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従士隊の詰め所は屋敷の近くにある。
緊急事態が起きた場合、すぐ屋敷に駆けつけられるように。
子供の足でも走っても五分とかからず着く。
部屋の扉を開けると、苦しそうな顔をした銀髪の少年がベッドに横たわっていた。
「兄さん、兄さんっ!」
「う、ううううっ! トーニャ」
「しっかりしろ、ナイル!」
従士隊の仲間や父親のグラバスが心配そうに見守っている。
ナイルは意識を保つことがやっと、かなり衰弱している。
額には脂汗が浮かび、足は紫色に濃く変色している。
はぁはぁ、と呼吸をするのもしんどそうだ。
「は、早く治療をしないと……」
「トーニャ、落ち着くんだ」
「これを見て落ち着けるわけないでしょう! どうして、皆さんは何もせずじっとしているんですか! 早くしないと兄さんが!」
叫ぶトーニャに、困り顔の大人たち。
皆、戸惑うだけで、見守る以外にしない。
その理由をグラバスが語る。
「わから……ないんだ」
「わからない?」
グラバスがトーニャに答える。
その返事に困惑する私。
「森で遭遇したのはブラックゴブリンだった。だが……魔物にナイルが足を攻撃された素振りはなかった」
最初は立つことができたライル。
しかし、町に戻る途中にどんどん酷くなっていく。
現在は自力で立つこともできないほど衰弱した状態に。
怪訝に思っている中。
急ぎで呼びつけた薬師が部屋に入ってくる。
ナイルの診察結果、その理由が判明する。
「おそらく……デススパイダー、です」
「「「デススパイダー?」」」
聞きなれない魔物の名だったのか、従士隊の声が重なった。
「大きさ五ミリにも満たない、小さな毒蜘蛛よ、噛まれるとアッという間に死を運ぶことからそう名付けられたとされているわ」
「お、お嬢様……お詳しいですね、その通りです」
「え、ああ、たまたま、絵本で呼んだのよ」
適当に誤魔化す私。
子供の絵本にデススパイダーなんて物騒な生物が出てくるわけないが、非常時なので追及されることもなかった。
本当は実験島の文献を読んだんだけどね。
毒の有効活用法が、資料に残っていた。
デススパイダーは大人しく、積極的に攻撃的してくる種ではない。
だが、運悪くナイルの足元にいたのだろう。
戦闘中に足元から噛まれでもしたら、避けることはできない。
運が……あまりにも悪い。
「お、お願いしますっ、兄さんに解毒薬をっ!」
「それが……そう簡単には作れないのです」
原因は判明したが、渋い顔をする薬師。
薬の素材にはバウンスの実の種が必要とのこと。
これは珍しいものではなく、簡単に用意はできる。
ただ、下処理には準備が必要であり、数日大気中に放置して有害物質を種から抜く必要がある。
「……そ、そんな」
絶望したようなトーニャの顔。
目元にぶわりと涙が浮かぶ。
(そうだ、思い出した)
今更ながら、この時の出来事を……。
過去では直接この場所に居たわけじゃない。
でも、私の学園入学前に同じ事件が発生していた。
彼の未来が私の記憶にないのは当然だ。
彼はこの時の毒が原因で亡くなっていたのだから……。
緊急事態が起きた場合、すぐ屋敷に駆けつけられるように。
子供の足でも走っても五分とかからず着く。
部屋の扉を開けると、苦しそうな顔をした銀髪の少年がベッドに横たわっていた。
「兄さん、兄さんっ!」
「う、ううううっ! トーニャ」
「しっかりしろ、ナイル!」
従士隊の仲間や父親のグラバスが心配そうに見守っている。
ナイルは意識を保つことがやっと、かなり衰弱している。
額には脂汗が浮かび、足は紫色に濃く変色している。
はぁはぁ、と呼吸をするのもしんどそうだ。
「は、早く治療をしないと……」
「トーニャ、落ち着くんだ」
「これを見て落ち着けるわけないでしょう! どうして、皆さんは何もせずじっとしているんですか! 早くしないと兄さんが!」
叫ぶトーニャに、困り顔の大人たち。
皆、戸惑うだけで、見守る以外にしない。
その理由をグラバスが語る。
「わから……ないんだ」
「わからない?」
グラバスがトーニャに答える。
その返事に困惑する私。
「森で遭遇したのはブラックゴブリンだった。だが……魔物にナイルが足を攻撃された素振りはなかった」
最初は立つことができたライル。
しかし、町に戻る途中にどんどん酷くなっていく。
現在は自力で立つこともできないほど衰弱した状態に。
怪訝に思っている中。
急ぎで呼びつけた薬師が部屋に入ってくる。
ナイルの診察結果、その理由が判明する。
「おそらく……デススパイダー、です」
「「「デススパイダー?」」」
聞きなれない魔物の名だったのか、従士隊の声が重なった。
「大きさ五ミリにも満たない、小さな毒蜘蛛よ、噛まれるとアッという間に死を運ぶことからそう名付けられたとされているわ」
「お、お嬢様……お詳しいですね、その通りです」
「え、ああ、たまたま、絵本で呼んだのよ」
適当に誤魔化す私。
子供の絵本にデススパイダーなんて物騒な生物が出てくるわけないが、非常時なので追及されることもなかった。
本当は実験島の文献を読んだんだけどね。
毒の有効活用法が、資料に残っていた。
デススパイダーは大人しく、積極的に攻撃的してくる種ではない。
だが、運悪くナイルの足元にいたのだろう。
戦闘中に足元から噛まれでもしたら、避けることはできない。
運が……あまりにも悪い。
「お、お願いしますっ、兄さんに解毒薬をっ!」
「それが……そう簡単には作れないのです」
原因は判明したが、渋い顔をする薬師。
薬の素材にはバウンスの実の種が必要とのこと。
これは珍しいものではなく、簡単に用意はできる。
ただ、下処理には準備が必要であり、数日大気中に放置して有害物質を種から抜く必要がある。
「……そ、そんな」
絶望したようなトーニャの顔。
目元にぶわりと涙が浮かぶ。
(そうだ、思い出した)
今更ながら、この時の出来事を……。
過去では直接この場所に居たわけじゃない。
でも、私の学園入学前に同じ事件が発生していた。
彼の未来が私の記憶にないのは当然だ。
彼はこの時の毒が原因で亡くなっていたのだから……。
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