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第6話 指導

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「先ほどは失礼な口の聞き方をしてしまい、大変申し訳ありませんでした!」
 ガバッと第五王子殿下に頭を下げる。

「公式の場でもないし、知らなかったんだから気にするな。むしろお前は俺とこいつの恩人だ。こちらこそ頭を下げねばなるまい。本当にありがとう」
 頭を下げる殿下にあわてる。

「どうかお顔を上げてください!私なんてたいしたことはしておりませんから」
 第五王子殿下は馬術競技の大会で活躍されている方だということを、ここにきてようやく思い出した。


 その後しばらくは殿下と院長が馬術談義をして、時々私が質問するという展開だったのだが、ど素人である私の疑問がよほどツボだったらしく、しまいには殿下が笑い出した。

「ははは!お前、気に入ったぞ。動物と話せるし、その髪形も馬のしっぽみたいでおもしろいしな」
 どんだけ馬好きなんだよ、この人は。

「よし、王宮の通行許可証を出してやるから、俺が呼んだら王宮へ来い」
「へっ?!」
 なんでそうなるの?

「俺が馬や他の動物と話したい時に来てほしいんだ。ちゃんと事前に連絡するし、お前の都合も考慮する。もちろんタダでとは言わん。仕事ということで報酬も出すし…そうだ!お前に乗馬を教えてやろう」
「えっ、乗馬ですか?」

「ああ。お前、その制服は魔法学院の学生だろう?卒業後の進路はどう考えているか知らないが、もしも地方で働くなら馬は乗れた方がいい。馬は俺の得意分野だから、それなりに教えてやれるぞ」
 私は王都の出身ではないけれど、地方都市の中心部で生まれ育ったので馬とは縁がなかった。

「あ、あの、大変ありがたいお話ではございますが、さすがに馬術競技とかは無理だと思いますけど」
「ははは、いきなりそんなことはしないさ。まずは馬の楽しさを知ってほしいだけだ」

 馬術競技経験者である院長と殿下の間で勝手に話が進み、私は平日の午後が週に1度、さらに第1と第3日曜の午後に王宮へ通うことになってしまった。



 馬に対する思い入れが強い第五王子殿下の乗馬指導は、意外にも熱血スパルタではなかった。

「おおっ、いいぞ!その調子だ」
 とにかくまず褒める。それがどんなささいなことであっても。
 そして、こうしたらもっといいという助言をしてくれる。
 こういう点はちょっと院長に似ているかもしれない。

 誰だって褒められれば悪い気はしない。
 馬に乗る楽しさにハマりだした頃、ちょっとした障害物を飛び越える練習を取り入れられた。

「どんなところへ行くかわからないから、いろいろできた方がいいだろ?」
 うまくいくとやっぱりうれしいし、さらに上を目指してみたくなるわけで。



「勝敗とかは気にしないで、まずは楽しんでこいよ」

 魔法学院の最高学年になった年、なぜか私は馬術競技の小規模な大会に参加することになっていた。
 乗馬服は第五王子殿下が用意してくれたのだが、なんと恐れ多くも第三王女殿下のお下がりである。
 まんまと殿下にはめられた気がしないでもないが、まぁいいか。

 馬は王宮での練習ですっかり仲良くなった小柄な牝馬を借りた。

「今日はよろしくね!」
『まかせといて!』

 参加者の中で一番キャリアが浅いこともあり、残念ながら成績は最下位だったけど、最後まで走り抜いてたくさんの拍手をいただいた。

 第五王子殿下は芦毛の愛馬とともに見事優勝を果たした。
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