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第1話 神器の宣託
しおりを挟むカラン カラン カラン
無駄に陽気な鐘が鳴り響く。
「おめでとうございます!貴女の職業は『勇者』です!」
「…は?!」
私が暮らす小さな町の聖堂に神器が巡回してきたとのお触れがあり、今年成人年齢に達した私は一仕事終えて夕方になってから聖堂へと出かけた。
「あの、これって商店街の福引で使うガラポンですよね?」
聖職者の衣装をまとったおじさんが目をむいて大声を出す。
「失礼な!商店街の方がこれを真似たのです。これは古より伝わる神器なのですからね」
「はぁ、そうなんですか」
そのわりにはずいぶん薄汚れてる気がするけど。
「それよりもリストによるとこの町で貴女が一番最後ですよ。時計回りにゆっくり1回転させてくださいね」
成人年齢に達すると誰もがこの神器により女神様から何かしら授かることになっている。
加護や職業、特殊な能力などさまざまだが、まぁたいていは生活魔法だ。
なんでもいいけどお金儲けにつながるものだといいな~とか思いながらハンドルを握ってぐるっと回す。
ガラガラ コトン
受け皿には金色の玉が1つ転がり出てきた。
そして冒頭の陽気な鐘の音につながるのである。
「ちょ、ちょっと待ってください!きっと何かの間違いです。私なんて平凡な人間ですから勇者なんてありえません!」
あわてる私。
「いいえ、神器に誤りなどございませんよ。まずはこちらをご覧ください」
聖職者のおじさんがガラポンの玉の投入口のふたを開ける。
「この中をのぞいてみてください」
真っ暗ですけど。
「えっと、暗くてよくわかりません」
「あ、そうですね。では直接持って軽くゆすってみてください」
言われるままゆすってみるけれど音はしない。
「空っぽですよね?」
「はい、確認されましたね。ではもう1度回してみてください」
聖職者のおじさんがふたを閉めてから回すとジャラジャラと音がする。
そして出てきたのはまた金色の玉。
「何度やっても同じものが出てくるのです。なんせ神器ですからね!」
なぜか自慢気な聖職者のおじさん。
「あの~、空っぽのはずなのに音が鳴るのはどうしてですか?」
「それは雰囲気づくりかと」
その機能、必要か?
聖職者のおじさんが言うには、勇者となった者は早急に神聖都市へ向かわねばならないらしい。
旅費はちゃんと負担してくれるとのことだが、こっちにだって仕事とか生活とかあるわけで、いろいろとやらねばならない。
「あれま、またずいぶん変わったのを引き当てちゃったもんだねぇ」
勤め先の商会へ戻り、たまたま出くわした商会長さんに報告する。
「君は仕事が速いし人当たりもいいから抜けてほしくはないんだけど、こればかりはしかたないね。もし役目を終えて復帰したかったらいつでも遠慮せずに戻っておいで」
ポンポンと頭をなでられた。
ずっと商会の寮住まいだったので、たいした荷物はないから荷造りもあっという間に終わった。
翌日、商会長さんや先輩方から餞別や道中のおやつなどをたくさん持たされて待ち合わせ場所の聖堂へ向かう。
「「がんばってこいよ~」」
「いつか戻ってきてまた元気な顔を見せてね」
涙ぐみそうになるのを我慢して答える。
「はい、行ってきます!」
聖堂では昨日の聖職者のおじさんの他に聖堂騎士が数名待っていた。
「私は神器を持って次の町へまいりますが、こちらの聖堂騎士2名が貴女を神聖都市まで送り届けることになっています」
「わかりました、よろしくお願いします!」
最初の挨拶は大事だ、うん。
途中で聖職者のおじさん達と別れ、私と聖堂騎士2名との旅が始まる。
幸い気さくな人たちで、神聖都市について教えてくれたり世間話をしたりして、思っていたより楽しい旅になった。
「俺は神器による宣託で騎士と出たんだが、王宮ではなく聖堂の騎士を選んだんだ」
「へぇ、そういうのって選べるものなんですか?」
「状況にもよるかな。俺の時は両方の募集があったんだが、王宮の方は身分によって扱いに差があるという噂だったんで聖堂の方にした」
「私の時は王宮の募集がなかったので、地方の騎士団か聖堂かで迷ったのですが、あちことまわれる聖堂騎士を選びました」
人それぞれにいろいろとあるらしい。
なんだかんだ言っているうちに神聖都市へ到着した。
神聖都市はどこの国にも属さない宗教国家だ。
同行してくれた聖堂騎士たちにお礼と別れを告げ、大聖堂へと案内される。
立派な建物に圧倒されつつ通されたのは控室だった。
「失礼しま~す」
控室には先客がいた。
「…あ、はじめまして」
銀髪で眼鏡をかけた細身の男性で、なんか見るからにいいとこの坊ちゃんって感じである。
「えっと、もしかして貴方も神器で選ばれちゃった人ですか?」
「…あ、はい」
声が小さいので少々聞き取りづらい。もっと元気出せよ。
「そうなんだ。私は勇者らしいんだけど貴方は?」
「…です」
「は?!」
おいこら、全然聞こえなかったぞ。
「…聖女…です」
ああ、ごめん。それは言いづらかったかもねぇ。
「へぇ、男の聖女ってありなんだ。まぁ、私が勇者らしいからそれもありかもね」
「…貴女は気にならないんですか?」
こちらを見つめる彼。
「そりゃ気にならなくはないけど、何度神器を回しても同じだったからしかたないかなと思ってさ」
「…家族はみんな武芸や領地経営に関する技能を授かっているのに、僕だけ聖女なんてわけのわからないもので、しばらく泣き暮らしてました」
聞けば貴族の三男であるらしい。
悲しそうな彼を見て、真正面に立ってガシッと両肩をつかむ。
「大丈夫!私に任せときなさいっ!」
「…え?」
「私が勇者でそっちが聖女なんでしょ?だったら私が必ず守る。だって勇者だもん!」
あれ、おかしいな。
なんか急に勇者の自覚が出てきた気がする。
彼の表情がようやく緩んではにかむように微笑む。
「…はい、頼りにしています」
やべぇ。
この人、そこらへんの女性よりきれいでかわいいわ。
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