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第6話 変化
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少女は高等学院に入学し、新しい友人もたくさんできたようだ。
高等学院は身分は一切関係なく実力重視なので、合格してからも決して楽な道ではないが、日々がんばっているようだ。
家事をしっかりこなしつつ、放課後や休日には友人達と出かけ、空き時間にはよく本を読む。
私の仕事も順調で、担当編集者が言うには以前は若いファンが多かったが、最近では上の年齢層にも広がっているらしい。療養所での生活は、私の生活習慣だけでなく心の持ちようも変えていたのかもしれない。
新しい生活がすっかり日常となった頃、海辺の療養所から2通の手紙が届いた。
1通は所長から私宛て、もう1通は少女の母親から娘宛て。
夕食後に2人して封書を開く。
「…先生、私に新しいお父さんができたみたいです」
「そのようだな。こちらの手紙にも書いてある」
所長と少女の母親が結婚したのだ。
「帰ったらお父さんってうまく言えるかなぁ?あ、そうだ。夏季休暇には何かお祝いを持って帰った方がいいですよね?」
「そうだな。何か揃いで使えるものがいいだろう。今度の休みにでも見に行くか」
私は結婚祝いの品を楽しみながら選べている自分自身に驚いていた。
そして少女の夏季休暇はともに海辺の町へ行き、少女の家族に混ぜてもらって心温まる時間を過ごした。
少女が高等学院の最高学年になってしばらく経った頃。
午後、担当編集者が我が家を訪ねてきた。いつも私が出版社に出向いて打ち合わせをするので、こういうことはかなりめずらしい。
「まずはこれに目を通していただけませんか」
手書きの原稿を手渡される。作者は見知らぬ男性名だ。
架空の戦記物だが、読んでいくうちに惹き込まれてしまっていた。争う双方に譲れぬ正義があり、どちらにも肩入れしたくなる。
「これはすごいな」
「でしょう!編集部一同、大絶賛なんですよ!」
「だが、なぜこれを私に?」
「先生、ただいま戻りました!…あ、お客様でしたか。お騒がせして申し訳ありません!」
学院から帰ってきた少女が謝る。
「彼女が前に言ってた使用人ですか?」
「ああ、そうだが」
「ちょうどよかった。貴女にもお話を伺いたかったんです」
お茶を出し終えた少女を私の隣に座らせる。
「これ、貴女ですよね?」
差し出された原稿に、あからさまにうろたえる少女。
「投稿者の連絡先はこの家の住所でしたが、私が見慣れている先生の文字じゃないし、作風も違いすぎる。さて、説明していただきましょうか?」
少女はおとなしくすべてを白状した。
「それ、学院の文芸部で連載していたものを大幅に手を加えてまとめ直したんです」
ああ、そうか。
この原稿用紙に見覚えがあると思ったら、高等学院内の売店でしか販売していないものだ。
かくいう私も文芸部に所属していて、現在の作品の原型となるものをいくつか部誌に載せていた。
「部員のみんなにおだてられて『出版社に送ってみたら?』って言われて、つい勢いで送っちゃったんです。住所を知ってる出版社って先生が本を出してるところだけだったし…」
だんだん声が小さくなる少女に編集者がニッコリ笑う。
「そうでしたか。それは我々にとって大きな幸運でしたね。さて、隣に大先輩もいることですし、本格的に打ち合わせをしましょうか」
高等学院は身分は一切関係なく実力重視なので、合格してからも決して楽な道ではないが、日々がんばっているようだ。
家事をしっかりこなしつつ、放課後や休日には友人達と出かけ、空き時間にはよく本を読む。
私の仕事も順調で、担当編集者が言うには以前は若いファンが多かったが、最近では上の年齢層にも広がっているらしい。療養所での生活は、私の生活習慣だけでなく心の持ちようも変えていたのかもしれない。
新しい生活がすっかり日常となった頃、海辺の療養所から2通の手紙が届いた。
1通は所長から私宛て、もう1通は少女の母親から娘宛て。
夕食後に2人して封書を開く。
「…先生、私に新しいお父さんができたみたいです」
「そのようだな。こちらの手紙にも書いてある」
所長と少女の母親が結婚したのだ。
「帰ったらお父さんってうまく言えるかなぁ?あ、そうだ。夏季休暇には何かお祝いを持って帰った方がいいですよね?」
「そうだな。何か揃いで使えるものがいいだろう。今度の休みにでも見に行くか」
私は結婚祝いの品を楽しみながら選べている自分自身に驚いていた。
そして少女の夏季休暇はともに海辺の町へ行き、少女の家族に混ぜてもらって心温まる時間を過ごした。
少女が高等学院の最高学年になってしばらく経った頃。
午後、担当編集者が我が家を訪ねてきた。いつも私が出版社に出向いて打ち合わせをするので、こういうことはかなりめずらしい。
「まずはこれに目を通していただけませんか」
手書きの原稿を手渡される。作者は見知らぬ男性名だ。
架空の戦記物だが、読んでいくうちに惹き込まれてしまっていた。争う双方に譲れぬ正義があり、どちらにも肩入れしたくなる。
「これはすごいな」
「でしょう!編集部一同、大絶賛なんですよ!」
「だが、なぜこれを私に?」
「先生、ただいま戻りました!…あ、お客様でしたか。お騒がせして申し訳ありません!」
学院から帰ってきた少女が謝る。
「彼女が前に言ってた使用人ですか?」
「ああ、そうだが」
「ちょうどよかった。貴女にもお話を伺いたかったんです」
お茶を出し終えた少女を私の隣に座らせる。
「これ、貴女ですよね?」
差し出された原稿に、あからさまにうろたえる少女。
「投稿者の連絡先はこの家の住所でしたが、私が見慣れている先生の文字じゃないし、作風も違いすぎる。さて、説明していただきましょうか?」
少女はおとなしくすべてを白状した。
「それ、学院の文芸部で連載していたものを大幅に手を加えてまとめ直したんです」
ああ、そうか。
この原稿用紙に見覚えがあると思ったら、高等学院内の売店でしか販売していないものだ。
かくいう私も文芸部に所属していて、現在の作品の原型となるものをいくつか部誌に載せていた。
「部員のみんなにおだてられて『出版社に送ってみたら?』って言われて、つい勢いで送っちゃったんです。住所を知ってる出版社って先生が本を出してるところだけだったし…」
だんだん声が小さくなる少女に編集者がニッコリ笑う。
「そうでしたか。それは我々にとって大きな幸運でしたね。さて、隣に大先輩もいることですし、本格的に打ち合わせをしましょうか」
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