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第八十五話 飾り物の剣

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「ご主人様。こちらがソフィアで一番の武器屋です」

 今日は休日。僕たちはレオナの案内でとある武器屋の前に立っていた。

「ここがこの街一番の武器屋? 大丈夫なの? ここで?」

「はい、間違いない……はずですが。如何致しましたか?」

 不安そうに見えてしまったのだろう。レオナは僕の言葉にそう尋ね返してきた。

「あ、ううん。何でもない。気にしないで」

「かしこまりました」

 僕はその店の名に一抹の不安を抱いたが、それ以上は考えないようにした。
 僕に不安を抱かせた店の名はエクスカリパー・・・・・・・。そう、エクスカリバーではなく、エクスカリパーである。絶対にダメージが1しか与えられなさそうな名であるが、それは前の世界でのこと。この世界には何も関係がないと僕は言い聞かせて、店の扉をくぐったのだった。

 中に入ると、入口の脇で陳列された武器を掃除している店員を見かけた。

「あ、あれ? 君は……フレイたちの……」

 助けたフレイたち五人姉妹。そのうちの一人がそこに立っていた。当初ラークアで働いてもらったはずの一人である。キャスカの時もそうだし、ラークアを辞めて他の店で働くのも、人それぞれだと思った僕は、そのことを聞こうともしなかった。

「あ、アインス様じゃないですか? ジャスミンです。レオナ様もカタリナ様もご一緒なんですね? 今日は何かご入用でしょうか?」

「あ、うん。武器を買おうと思ってね」

「武器ですか? 宜しければ具体的に教えて頂ければ、聞いてまいりますが……」

 なるほど、僕の要望を伝えれば、ジャスミンじゃない詳しい人に聞いてくれるんだな。ジャスミンは入ってまもないだろうし、僕も特にこれといって欲しい武器がある訳じゃないから、正直助かるかも……
 そう思った僕はジャスミンに要望を伝えることにした。

「えっと。武器の種類は特に問わないかな? でも、前衛向きの武器が良い。弓とかはダメかな? あと出来れば丈夫な武器がいい。この店で一番丈夫な武器とか見せてもらえる?」

「かしこまりました。ちょっと失礼致します。すぐに戻りますので」

 ジャスミンは僕たちにそう告げると店の奥へと入っていってしまった。

「すぐに戻るって……とりあえずその辺の武器を見て待ってようか?」

 僕の言葉に三人は一つ頷いた。

「あ、ご主人様、この大剣とかどうですか?」

御主神様アインスさまにはこっちのレイピアがお似合いだと思いますわよ?」

「マスターにはこの鞭なんかどうかしら?」

「鞭はカタリナの方が似合いそうだけど……」

 なんて皆で喋っていると、ジャスミンが戻ってきた。確かにすぐだった。

「おまたせしました。こちらへ……」

 僕たちはジャスミンに促されるままに、奥のカウンターへと向かった。

「聞いてみたところ、この剣が良いだろう。との事でした」

「え……マジ……? なんでそっちがあるのよ……」

 と、ジャスミンはカウンターの奥に飾られていた剣を手に取り、僕の目の前に置いた。飾り付けが全く無く、素朴ながらも見るからに神聖そうな雰囲気を纏っている片手剣であった。
 僕の耳元でボソッとリアの声が聞こえたが、ジャスミンがいる手前、僕は聞かなかったことにした。

「これ? 飾ってあるけどいいの?」

「ええ、これを渡してくれ。との事でしたので……」

「うーん。なんか、僕には勿体ないような気がするけど……」

 僕としてはとりあえずの武器が欲しかった。使ってみて壊れてしまったら買い換えればいいし。その程度でしか考えてなかったから、明らかに大事そうにされている武器を買うのは少し気が引けた。そこで僕は大事なことに気づく。

「そういえば、これ、いくら払えばいいの?」

 そう、飾られていたので値札が無いのだ。しかし、ジャスミンから返ってきた答えは意外な答えだった。

「お代は結構です。そう言われてますので」

「え? なんで? 飾ってあるような武器だし、有名な剣なんじゃないの?」

「そもそも売り物ではないので、値段は付いてないとの事でした。私からはそれ以上のことは申し上げられないので……」

 ジャスミンは少し困ったような表情をしている。僕は別にジャスミンを困らせたかった訳では無いので、申し訳なく思ってしまった。

「タダって言うのは気が引ける。でもなぁ。武器は必要だからなぁ」

「ご主人様にお似合いですし、お言葉に甘えてみては?」

「そうよ。御主神様アインスさまに使って頂けるなんて、その剣は感謝すべきですわ」

「武器が感謝すべきねぇ……確かに何か喜んでいるように感じはするけど……」

 僕はその剣を手に取り掲げてみた。するとカタリナが言っているように剣が喜んでいるような、語りかけてくれているような気がした。

「よし、じゃあお言葉に甘えて、これ貰ってくね? ジャスミン、ありがと」

「はい! こちらこそありがとうございます」

 僕たちは礼をするジャスミンに感謝を述べて、店を後にしたのだった。
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