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06:二人の行末

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「あ、旦那様。私も目を閉じてしますからね。そうじゃないと旦那様はご自分のお顔のアップを見ることになっちゃいますから」
 ププッと吹き出す旦那様。
「ははは!それは確かに嫌だな」
「でしょ?はい、それじゃいきますよぉ~」

 旦那様の顔の位置をよく確認して目を閉じる。
 そしてそっと口付けた。
 頬ではなく旦那様の唇に。
 ビクンと一瞬震える旦那様。

 直前になって私なりに酔った頭で考えた。
 頬にキスしたら次は唇になるわけだから、だったら最初から唇にしちゃった方がいいのでは?と。
 ま、酔った勢いもあったとは思うけど。

 すぐに離そうと思ったのに、後頭部と背中にたくましい腕がまわされて逃れられない。
「んーっ!んーっ!!」
 どれくらい時間が経ったかわからないけれど、ようやく離れた時は息も絶え絶えだった。
「はぁはぁ…もう旦那様ってば何するんですか?!」
「すまん。我慢できなくなった」
 なんでよ?!…というか、もう腰にまわした手も離してほしいんですけど。

「君は思っていたより小柄で顔も小さいんだな。艶やかな黒髪と緑のつぶらな瞳もとても素敵だ」
 真正面から私の顔を見つめる旦那様。
「旦那様…もしかして見えてます?」
「ああ、はっきりと見える。呪いは本当にキスで解けるものなのだな」

 目の前にある旦那様の顔には涙が流れていた。
「君はずっと私の目になってくれていたが、君の顔だけは見る機会がなかった。ああ、こんなにかわいらしい女性だったとは」
 今度は旦那様からキスの嵐を浴びせられ、それまでの酔いもあって私はふにゃふにゃになってしまったのだった。


 その後も旦那様に密着されて何度も祝杯をあげた。
 明日も仕事があるからとようやく解放された私はなんとか自室にたどり着き、今朝は頭痛とともに目が覚めた。
 まだ寝ぼけていた時は「昨夜のことってもしかして夢だったのかな?」とも思ったけど、この頭痛がそうでないことを告げている。
 とにかく二日酔いでも仕事はしっかりこなさないとね。
 そして執事さんにいい薬はないか聞かなくちゃ。

 身支度を整えて廊下に出ると、いつも冷静沈着で無口な旦那様の従者が真っ赤な目をして廊下を走っていく。
 旦那様を起こしに行って気がつき、急いで他の使用人の方々に報告するのだろう。

 このお屋敷にお住まいなのは旦那様だけなので使用人の数も少ない。
 今朝もいつものように厨房の手伝いをしていると、執事さんから「至急全員集まるように」と言われ、エントランスホールに移動した。
 まぁ、全員といっても10人にも満たないんだけど。

 待っていると旦那様が手すりに触れることなく堂々と階段を下りてきた。
 まだ知らなかった人達から嗚咽が漏れてくる。
 階段を降り切らず、数段上から旦那様が使用人達に話しかける。

「朝の忙しい時間に仕事の手を止めてしまって申し訳ない。見ての通り、呪いが解けて私は目が見えるようになった。今まで心配させてしまったがどうか安心して欲しい」
 そう言い終わると私の方を見て手招きする旦那様。
 おずおずと前へ進むと、手を差し出されて数段上がって旦那様の隣に並ばされる。

「皆も知っての通り、彼女は不思議な力で私の目の代わりを果たしてくれた。そして昨夜、彼女のキスで私の呪いは解けた。その献身だけでなく、彼女の人となりを大変好ましく思うので、近いうちに伴侶として迎え入れるつもりだ」
 そう言って肩を抱き寄せられると拍手が沸きあがった。

「ちょ、ちょっと待ってください!昨夜は酔った勢いだったのに本当にいいんですか?!」
 突然の宣言にあわてる私。
「酒の勢いは嫌だったか?では、ここで改めてやり直すとするか」
 手を取られて階段を降りると私の前に旦那様がひざまずいた。
「私は貴女を心から愛している。どうかこれからの人生を私とともに歩んでほしい」

 真剣なまなざしを向けられ、断れるはずもない。
 だってこんな素敵な人、他に知らないもの。
「わ、私でよろしければ」
「貴女以外に考えられないさ」
 立ち上がって抱きしめられて何度もキスされたけど、皆が見ていてすごく恥ずかしかった。


 そそくさと仕事に戻るつもりだったのに、執事さんから旦那様とともに朝食の席につくよう言われてしまった。
「いつも食事には貴女が付き添ってくれていたが、一緒に食べることだけはできなかった。だが、これからはいつでも一緒だ」
 今までにないとても柔らかな表情の旦那様になぜか胸がときめいてしまった。

 その日のうちにわけのわからぬままドレスや装飾品を買いに連れて行かれた。
「取り急ぎ既製品ですまないが、後でちゃんと作らせるから」
 私なんかにお金を使わないでください!と何度言っても聞き入れてもらえなかった。

 後日、購入したドレスを着せられて王宮へ。
 何の心の準備もないまま国王陛下の御前に連れていかれた。
 そりゃ間違いなくドレスが必要だよね。

「そなたの目が治って何よりだ。で、隣りは呪いを解いた姫君かな?」
「はい。彼女の口付けで呪いはすべて消え去りました」
 旦那様の横で真っ赤になる私。
「ははは!これはまたずいぶんとかわいらしい姫君だな」
「あげませんよ」
 旦那様、何を言ってるんですかっ?!

 陛下がおっしゃるには、旦那様の呪いが解けた翌日に軍の上級幹部の1人が休職を申し出たらしい。
 朝、目が覚めたら目がまったく見えなくなっていたんだとか。
 私はまったく知らない人だけど、貴族の家柄を笠に着て威張りちらし、実戦時には部下を囮にして逃げ出すような人物だとずいぶん後になって聞いた。

 王宮の後は軍本部へ復帰の挨拶に連れて行かれた。
 そこでも旦那様はキスで呪いが解けたことや、私を伴侶にすることを部下の皆さんに話してしまっている。
「将軍、おめでとうございます!」
「末永くお幸せに!」
 また真っ赤になる私。


 しばらくして私の実家の了承も無事に得られたので正式に旦那様の婚約者となった。
 それと同時に旦那様は私の希望も叶えてくださった。
 まず国王陛下のご配慮で治癒魔法持ちの方を紹介していただき、能力を少しでも伸ばせないか試すことになった。
 この力が誰かの役に立てるのならがんばりたいと思うから。
 また国立の魔法研究所で視覚共有の研究にも協力している。
 ここで視覚だけでなく聴覚も共有できるということが判明し、軍の医療施設の協力を得て検証を重ねている。
 いつかいい結果が出せればいいなと思う。


 やがて準備を重ねて迎えた結婚式は晴天に恵まれ、たくさんの方々が祝福してくれた。
 式を終え、お姫様抱っこされて教会に入りきれなかった人達の前に出ると歓声が上がる。
「貴女と視覚を共有していた時は我々がつながっているようで悪くはなかったけれど、やはり呪いが解けてよかったと思うよ」
 ぽかんとしていると不意にキスされた。

「やはり自分の顔よりも貴女の顔を見てキスしたいからね」
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