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第四十一話 期待

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「はぁ……」

 僕は俯きながら昨日のことを思い出していた。アマンダ先生が教壇の上で何か喋ってるけど正直耳に入ってこない。

「せっかく異世界転生したんだからなぁ……来たと思ったんだけど……」

 そんなことを呟いたその時だった。

 バンッ!

 壊れんばかりの音を立てて教室の扉が開かれたのは。

「な、なに!」

「だ、誰!」

 皆が開かれた扉に注目する。僕もチラリと視線を送った。そこには赤い髪の少年が偉そうに立っていた。

「き、君はアルフレッド君! 今は授業中です! 何しに来たんですか!?」

 アマンダ先生の声はまるで聞いていないかのように、教室をゆっくりと見渡すアルフレッド。

「アルフレッドって、あの? アルフレッド?」

「学校一の魔法の使い手って言われてるアルフレッドでしょ?」

 周囲の生徒の声を聞くと、どうやら学校一の魔法の使い手のようだ。


 その声を聞いて僕はこう思った。

 こ、これは……今度こそ……そう、今度こそ僕の願いが叶う展開が来たに違いない、と。

 そう、僕は少し期待していた。昨日の展開は。孤児院にシスター、金貸しにゲス野郎と全てが揃った、あの状況に。
 せっかく異世界転生したのだから、いわゆるテンプレ・・・・と言うやつを体験出来る機会が訪れた、そう思ったんだ。

 暴利で金を貸し、返せなくなったシスターの体を売るとか、孤児院の子供を売るとか、そういうよくある展開、それを人はテンプレ・・・・と呼ぶんだ。で、それを僕が助ける、でも、ゲス野郎がまだ何かを企んでいて、今後の因縁が……とか考えたのだった。

 でも、昨日のデイビッドは暴利どころか薄利だった。見た目に反して悪徳なんて失礼なほどのただの良い人である。

 そんな人を疑った、ううん、別に疑った訳では無いのだが、そんな良い人に悪役を期待してしまったことに、恥ずかしくなってその場から逃げてしまった。

 で、今、この瞬間だ。僕の心は湧き踊っている。まさしく、待っていた展開に! 表情を悟られないように、顔を伏せたままにしておこう。
 このアルフレッドってのは授業中に乗り込んで来るくらいだ。そんな奴は良い人な訳がない。それに今まで一番の魔法の使い手だった奴だ。プライドも高いに違いない。この次の展開は……

 アルフレッドの足音が僕の斜め前でピタリと止まる。

 キ、キターーーー!

「お前だな! 白い炎を放ったインチキ魔法使いと言うのは!」

 僕は勢いよく立ち上がって、アルフレッドに張り合うように大きな声で答えた!

「それがどうした!」

 と。そして教室に流れたのは微妙な空気だった。僕はその空気に血の気が引いていくような感じがした。そして目の前のアルフレッドは、僕を馬鹿にするような目で見ていた。

「? はぁ? お前誰だ? なんでお前が答えるんだ? 頭は大丈夫か? お前はお呼びじゃない。俺が用あるのはこいつだ」

 と、僕の横に座っているカタリナの方を指さした。

 教室中の視線が全て僕に集まってしまう……

 そ、そうだ! すっかり忘れてた! カタリナが魔法を使ったように見せたことを! てんぷら……いや、テンプレに気がいってしまって、すっかり忘れてしまってた! やばい! は、恥ずい……

「い、いや、僕の仲間がインチキ呼ばわりされて……ちょ、ちょっと頭にきて……」

 あーーーー! しくじったぁ! 僕は両手で顔を隠しながら、立った時よりも勢いよく座った。顔が真っ赤なのが自分でもはっきりとわかる。 

「なんなんだ? こいつは。まぁいい。お前、用がある。ちょっとこっちに来いよ」

「待ちなさい! 今は授業中よ!」

 アマンダ先生が制止する声が聞こえた。

「チッ! うるさいババアだな……まぁ仕方ない。じゃあ午後の授業まで待ってやる。上級生からの魔法指導だ。それなら問題ないだろ?」

「わかりました……仕方ないですね。カタリナちゃん? それで宜しいかしら?」

 アマンダ先生は落ち着いた、だけど奥底に静かな怒りを秘めたような声色でカタリナにそう尋ねた。

「ええ、私なら宜しくってよ」

「お前、逃げるなよ? じゃあな!」

 そう言葉を吐き捨て、アルフレッドはさっさと教室を出ていってしまったようだった。そして……

「あのガキ……私のことを……ババアって.......まだ28よ……お肌だってピチピチなんだから……」

 教壇の上には拳を握りしめ、ワナワナと震えるアマンダ先生が残されていたのだった。
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