地獄タクシー Ⅱ

コノミナ

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6章 写鬼

写鬼

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第六章 写鬼

ある山の中にある御堂
その中に護摩を焚いている僧侶が読経を唱え
白い皿の真っ赤な液体を筆につけ白い紙に信玄と書いて
火の中にくべると
火が倍の大きさに燃え上がり
その火は龍の形になって
まぶしく光った

夕方の東京駅、
男が大阪からの新幹線が18番線ホームに着き
ドアが開くと
「きゃー」
「大ちゃん」
若い女性の声が聞こえた
男は腰が低く頭をぺこぺこと
下げながら階段に向かって歩いていた

「だれだれ?」
「花田大作よ」
女子高校生らしい少女が隣に居た友人に聞いた
「恵子、誰だか知らないの?」
「うん、何やっている人の?」
「芸人」
「あっ、私お笑い見ないから」

花田大介は階段をおり新幹線改札を出ると
突然胸を押さえて倒れ痙攣を起こした
「きゃー」
さっきまで囲っていた周りの女性が悲鳴と共に離れた
騒然とする改札口には駅員や救急隊員や
鉄道警察隊が集まってきた

その騒ぎをよそに東京駅八重洲口で
客待ちをしていた礼司に番が来て
妻を気遣う老夫婦の荷物をトランクに入れた

「どちらまで?」
「羽田までお願いいたします」
男は東北訛りで言った
「はい羽田空港ですね、かしこまりました」
礼司が返事をして
タクシーを走り出すと
男が話しかけてきた。

「運転手さん」
「はい」
「さっき新幹線の出口で
花田大作が倒れていました」

「えっ?どうしたんですか?」
「ファンが携帯で写真を撮っていたら急に胸を押さえて」
「まだ若いのにねえ」
「芸能人は食事の時間も寝る時間も不規則ですからね」
礼司は自分がテレビマンだった頃を
思い出しながら言った

「そうなんですか?」
「ええ、みなさんが思っている以上にひどいですよ」
「なるほど」
男は妻の手をぎゅっと握った
その時、二人の生きる強さが弱っているのに
礼司は気がついた

「どちらまで行かれるんですか?」
「ええ、九州まです」
「あの~、ご主人」
「はい」

「死じゃだめですよ」
「は、はい?」
「まだ、奥さんの認知症それほど
ひどくならないですよ」
「わ、わかるんですか?」
男は体を乗り出した

「はい」
「でも、最近徘徊がひどくて私はこいつを
何度殺そうかと思ったか」
「いいえ、今住んでいらっしゃる場所が悪いんです」
「えっ?」
「塀のそばに大きな庭石がありますよね」

「は、はい」
「その下に女性の人骨が」
「ええ?でも住んだのが曽祖父の代ですから
100年以上になるはずですが」
「そうですね、でも近くに最近道路が出来ませんでしたか?」

「はい、山側にトンネルを掘っています」
「それで井戸が枯れた」
「そ、その通りです」
「まったく。道路特定財源は自然を壊しやがって」
礼司が昔テレビ局を辞める原因は政治の金の問題を
追求してある党に嫌がれていたからであった

「それで、家の周りの気の流れが変わったんです」
「それで、どうすれば?」
「とりあえず奥さんの寝室を変えてください」
「はい」
男は元気に返事をした

「もし、ご予算があれば石を取ってください」
「はい、早速造園やに電話をします」
「はい遺骨は古いですから、供養してください」
男が言うとさっきまで黙っていた女性が
突然声を出した

「はい、ありがとうございます」
「どういたしまして、あはは」
男は妻の顔を見て驚いていた
「か、勝子」
男は妻の手を握って
声をだして笑った
「あはは」

礼司が運転したタクシーが羽田に着くと
「ありがとうございました」
男はぺこぺこと頭を下げて礼を言うと
男は20,000円を礼司に渡した
「これ料金とチップです」
「こんなに」
「いいですよ。死のうと思っていたんだから、安いですよ」
「ありがとうございます、このお礼はいつか」
「気にしないでください」
礼司はお金を受け取って車を走りだした

「ああ、死ぬ気だったんだ」
ルームミラーで後ろを見ると
着物を着た女が後ろのシートに座っていた
「はい、成仏してください」
その女の霊は軽く頭を下げて消えていった
礼司は上機嫌で車を走らせていると
携帯の電話が鳴って電話を受けた

「こんにちは、由美です」
「おお、しばらくどうした?」
「明日会いませんか?」
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