上 下
41 / 43
1章 異世界漂流

40話 お金稼ぎ

しおりを挟む
 暴行事件から数日が過ぎた頃の公民館。俺とダグラスは椅子に座って雑談を楽しんでいる。

 「物騒だなぁ。まあ俺が言えた事じゃないが」

 レベッカが集団リンチされた話をし、ダグラスは恐怖に顔を歪ませていた。

 「米軍は空爆しまくってたんだっけ?」
 「ああ、ジャップの国を破壊するためにな。でもよ――――」

 ダグラスがお気に入りのサングラスを外す。
 青の透き通った瞳を、こちらに向けて来る。

 「民間人を殺しまくるのはどうかと思うんだ。ジャップは憎いし嫌いでたまらない。でも、罪のない国民は別なんじゃないのか? それに捕虜に虐待をやる奴だって居る」

 失礼ながら都市を焼き払った米軍は極悪非道な集まりだとずっと思っていたが、彼のような心優しい人物もちゃんと居るんだなと実感した。

 「まあそんな暗いお話は置いといて――――」

 ダグラスが再びサングラスを掛け直し、椅子を立ち上がった。背筋は一直線に伸びている。

 「セルゲイ、金に興味はないか?」

 笑顔でそう問われた。

 「金? まああるにはあるけど……稼ぎ方なんて分からないよ」

 ネガティブな態度の俺に、彼が明るく言う。

 「ズバリ、狩りをやるんだよ。上手くいけば一晩で2000万稼げるぞ」

 2000万。
 その数字を耳にして、勢いよく飛び跳ねる。

 「そ、そんな大金を稼げるのか! ……あ」

 感情が高ぶって大声を出してしまう。
 周りの人間から視線を刺されている事に気付くと、気まずい気持ちで静かに席へ戻った。

 「まあまあそうすぐに喜ぶなって。言っておくが、2000万のやつはかなり危険だぞ? それで死んでいった奴も大勢居る」
 「じゃあ何からやれば?」
 「最初は魔物の退治とかからだな。さあ行こうか!」
 「え、ど、どこにだよ?」

 腕を掴まれて引きずられるかのように玄関へと向かう。

 「ギルドさ! 事務所とも言うがな」

 活発なダグラスはそう言いながら、俺の体を引っ張って行った。
 転生人街を出てしばらく歩いた所に、そのギルドとやらがあった。木造建築で大きな三角の屋根が特徴的だ。

 引かれるがままギルドへ足を踏み入れると、レベッカのように甲冑を身に纏った騎士も居れば、ハマスの戦闘員みたいな怪しい見た目の奴までもが滞在していた。

 「これまた凄い所に来たな……」

 端っこのテーブルで仲間と楽しそうに会話している帝国人達は柔らかな雰囲気だが、反対側で武器の手入れを行っているバラクラバを身に着けた人達には殺伐としたオーラが張り付いている。

 異世界の人間と現実の人間が合わさった空間を目の当たりにし、何だか小説の世界に迷い込んだ気がした。まあ実際、ここは小説の世界以上に摩訶不思議で、奇天烈な所だ。おかげで退屈はしない。
 ダグラスに受付員が待つカウンターへ案内される。

 「コイツ新人の冒険者なんだが、いい仕事はないか?」

 受付に立っている初老の男性へ訊ねるダグラス。

 「新人の冒険者は、この方ですか……そうですね、帝都の外れにある村に盗賊のアジトがあるので、そこへ行ってみてはいかがでしょうか」

 提案されたダグラスがこっちを振り向く。

 「アジトの壊滅だとよ、どうだ? 行ってみるか?」
 「うん、そうするよ。でも最初から1人なのはちょっと……」

 並大抵の兵士は撃退できるので盗賊如きに負ける筈ないだろうが、初めての仕事を1人でこなすのは少々不安だ。特に油断は絶対禁止だ。

 「その事なら大丈夫さ、頼りになる先輩がやって来るから……ん? どうやらもう来たみたいだな」

 ギルドの玄関へ目を向けると、緑の野戦服と真っ黒な覆面に身を包んだ男が堂々とした様子でこちらへ進んで来ていた。
 その姿を見た瞬間――――コイツ、絶対ヤバい奴だと確信した。
 野戦服と覆面。これだけ見ればもはやただのテロリストだろう。おまけに肩に掛けている銃もゲリラが好んで使うAK74だ。

 男が歩く姿を自分含め、この場に居る全員が映画を鑑賞するかのように沈黙の態度で眺める。
 彼が俺とダグラスの目前に迫ると、歩みを止めた。

 「やあダグラス。調子はどうだい?」

 覆面を被っているので全体としての表情は分からないが、少なくとも目は笑っている。

 「いつも通り良好さ。この子のサポートを頼みたいんだが、できそうか?」

 ダグラスが肩に鍛えられた腕を回してくる。相当な太さだ。

 「ああ、別に構わんぞ」

 テロリスト風の男は笑い声を含みながら快諾する。
 ダグラスが彼の簡単な紹介を始めた。

 「いいかセルゲイ、よく聞いておけよ。この人はセルビア出身のステファン・スタンコヴィッチだ。故郷のセルビアで長年戦っていて、戦闘に関する技術は最高峰と言っても過言ではない」

 出身国がセルビアでなおかつ戦争に参加していたという事は、彼はユーゴスラビア内戦を戦い抜いた猛者と推測する。

 「坊や、名前は?」

 ステファンさんは腰を少し下げ、自分の視点と同じ位置に顔を合わせる。

 「セルゲイ・イヴァーノヴィチ・ベレンコです。よろしくお願いします」
 「ほほう、スラブ人か。年齢はいくつだ?」
 「16歳です」
 「若造だな。着いて来られるか?」
 「安心してください、こう見えても戦いには慣れていますので」
 「それは嬉しいな! 頼りにするぞ!」

 ステファンさんは明るく無垢な笑い声をギルド内に響かせ、頭を乱雑に撫でる。
 風貌は完全にヤバい奴だが、こうして見ると兄貴みたいだ。

 「じゃあ早速行くか、セルゲイ」
 「はい、そうしま……ちょっと待ってください。ダグラス、そっちは来ないのか?」

 彼はカウンターにもたれたままで、動じようとしていない。

 「こっちは別の仕事があるからな。終わり次第、また公民館で飲み合おう」
 「楽しみにしてるぞ」

 飲み会の約束を交わすと、ステファンさんと共に玄関に歩いて行った。
 この世界に来て初めての仕事で不安を覚えるが、それと同じくらい楽しみでもある。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

1514億4000万円を失った自衛隊、派遣支援す

ス々月帶爲
ファンタジー
元号が令和となり一箇月。自衛隊に数々の災難が、襲い掛かっていた。 対戦闘機訓練の為、東北沖を飛行していた航空自衛隊のF-35A戦闘機が何の前触れもなく消失。そのF-35Aを捜索していた海上自衛隊護衛艦のありあけも、同じく捜索活動を行っていた、いずも型護衛艦2番艦かがの目の前で消えた。約一週間後、厄災は東北沖だけにとどまらなかった事を知らされた。陸上自衛隊の車両を積載しアメリカ合衆国に向かっていたC-2が津軽海峡上空で消失したのだ。 これまでの損失を計ると、1514億4000万円。過去に類をみない、恐ろしい損害を負った防衛省・自衛隊。 防衛省は、対策本部を設置し陸上自衛隊の東部方面隊、陸上総隊より選抜された部隊で混成団を編成。 損失を取り返すため、何より一緒に消えてしまった自衛官を見つけ出す為、混成団を災害派遣する決定を下したのだった。 これは、「1514億4000万円を失った自衛隊、海外に災害派遣す(https://ncode.syosetu.com/n3570fj/)」の言わば海上自衛隊版です。アルファポリスにおいても公開させていただいております。 ※作中で、F-35A ライトニングⅡが墜落したことを示唆する表現がございます。ですが、実際に墜落した時より前に書かれた表現ということをご理解いただければ幸いです。捜索が打ち切りとなったことにつきまして、本心から残念に思います。搭乗員の方、戦闘機にご冥福をお祈りいたします。

~僕の異世界冒険記~異世界冒険始めました。

破滅の女神
ファンタジー
18歳の誕生日…先月死んだ、おじぃちゃんから1冊の本が届いた。 小さい頃の思い出で1ページ目に『この本は異世界冒険記、あなたの物語です。』と書かれてるだけで後は真っ白だった本だと思い出す。 本の表紙にはドラゴンが描かれており、指輪が付属されていた。 お遊び気分で指輪をはめて本を開くと、そこには2ページ目に短い文章が書き加えられていた。 その文章とは『さぁ、あなたの物語の始まりです。』と…。 次の瞬間、僕は気を失い、異世界冒険の旅が始まったのだった…。 本作品は『カクヨム』で掲載している物を『アルファポリス』用に少しだけ修正した物となります。

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

どこかで見たような異世界物語

PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。 飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。 互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。 これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。

引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る

Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される ・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。 実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。 ※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。

異世界に転移す万国旗

あずき
ファンタジー
202X年、震度3ほどの地震と共に海底ケーブルが寸断された。 日本政府はアメリカ政府と協力し、情報収集を開始した。 ワシントンD.Cから出港した米艦隊が日本海に現れたことで、 アメリカ大陸が日本の西に移動していることが判明。 さらに横須賀から出発した護衛艦隊がグレートブリテン島を発見。 このことから、世界中の国々が位置や向きを変え、 違う惑星、もしくは世界に転移していることが判明した。

処理中です...