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第六十五話 三つの魔導具

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「温泉入りたかったなー」

 その日の放課後の事だった。その日と言うのは、僕が妄想の世界から戻ってきたその日。今は三人で勉強をしているので僕は暇を持てあそんでいた。
 温泉には多分入っているのだろうけど、記憶に無いのでノーカンだ。

 僕は元々、前の世界では旅行は好きな方で結構色々な所へ行ってた。一人旅ばかりで国内が主だったけれども……

「ラムネスの街か……そう言えば前の世界にもラムネ温泉ってのがあったな……炭酸泉だったかな、あれも……」

 僕は記憶の片隅でジェティビがラムネスの街について語ってたことを思い出していた。確か泡がでるタイプの温泉だって言ってたような気がする。と同時に前の世界にあったラムネ温泉という場所を思い出した。

「んーってか再現出来ないかな? 温泉を」

 僕はふと思いついた。鉱物系の温泉は鉱物が必要な為にちょっと厳しいかもしれないが、炭酸泉ならなんとかなるかもしれないなと。水を出す魔導具は作れる。それがお湯でも多分平気だと思う。そこに二酸化炭素を混ぜる。二酸化炭素は大気中から取り込めばいいし、いけるのでは?

「リアに聞いてみたいけど、勉強の邪魔をするのもなぁ。まぁ取り敢えず作ってみよう」

 ゴブリンの魔石を取り出して桶の上で試してみる……が、どうやら最下級の魔石だとそこまでは出来ないようだ。

「失敗だな。最下級の魔石だとお湯が限界、か……しかもお湯だと一回の使い切りになっちゃうな」

 作り出した魔石はお湯しか出ず、また一度お湯を出してしまうと粉々に砕けてしまった。どうやら、二つのことをするにはゴブリンの魔石では力不足のようだった。

「じゃあこれなら……」

 僕はゴブリンの魔石を三つ取り出した。一つは水を生み出す魔導具、一つはお湯にする魔導具、そして最後の一つは二酸化炭素を混ぜる魔導具を作ってみようと思ったのだ。

「できちゃった。簡単だったな。でも、延々と湧き続ける訳じゃないね。カタリナの眼鏡みたいに」

 そう、この魔導具は僕が魔力を込めないと動かない。当然、僕以外の人間でも魔力さえ込めればいいんだけど……
 でも、カタリナの眼鏡のように永続的に効果を発揮する、という訳にはいかなかった。ま、別に今はそんな機能を必要としてないけれども。

「でも、こうなると温泉に入りたくなるのが筋ってヤツだよね。となると浴槽が必要か……そう言えばデイビッドさんの宿屋に浴槽があるって聞いたことがあるな……よし、行ってみよう」

 そして僕はデイビッドさんの所へ行くと、書き置きを残して魔導具とタオルを手に早速向かった。

「デイビッドさん、浴槽を使わせて貰えませんか?」

「ええ、いいでゲスよ」

 あっさりとした返答に、つい僕は聞き返してしまった。

「本当?」

「嘘言ってもしょうがないじゃないでゲスか? ぐへへ」

「ごめんなさい。そういうつもりじゃ」

「ええ、わかってるでゲスよ。冗談でゲスよ。ま、お客様用ですけど、坊ちゃんですし、他のお客様と御一緒にはなりますが、銀貨五枚でいいでゲスよ?」

「一緒?」

「ええ、大浴場でゲスすから。いくら坊ちゃんでも貸切という訳には出来ないでゲス。それはお客様にご迷惑をかけてしまいますでゲスから。いつでもお客様が入れるように準備させて頂いてるでゲスからね」

「うーん……なら大丈夫です」

 僕の目的は温泉に入ること、別に浴槽に浸かりたいだけじゃない。それにデイビッドさんの言ってることはもっともなので、僕は諦めることにした。

「お湯に浸かりたかった訳じゃないんですか?」

「どちらかと言うと浴槽を使いたかったんです」

「なるほど。お湯はいらないんですか?」

「そうですね」

 するとデイビッドさんはしばらく考えた後、こう口を開いた。

「じゃあシスターに頼んでみるといいかもでゲス。孤児院には人数もいますから大き目の浴場があるでゲス。最近は使ってないはずでゲスが、浴槽もあったはずでゲスよ」

「え? 本当ですか? って、あ、ごめんなさい……」

 僕はさっきのやり取りを思い出して、咄嗟に謝ってしまった。

「いえいえ、さっきのは冗談だったのでゲスからお気になさらずに。シスターなら坊ちゃんの頼みも断らないでゲスよ。ぐへへ」

「そうだと良いんですけど……取り敢えずシスターに聞いてみます! デイビッドさん、ありがとうございます!」

「いえいえ、とんでもないでゲス。お役に立てたなら良かったでゲスよ」

 そして僕はデイビッドさんと別れて、隣の教会へと向かったのだった。
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