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第五十四話 八つ当たり

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「う、うーん。あ、あれ? ま、眩しい?」

 私はふと意識を取り戻します。同時に辺りが眩しいことに気が付きました。

「外? いつの間に? これは……夢? それとも今までが夢だったの?」

「意識が戻ったみたいだね? 僕はアインス。こっちがレオナでこっちがカタリナ。君の名前を聞かせてもらっていい?」

 声のした方を見ると、可愛らしく、とても器量のいい少年が私を優しく見つめていました。名はアインス様というらしいです。

「え?……」

 私が一瞬吃ると、やはり優しく語りかけて下さいました。

「いいよ、答えたくなければ別に、もう聞かないから。怖い思いをしていたみたいだし、警戒するのも無理ないしね」

「怖い……思い? じゃあやっぱりあれは夢じゃなかったのね……これは現実なの?」

「うん。現実だよ。通りかかった洞穴に君たち五人が居たから助けたんだ」

「え? 五人? じゃあヒルダ様とハンナ様は!」

 私はつい、ヒルダ様とハンナ様のことを尋ねてしまいます。心のどこかで信じたくない思いが強かったのでしょう。でも、アインス様は首を静かに横に振りました。

 その時、私の中で何かが弾け、溢れるようにどっと何かが押し寄せました。私はアインス様の胸に両の拳を叩き付け、叫んでしまいました。

「え……う、嘘! 嘘でしょ! やっぱり嘘だったと言ってよ! 二人とも! 死んでなんかないって言ってよぉ……う、ううぅえぇぇぇ……な、なんで……もっと早くぅ……助けに来てぇ……くれなかったのよぉ……」

「ちょ、ちょっと! あなた御主神様アインスさまになにを!」

「カタリナ! いいよ。気が済むまでさせてあげて」

御主神様アインスさまがそう仰るなら……」

 私は八つ当たりなのは、分かっていました。それ以上に、助けて頂いたアインス様に大変失礼だとも。でも、私の中のなにかがそうさせてしまったのを止めることが出来ませんでした。

「グラブルは死んだよ。他の野盗たちは首だけだして埋めてある。もう安心していい。そんな状態で魔物に襲われたら、それまで、だけどね。そう、だからもう大丈夫なんだよ」

 アインス様は私をぎゅっと抱きしめて、優しくそう語って下さいました。
 私はひとしきり泣いたあと、私はアインス様の胸元を離れました。そして謝罪の言葉を述べました。

「先程は失礼なことを致しました。誠に申し訳ありません」

「いいよ。急に感情が昂っちゃったんでしょ。別に気にしないから大丈夫だよ」

「ありがとうございます。私はフレイと申します。フレイとお呼び下さい。旦那様はアレックス様、奥様はヒルダ様でした。私含め、この五人は旦那様にお仕えしているメイドでした……」

 私は自らの境遇や洞穴での出来事を淡々と語りました。
 女性お二人がとてもショックを受けていた様子が印象的でした。

 私が話し終わり、しばらくすると、まずは一番歳下の妹、キャスカが目を覚まします。

「う、うーん……あ、あれ? お、お外……なの?」

「キャスカ! 良かった! 私たち助かったのよ!」
 
 私はつい叫んで抱きついてしまいました。キャスカを始めとして、次々と他の姉妹も目を覚ましました。私は順々に、自分たち助かったと、そしてアインス様が助けてくれたのだと話して回りました。

 私たちが落ち着いた頃を見計らってアインス様がこう声をかけて下さいました。

「じゃあ街に向かう前にあっちに小川があるから体を軽く洗って来てね。ちょっと目立つから。カタリナは手伝ってあげて。リアは見張ってて。レオナは服を軽く洗って持って来て。下着はちょっと……我慢して貰って……」

 最後、ちょっと赤くなって言い淀むアインス様でした。

 私は一瞬、疑問を感じましたが、気のせいかと思い気にしないこととしました。
 三人に指示を出したように聞こえたからです。でも、ここにはアインス様の他にレオナ様とカタリナ様のお二人しかいないのだから、そんな訳はないのです。

「まずは服を全部脱いで下さい。わたしが洗いますので。でも、下着だけは我慢して同じのを履くか、もしくは履かないか、となります。如何しますか?」

「え? えっと……私は履かないです。き、気持ち悪いので……」

 レオナ様の言葉に私は深く考えもせずに、そう返してしまいました。長い間履いていた下着をせっかく水浴びしたのに履きたく無かったもので。続いて妹たちも私の言葉に続きました。

「皆様脱ぎましたですわね。では、ワタクシもお手伝いさせていただきますわ」

 レオナ様が私たちの脱いだ衣服を持って去ると、今度はカタリナ様が私たちの水浴びを手伝って下さいました。

 小一時間ほどでしょうか、私たちの水浴びが終わる頃、レオナ様は服をお持ちになって下さいました。先程私たちが脱いだばかりの服を、綺麗になった状態で。

「え? こ、これはさっきまで私たちが着ていた服じゃないですか? な、なんで?」

「申し訳ありません。皆様分の替えは持ってないので、こちらを着ていただくしかありませんので……」

 レオナ様はとても申し訳なさそうにそう答えてくれました。でも、私の疑問はそこではありませんでした。

「い、いや……なんで綺麗になってるんです? ど、どうやって?」

わたしが洗濯しましたので。そしてご主人様が乾かして下さいました。でも、ごめんなさい。下着はちょっと恥ずかしいらしくて……だから皆様に我慢して頂かなければならなかったんです」

「な、なるほど……あ、ありがとうございます」

 私はこれ以上追求することを止めました。そもそもの疑問が残ってはいたけれど、それを聞いてはいけない気がして。
 それはアインス様がどうやって乾かして下さったのか、ということです。こんな短時間で乾かすなんて、まるで魔法のようなことをアインス様はした、とレオナ様はさらりと告げました。今、魔法のようなこと、と考えましたが、でも、魔法ではないんです。そんな魔法は見たことも聞いたことも無いから。
 そう、そこは大変気になりましたが、それ以上触れてはいけない、と私の中のなにかが言っているような気がして、私はお礼だけ述べて、綺麗にして頂いた服を着たのでした。

 服を着てアインス様の元へ戻ると、アインス様は私たちにこう告げました。

「うん! これなら大丈夫そうだね! 一旦ソフィアの街まで戻ろうか? とりあえずレオナの家に行こう!」

 そしてアインス様を先頭に、私たちはソフィアへと向かったのでした。
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