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第五十一話 見覚えのある人物

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 レオナとカタリナに魔法を試させた帰路。僕は洞穴を出ると、とあることに気がついた。

「あれ? 足跡がある。人が通ったみたいだ……」

 行きには何もなかったぬかるみに人の足跡があった。僕はかがんでその足跡をじっと観察する。どうやらサイズが違う足跡が二つある。つまりこの一時間の間に二人の人がこの近くを通った、ということだった。

「なんでこんな所に……」

 そう、そもそも人が来ないはずの場所だった。そこに足跡が、しかも二人、である。気になったのは言うまでもない。

「ちょっと待っててね。気になるから偵察してみる」

 僕は立ち止まって皆にそう告げた。そして眼鏡をかけて、魔導具で足跡を追った。しばらく足跡を追っていると、山肌にある横穴の近くで話している二人組を見つけた。

「この先に二人組がいるね。横穴の近くで立ち話してるよ。でも、なんでこんな人気がないところにいるんだろ。それに一人は見覚えがある気が……」

「ご主人様、わたしにも見せて頂けませんか?」

 僕の呟きを聞いたレオナが、自分も見たいと僕に申し出た。僕は眼鏡外してレオナに手渡す。

「はい、レオナ」

「あれは……確か……」

 そう呟いたレオナは眼鏡を外してから僕の目をじっと見てきた。

「ご主人様、わたしを襲った犯罪者、覚えてますか?」

「もちろん」

「冒険者ギルドに貼られてましたよね? 似顔絵が。その上に貼られてたのが恐らく彼です。名は確かグラブル。Bランクの犯罪者だったかと……」

「え? どうしてそんなのが? 近づいてみよう。あまり音を立てないようにね」

 まぁ実際は周囲に防音魔法を張ったのでどれほど大きな音を立てても大丈夫なのだが、今後は僕が居ない場、という事も発生する可能性はある。
 だから緊張感は常に持つべきだと思っての発言だった。

 彼ら視認出来る距離まで近づくと、レオナが僕の耳元でこそっと囁く。

「ご主人様。やっぱりあいつは貼りだされてた犯罪者です……あと、わたしを襲った犯罪者の仲間だ、って書いてあった気がします」

 僕はハッとしてレオナの顔を見た。

「やな予感がするな……あの中、何があるんだろう」

 僕は魔導具で中をこっそりと確認しようとした。その時、ブレッドが一人で洞穴の中に入っていってしまった。
 僕は急いで、魔導具で後を追った。直後、目の前の魔導具に映りだされた光景に僕は絶句した。

「……なんだよ、これ……こいつら……がやったのか? クソッ!」

 魔導具越しに眼前に広がるのは何人かの死体、そして生きているのか死んでいるのか分からない者たちが数人横たわっていた。

 その中でただ一人、意識のある少女にグラブルが迫っている所だった。僕の脳裏には先日のレオナを思い出させるような場面だった。僕は焦った。

「チッ! ここからじゃ! そうだ! 魔法を! って火じゃダメだ! どうする! そうだ! 火じゃなくて、水……溺れさせれば!」

 僕は今にも少女へ襲いかかろうとしているグラブル。その顔の周囲に水をまとわりつかせた。直後、もがき、苦しみ、溺れているグラブルの姿が僕の眼前に映る。
 倒れながらもがき苦しむグラブルは、しばらくすると動かなくなってしまった。

 僕はすぐに魔導具を外して、レオナとカタリナとリアの三人にその場から動かないように指示を出した。

 こんな光景は三人には見せられない……特にトラウマがあるであろうレオナには……
 と思っての指示だった。

「は、はい……」

「か、かしこまりましたですわ……」

「う、うん。わ、わかった」

 僕の様子に三人は少し驚いた様子で頷いた。それを確認した直後、僕は駆け出した。一瞬で見張りの意識を刈り取ると同時に、横穴の奥へと急いだのだった。
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