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第百五話 本当のこと

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 僕たちは森の中を歩いていた。森は光が殆ど差し込まないほど鬱蒼と木々が生い茂っており、所々見たことも無い花が咲いている。

「皆、離れないでね。離れると森から出られなくなっちゃうかもしれないから」

 先頭で光を出す魔導具をかざしながら歩いていた僕はそう皆に伝えた。その言葉に頷くアマンダ先生以外の皆と、その言葉に対してアマンダ先生は僕に問いかけたのだった。

「そろそろ話してくれてもいいんじゃない? 森の中を歩いてしばらく経つわ」

 その言葉に僕は頷いたあと、アマンダ先生に話しかけた。

「これから話す事は、ここにいる人以外は他言無用でお願いします」

 その言葉にアマンダ先生が頷くのを確認し、僕は言葉を続けた。

「えっと、とりあえず何から話しましょうか?」

「そうね、謝らなくちゃいけない事と頭痛について詳しい話、と言った所かしら」

「そうですね……どっちも関係しているので、まずは先に謝らせて下さい。アマンダ先生、本当の事を言ってなくてすいませんでした」

 するとその言葉にアマンダ先生は首を傾げた。

「本当の事って?」

「そうですね……魔法が使える……いえ、魔法のような物が使えると言った方がいいのかな? まぁ、魔法自体も使えますが……カタリナが使った火炎矢フレアアロー、あれは僕が使ったんです。あの白い炎の……」

「ええ! あの魔法対決の時の? 有り得ないわ! あの時、アインス君、私の側にいたじゃない! カタリナちゃんから離れてたわよ!
 火炎矢フレアアローは離れてる場所に出すような魔法じゃないわ!」

 アマンダ先生は信じられないといった様子でとても驚いていた。だから僕はこう続けた。

「ええ、だから魔法のような物、この世界で言う魔法とはちょっと違った魔法になっちゃうんです」

 横からカタリナが言葉を添える。

「実はあの時はワタクシは魔法は使えませんでしたの。今は使えるようにはなりましたが、白い炎なんて当然生み出せませんですわ」

「なので、アマンダ先生のご存知の魔法とは違うけど、魔法が使えると思って下さい。そうしないと話が続けられないので……」

 アマンダ先生はその言葉に、驚きながらもなんとか言葉を絞り出したようだった。

「ま、まぁわかったわ……でも、なんでそれが頭痛に繋がるの?」

 僕はその言葉を聞いて、顎に手をあてて考えながら話した。

「そう……ですね……。僕は昨日、寝る前に周囲の環境が変わったら目が覚めるような魔法を使ってから寝ました。それで、その魔法で目が覚めたんです。変わったのは森から、何か変わった音が放たれたようでした。聞こえる音じゃないんですが……まぁ音なんです。あと、その音の中に、人を操る……命令するような効果のある音も混じっているようでした」

 この辺りは別に解読した訳ではなくて、リアに聞いたのだが、それは話す必要は無いと僕は考えた。実際、既にアマンダ先生の理解に及ばない話だったようなので、アマンダ先生は黙り込んだままで追求はなかった。

「それと、ついでですけどこの森の中もそうです。結構磁場が乱れているようなので、平衡感覚は失われやすくなってます。あと、所々見慣れない花々からは幻覚を見せる効果の匂いが出てます」

 これに関してもリアから聞いていたので、事前に対処する事が出来た。

「理解出来ない言葉が多すぎるわ……にわかには信じられない話ね……ただ、二人の顔を見ると本当なのかしらね……」

 アマンダ先生がレオナとカタリナを交互に見ると、二人とも力強く頷いていた。とはいえ、アマンダ先生がすんなりと受け入れてくれたことは僥倖だった。

「アインス君、あなた何者なの?」

 その言葉に僕は足を止めて、振り向いて笑顔で答えた。

「ただの無職ですよ? アマンダ先生も知ってますよね?」

 そして、また前を向いて歩きだした。

「そりゃ知ってるけど……それじゃあ無職ってなんなの?」

 その言葉に僕は肩を竦めて答えた。

「さぁ、なんなんでしょう。僕にもわかりません」

 当然、嘘だった。だが、ここで全て話してしまうには信じられない事が多すぎる、そう思っての嘘だった。レオナやカタリナはリアが見えたからまだいい、アマンダ先生に異世界の事を説明するのは今ではない、そう思ったから。

「ただ……」

 僕は再度振り返って言葉を続ける。

「僕はこの世界唯一の無職です。そんな僕が賢者を凌ぐ魔法を使える。そんなのが国に知られたら、プラムの時のような事じゃすまないと思うんです。僕は別に有名になりたい訳じゃないし、近くにいる人たちを守れればそれでいいんです。なので他言無用とお願いしたんです」

 こんなことが分かったら恐らく力ずくでも王都に連れていかれる可能性が高い。勿論、僕の魔法はそれを振り払う事も可能だろう。が国に対して、である。事態は重くなるのは明白だった。そう思っての発言だったが、これはアマンダ先生にも理解出来たようだった。すぐにうなづいてくれた。

「まぁ、それは理解出来たわ。当然約束するわ。あのハゲ校長にも言わないわよ」

 アマンダ先生は軽く笑いながら言った。ハゲって酷いな、とは思いつつも僕も笑顔を返した。

「良かった。じゃあ、あと、この事件解決したら、全部アマンダ先生がした事にしてくれませんか? あと、もし必要ならカタリナの名前は使って構いませんから」

 アマンダ先生がカタリナを見ると、カタリナは頷いている。

「それはどうしてかしら?」

 アマンダ先生は再度僕を見てそう言った。

「それはさっきも言った通り有名になりたくないからです。でも、周りを守る為に力を使う必要がある時は必ず来ます。その時はカタリナが魔法を使った事にする。その為のカタリナなんです。今回、魔法を使ったのはカタリナという事にして、事件の解決はアマンダ先生がした事にして欲しいんです。カタリナは賢者になる資質がありますから、カタリナが有名になる事は構いません」

 アマンダ先生がカタリナを見ると、やはり先程と同じようにカタリナ頷いていた。

「何か腑に落ちない部分はあるけど、それ程までにカタリナちゃんはアインス君に仕えたいって事ね……まぁいいわ、きちんと解決したらそうしてあげる。どうやら賢者になる素質があるって言うのも嘘じゃなさそうだしね」

 アマンダ先生は肩を竦めてそう言った。

「ありがとうございます。じゃあそろそろ行きましょう。もうすぐ、原因の場所が見えてきそうです。段々と空気が重くなってます。中心地が近いようですので」

 僕はそう言うと再び歩を進めたのだった。
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