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第百五十七話『あたしとエリー』
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テレビ一杯に映し出された体育館の舞台の上で、紡君と犀奈が身振り手振りを交えながらやり取りを繰り広げる。物語が読めないあたしのためだけに作られたこの舞台は、今のまま本番に出しても何ら問題ないんじゃないかと思えるぐらいに堂々としたものだった。
二人とも活き活きと会話繰り広げていて、エリーとマローネがまるでその場に生きているかのように思えてしまう。イメージはあたしたちとは言え完全に同じってわけでもないはずなのに、二人の演技は完全にキャラクターと一体化しているように思える。
あたしは近いうちに犀奈と並んで、紡君が見せてくれた演技よりもさらにいい演技をしなくちゃならない。それがあたしがやるべきことで、あたしじゃなきゃできないことだ。……誰かを演じる、まして主役になるなんて初めてだけど、だからと言って泣き言を言っていられる余裕はない。
「『私は、私が生まれた意味を探していた。……そして今、それは明確に定まりました』」
紡君の演じる声に少しだけ重ねるようにして、あたしはエリーのセリフを呟く。手のピンと伸ばし、犀奈をまっすぐに見つめる紡君の眼には、演技だとは思えないぐらいに真剣で、それ故にどこか危うさすらも感じる光が宿っていた。
演技中の記憶が殆どないって言っていたし、これが紡君の言う所の『入り込む』って奴なのかもしれない。紡君なのに紡君じゃないというか、他の人が重なっているというか。……あたしにこれが出来るかと言われると、少し微妙な気がするけれど――
『大丈夫、千尋さんは自分が正しいと思うエリーを演じればいいから。誰が何というかそれが正解になるんだからね』
解散間際に紡君が暮れた言葉が、あたしの中でリフレインする。『自信を失う必要なんてないんだ』って背中を押してくれる。紡君の言う通り、皆が見るのはあたしのエリーだ。紡君の影響なんて知らない、あたしが演じるエリーだ。……いくら尊敬してるからって、完全に紡君と同じにならなくていいんだよね。
個のエリーってキャラはあたしのことをイメージして作ってくれたんだと、紡君は満足げな表情で教えてくれた。確かに見ていてもエリーとは話が合いそうな感じがするし、マローネとの出会いをきっかけに変わっていくのもなんだかあたしと紡君の関係に似ているような気がする。……まあ、あたしが紡君との出会いにそこまで重大な意味を見出していたかと言うと微妙なのだけれど――
「……あの時あたし、凄い直感が働いてたんだなあ」
雨降る中の本屋さんで、紡君がすごく嬉しそうな表情を浮かべて電話をしてた時。あの時の紡君の表情がすごくキラキラしてて、あたしはそれから目が離せなくて。……絶対に真正面から話をしてみたいって、そう思ったんだ。
「エリーも、そうだったのかな?」
物語が紡がれる舞台の上に、あたしはそんな問いを投げかける。キャラクターにこんな風に語りかけるなんて、一体いつぶりだっただろうか。初めてかもしれないし、そうじゃないような気もするし。……もしかしたら、小さい頃にやってたりしていたのかもしれない。
それは分からないけれど、舞台が進むにつれてどんどんとあたしとエリーの距離が近づいていくような気がする。エリーが抱く気持ちの全部、あたしも何となく分かるから。大切な人と出会って変わりたいと思う気持ちは、痛いぐらいに今も抱いてるから。
だから、それを目一杯形にしよう。エリーの存在を借りて、あたしの今までも押し出して。……そう思えば、少しだけ演技ってものに対するプレッシャーが薄れるような気がして。
「……よし、練習頑張らなくっちゃ!」
映像が終わると同時に伸びをして、あたしは部屋の中で立ち上がる。……そして、紡君の演技を思い出しながら腕をピンと伸ばした。
二人とも活き活きと会話繰り広げていて、エリーとマローネがまるでその場に生きているかのように思えてしまう。イメージはあたしたちとは言え完全に同じってわけでもないはずなのに、二人の演技は完全にキャラクターと一体化しているように思える。
あたしは近いうちに犀奈と並んで、紡君が見せてくれた演技よりもさらにいい演技をしなくちゃならない。それがあたしがやるべきことで、あたしじゃなきゃできないことだ。……誰かを演じる、まして主役になるなんて初めてだけど、だからと言って泣き言を言っていられる余裕はない。
「『私は、私が生まれた意味を探していた。……そして今、それは明確に定まりました』」
紡君の演じる声に少しだけ重ねるようにして、あたしはエリーのセリフを呟く。手のピンと伸ばし、犀奈をまっすぐに見つめる紡君の眼には、演技だとは思えないぐらいに真剣で、それ故にどこか危うさすらも感じる光が宿っていた。
演技中の記憶が殆どないって言っていたし、これが紡君の言う所の『入り込む』って奴なのかもしれない。紡君なのに紡君じゃないというか、他の人が重なっているというか。……あたしにこれが出来るかと言われると、少し微妙な気がするけれど――
『大丈夫、千尋さんは自分が正しいと思うエリーを演じればいいから。誰が何というかそれが正解になるんだからね』
解散間際に紡君が暮れた言葉が、あたしの中でリフレインする。『自信を失う必要なんてないんだ』って背中を押してくれる。紡君の言う通り、皆が見るのはあたしのエリーだ。紡君の影響なんて知らない、あたしが演じるエリーだ。……いくら尊敬してるからって、完全に紡君と同じにならなくていいんだよね。
個のエリーってキャラはあたしのことをイメージして作ってくれたんだと、紡君は満足げな表情で教えてくれた。確かに見ていてもエリーとは話が合いそうな感じがするし、マローネとの出会いをきっかけに変わっていくのもなんだかあたしと紡君の関係に似ているような気がする。……まあ、あたしが紡君との出会いにそこまで重大な意味を見出していたかと言うと微妙なのだけれど――
「……あの時あたし、凄い直感が働いてたんだなあ」
雨降る中の本屋さんで、紡君がすごく嬉しそうな表情を浮かべて電話をしてた時。あの時の紡君の表情がすごくキラキラしてて、あたしはそれから目が離せなくて。……絶対に真正面から話をしてみたいって、そう思ったんだ。
「エリーも、そうだったのかな?」
物語が紡がれる舞台の上に、あたしはそんな問いを投げかける。キャラクターにこんな風に語りかけるなんて、一体いつぶりだっただろうか。初めてかもしれないし、そうじゃないような気もするし。……もしかしたら、小さい頃にやってたりしていたのかもしれない。
それは分からないけれど、舞台が進むにつれてどんどんとあたしとエリーの距離が近づいていくような気がする。エリーが抱く気持ちの全部、あたしも何となく分かるから。大切な人と出会って変わりたいと思う気持ちは、痛いぐらいに今も抱いてるから。
だから、それを目一杯形にしよう。エリーの存在を借りて、あたしの今までも押し出して。……そう思えば、少しだけ演技ってものに対するプレッシャーが薄れるような気がして。
「……よし、練習頑張らなくっちゃ!」
映像が終わると同時に伸びをして、あたしは部屋の中で立ち上がる。……そして、紡君の演技を思い出しながら腕をピンと伸ばした。
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