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第五章 砦の戦い

アイマールの戦闘術

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 しかし森の奥からは湧き出すようにゴブリンの黒い影が押し寄せ、残りの矢が徐々に少なくなっていく。

「クソッ……まだ来るのか?」

 思った以上のゴブリンの数にアイマールの背中に冷たい汗が滴り落ちる。このままでは押し寄せるゴブリンの群れを前に、肝心の矢が切れてしまう。

「これが最後の一本……」

 砦の壁をよじ登ろうとした、ゴブリンの眼球に最後の矢が突き刺さり後頭部まで突き抜けた。ゴブリンは地面に叩き付けられ動かなくなる。

「……ここからが、本当の戦いだ」

 魔物の群れを睨みつけたアイマールは弓を投げ捨てた。そして胸壁きょうへきを降りると用意していた鉄兜と盾を身に着けていく。

「大丈夫?」 ローラが青ざめた顔でアイマールに声を掛ける。

「大丈夫……接近戦は嫌いだけどしょうがない……そのために準備したんだから」

 出来れば、弓だけで仕留めたかったアイマールの手は震えていた。

 アイマールは意を決して再び胸壁きょうへきに立つと腰の鞘からミスリル銀の剣を勢いよく抜き放った。

 剣は青白い炎のような残像を残して空気を切り裂く。

「僕とローラを守ってくれよ!」

 そう剣に祈りを捧げるとアイマールは突然、砦から飛び降り門の前に立ちはだかった。

「アイマールっ!?」

 まさかの行動にローラは悲鳴のような声を挙げた。

 振り返ったアイマールは

「大丈夫! ローラは僕の合図を待って」

 アイマールはそう言って大げさに剣を振り、ゴブリン達の注意を引き付けた。
 
 ゴブリンは唸り声を上げながら、毒を塗った槍や剣でアイマールを突き刺そうと隙をうかがっている。

 ――冷静に冷静に……もう少し。
 
 アイマールは剣を振りながら、少し先の地面から自分の足元まで伸びているロープを目で確認していた。

 その時、火の海から抜け出た別のゴブリン達が奇声を上げながら一斉に襲いかかってきた。

 ――来たっ!

 その瞬間、アイマールは足元にあるロープを思い切り引いた。

 引いたロープの先には地面に潜ませてある手槍スピアがあり、数に任せ勢いよく突進してきたゴブリン達は、地面から突然飛び出してきた手槍スピアを避け切れず無残に体を貫かれた。

 集団の先頭にいたゴブリンは、更に背後から来る仲間に押されて傷口を深くし、手槍スピアを抜く事が出来ずにもがきそのまま息絶えた。

 ――次っ!

 アイマールは剣を構え門の前まで下がりながらゴブリンを十分に引き付ける。怒りと混乱で統制の取れなくなったゴブリン達は、本能に任せて無造作にアイマールに突っ込んで来た。

「ローラ! 今だ、引いて!」 そう叫ぶとアイマールは素早く地面に伏せた。

「はいっ!」

 アイマールの声を聞いたローラは、思い切り紐を引いた。3台の連射式クロスボウが作動し闇を切り裂いて無数の矢を飛ばす。

 アイマールの目の前にいたゴブリン達は、クロスボウの見えない矢を浴び絶叫しながら泥人形のように倒れていく。魔物達はアイマールの術中にはまりクロスボウの存在に全く気付いていなかった。
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