていた。
何がすごいかって、それが生徒だけじゃなく外部からのお客さんも多く加わってできている集団だという事だ。二人の演技は今までのどれより真に迫っていたし、一番見ごたえがあった劇なのは間違いない。……だけど、まさかここまで凄いことになるとは……
「ねえねえねえ、あの演技どうやって練習したの⁉」
「凄まじくいい演技だった、ぜひ君たちの劇をまた見せてほしい!」
「脚本を最大限生かす役者の鑑のような演技だったわ、興味があればぜひ役者としての勉強を……‼」
興味から質問する人、純粋な賞賛を投げかける人、色々すっ飛ばしてスカウトする人まで、たくさんの人がセイちゃんたちに話しかけようと詰め寄ってくる。文化祭と言う特別な空気がそうさせるのか、お客さんたちのテンションも思った以上に高いようだった。
とはいえ、この人たちをどうにか捌いて行かないと文化祭巡りなんて出来るはずもない。人波をかき分けて進もうにもこの人たちはセイちゃんたちを目当てにしているわけだし、僕たちが動けばこの人たちも確実についてくる。どうにかして強引に校舎に入れば、もう少しだけ切り抜けるのが楽にはなりそうなのだけれど――
「……すみませーん、ちょっとここ通りますねー!」
どうにか突破策を練っていたその時、この数週間で大分耳になじんできたクラスメイト達の声が横から聞こえてくる。その直後、人波を切り裂くようにして十数人の生徒たちが現れた。
「ごめんなさい、ただでさえウチ公演スケジュールがカッツカツなので! できれば主演の二人にも文化祭を満喫させてあげたいんで、できれば散っていただけると幸いですー!」
僕たちの誰も言い出せなかったことを堂々と告げると、人波が僅かに怯んだかのように広がる。それでも色々と諦められない人はいるのか、完全に輪が散っているわけではなさそうだ。
だけど、さっきのガッチガチな人の輪に比べればいくらか隙間も見付けられるし、牽制もしてくれているから、上手く後者の中には入れれば振り切ることだってできそうだ。
ここに居続ければ他の人も千尋さんたちを見つけるだろうし、そうなればまた人の輪が完成するのは時間の問題だ。……なら、ここは思い切るしかないかもしれない。
「……二人とも、ちょっとごめんね!」
二人の手をとっさに握りしめ、僅かに見える隙間を縫うようにして校舎の中へと飛び込んでいく。二人とも最初は少し戸惑っていたけれど、すぐに意図を察してついてきてくれた。
必死に走っている中でクラスメイトと目が合うと、「よくやった」と言わんばかりにパチンと語目を瞑られる。とっさの判断ではあったけれど、どうやら期待に応えることは出来たようだ。
「走るよ二人とも! ……目標は、とりあえずいつもの踊り場で!」
「うん!」「了解!」
文化祭のテンションに中てられて高らかに告げると、二人がそれに同調して返してくれる。それがなんだか嬉しくて、足もなんだか軽くなるような気がして。
――僕達の文化祭巡りは、全力疾走から幕を開けた。
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