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第3話 王宮魔術師
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オーナーは魔法陣の調整のため月に一度来る程度だったが、最近は毎週のように顔を出すようになった。
いつも差し入れのお菓子を持ってきてくれて、時には仕事終わりに食事に誘ってくれる。休みの日に植物園や博物館に連れて行ってくれたこともある。
同性の友人すらいなくて、人付き合いが苦手な私はとまどってばかりだけど、それを察してくれているのか、オーナーはいつも私を気遣った誘い方をしてくれる。
さらに私がこの国ではめずらしい黒髪を気にしていることに気付いたオーナーは、帽子をプレゼントしてくれた。普段使いできるシンプルなもので、センスの良さを感じる。
オーナーと話すのはとても楽しい。
元王宮魔術師とあって魔法についてわかりやすく説明してくれるし、本好きという共通点もある。そしてとても物識りだ。疑問に思ったことを尋ねれば何でも答えてくれる。
だけど私達はあくまで雇う側と雇われる側。だから決して勘違いしてはいけないといつも自分に言い聞かせる。
先日は休日に王立魔法院を見学させてくれた。
魔法研究の最高機関で、一般の人が入る機会などまずない場所だ。
「実は僕は辞めたわけじゃなくて休職扱いなんだ。だから今も僕の部屋はあるんだよ」
たくさんの書籍や書類が積まれた部屋を見せてくれた。
オーナーの専門は魔法陣だそうだ。本の複製魔法陣も昔から取り組んでいたものらしい。
そしてオーナーの先輩である年配の魔術師のところへ連れて行かれた。
「こんにちは、お嬢さん。私は魔力属性について研究しており、魔力判定装置の改良も担当しております。貴女も子供の頃に触ったことがあるでしょう?ああ、せっかくいらしたのですから、作成中の試作機を触っていただきましょうか」
確かに故郷の教会で触れたことがある。属性なしですごくがっかりしたことを今でも思い出す。
もしもあの時に何か属性が見出されたのなら、きっと今とは違う人生があったのだろう。あの憧れの魔法学院の制服を着ることもできたかもしれない。
試作機は10台近くあり、大きさも形もそれぞれ異なる。
「研究の参考にしたいので、一通り触って魔力を通してみていただけますか?」
「あ、はい」
言われたとおりに触って魔力を通す。光るものもあれば無反応のものもある。
光るものは、どれも金色の光の粒がたくさん生まれてくる。とてもきれいだ。
「ありがとうございました。とても興味深かったです。ぜひまたお願いしたいところですね」
年配の魔術師はなぜか少し興奮気味だった。
毎週のようにオーナーと交流するようになって半年ほど経った頃。
仕事を終えた私は、オーナーからの伝言で王都の中心部にある大きな商会にやってきた。
オーナーのご実家が経営する商会で、私の勤め先である貸本屋もここの事業の1つなのだそうだ。
「すまないね。仕事で疲れているところをわざわざ来てもらって」
立派な応接室に通されると、すぐにオーナーがやってきた。
窓の外はもう暗くなりかけている。
女性の事務員がお茶を出して去っていくと、一瞬空気がゆがんだ気がして思わず顔をしかめる。
「ああ、ごめんね。会話が部屋の外に漏れないように魔法陣を展開したんだ」
「さっそく本題に入ろうと思うけど、今日は貸本屋のオーナーとしてではなく王宮魔術師として君と話したいと思う」
「はぁ」
話がよく見えないのだが、どういうことだろうか?
「以前、魔力属性について説明したことは覚えているかな?」
「はい。火・水・土・風がありますが、他にもあるんでしたよね」
オーナーがうなずく。
「そう。先日魔法院で触ってもらった魔力判定装置の改良版は、緑や氷など他の属性も検出できるもので、すでに一部で実運用に入っているんだ。だけど、他にも公表されていない属性が2つある。それは光と闇だ」
光と闇?
「この2つは他の属性と違って効果が目に見えるものではないのが特徴だ。まぁ、簡単に言えば光は祈り、闇は呪いといったところかな」
なかなか興味深い話だけど、それが私と何の関係があるのだろうか?
「ところでハートの栞の噂のことを覚えているかな」
「はい」
「実は君と他の人達とは使う栞が違うんだ」
それは気付いていた。私の作業専用の栞がいつも用意されていたから。
「他の人が使うものは栞そのものにあらかじめ魔力を付与してある。魔力量が少ない人でも作業しやすくするためだ。だけど君が使う栞には魔力付与はない。それは君自身の魔力量が豊富だからだ」
オーナーがテーブルの上にハートの栞を置く。
「そして、このハートの栞は君しか使っていないんだ」
あ、そうなんだ。そこまでは気付かなかった。
「まず君が祈りをこめて複製した時、通常ではありえない金色の魔力が見えた。そして実際に祈りをこめたハートの栞を魔法院で調べさせてもらった。さらに先日は改良版の魔力判定装置の試作版を触ってもらったわけだが、いくつか金色に光ったよね?」
こくんとうなずきながら考える。
もしかしてあれは単なる見学ではなく、私を調べるためだった?
オーナーがここで姿勢を正す。
「王立魔法院としては、君が光属性の持ち主であるという結論に至った」
いつも差し入れのお菓子を持ってきてくれて、時には仕事終わりに食事に誘ってくれる。休みの日に植物園や博物館に連れて行ってくれたこともある。
同性の友人すらいなくて、人付き合いが苦手な私はとまどってばかりだけど、それを察してくれているのか、オーナーはいつも私を気遣った誘い方をしてくれる。
さらに私がこの国ではめずらしい黒髪を気にしていることに気付いたオーナーは、帽子をプレゼントしてくれた。普段使いできるシンプルなもので、センスの良さを感じる。
オーナーと話すのはとても楽しい。
元王宮魔術師とあって魔法についてわかりやすく説明してくれるし、本好きという共通点もある。そしてとても物識りだ。疑問に思ったことを尋ねれば何でも答えてくれる。
だけど私達はあくまで雇う側と雇われる側。だから決して勘違いしてはいけないといつも自分に言い聞かせる。
先日は休日に王立魔法院を見学させてくれた。
魔法研究の最高機関で、一般の人が入る機会などまずない場所だ。
「実は僕は辞めたわけじゃなくて休職扱いなんだ。だから今も僕の部屋はあるんだよ」
たくさんの書籍や書類が積まれた部屋を見せてくれた。
オーナーの専門は魔法陣だそうだ。本の複製魔法陣も昔から取り組んでいたものらしい。
そしてオーナーの先輩である年配の魔術師のところへ連れて行かれた。
「こんにちは、お嬢さん。私は魔力属性について研究しており、魔力判定装置の改良も担当しております。貴女も子供の頃に触ったことがあるでしょう?ああ、せっかくいらしたのですから、作成中の試作機を触っていただきましょうか」
確かに故郷の教会で触れたことがある。属性なしですごくがっかりしたことを今でも思い出す。
もしもあの時に何か属性が見出されたのなら、きっと今とは違う人生があったのだろう。あの憧れの魔法学院の制服を着ることもできたかもしれない。
試作機は10台近くあり、大きさも形もそれぞれ異なる。
「研究の参考にしたいので、一通り触って魔力を通してみていただけますか?」
「あ、はい」
言われたとおりに触って魔力を通す。光るものもあれば無反応のものもある。
光るものは、どれも金色の光の粒がたくさん生まれてくる。とてもきれいだ。
「ありがとうございました。とても興味深かったです。ぜひまたお願いしたいところですね」
年配の魔術師はなぜか少し興奮気味だった。
毎週のようにオーナーと交流するようになって半年ほど経った頃。
仕事を終えた私は、オーナーからの伝言で王都の中心部にある大きな商会にやってきた。
オーナーのご実家が経営する商会で、私の勤め先である貸本屋もここの事業の1つなのだそうだ。
「すまないね。仕事で疲れているところをわざわざ来てもらって」
立派な応接室に通されると、すぐにオーナーがやってきた。
窓の外はもう暗くなりかけている。
女性の事務員がお茶を出して去っていくと、一瞬空気がゆがんだ気がして思わず顔をしかめる。
「ああ、ごめんね。会話が部屋の外に漏れないように魔法陣を展開したんだ」
「さっそく本題に入ろうと思うけど、今日は貸本屋のオーナーとしてではなく王宮魔術師として君と話したいと思う」
「はぁ」
話がよく見えないのだが、どういうことだろうか?
「以前、魔力属性について説明したことは覚えているかな?」
「はい。火・水・土・風がありますが、他にもあるんでしたよね」
オーナーがうなずく。
「そう。先日魔法院で触ってもらった魔力判定装置の改良版は、緑や氷など他の属性も検出できるもので、すでに一部で実運用に入っているんだ。だけど、他にも公表されていない属性が2つある。それは光と闇だ」
光と闇?
「この2つは他の属性と違って効果が目に見えるものではないのが特徴だ。まぁ、簡単に言えば光は祈り、闇は呪いといったところかな」
なかなか興味深い話だけど、それが私と何の関係があるのだろうか?
「ところでハートの栞の噂のことを覚えているかな」
「はい」
「実は君と他の人達とは使う栞が違うんだ」
それは気付いていた。私の作業専用の栞がいつも用意されていたから。
「他の人が使うものは栞そのものにあらかじめ魔力を付与してある。魔力量が少ない人でも作業しやすくするためだ。だけど君が使う栞には魔力付与はない。それは君自身の魔力量が豊富だからだ」
オーナーがテーブルの上にハートの栞を置く。
「そして、このハートの栞は君しか使っていないんだ」
あ、そうなんだ。そこまでは気付かなかった。
「まず君が祈りをこめて複製した時、通常ではありえない金色の魔力が見えた。そして実際に祈りをこめたハートの栞を魔法院で調べさせてもらった。さらに先日は改良版の魔力判定装置の試作版を触ってもらったわけだが、いくつか金色に光ったよね?」
こくんとうなずきながら考える。
もしかしてあれは単なる見学ではなく、私を調べるためだった?
オーナーがここで姿勢を正す。
「王立魔法院としては、君が光属性の持ち主であるという結論に至った」
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