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第二十九話 二つの賭け
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冷静に……冷静に……
私は何度も心の中でそう呟いてから、コンコンコンっとノックを三度しました。
そして少しの間だけ、その場でしばらく待ちます……
「ご主人様。失礼致します」
ノックに反応が無かったので、一言、挨拶をして部屋を開ける。そこにはまだお休みになっている、ご主人様の姿がありました。
私はご主人様の横に立って、優しく揺すりながら声をかけさせて頂きます。
「ご主人様。おはようございます」
ゆっくりと瞳を開けていくご主人様。伸びをしながら起き上がると、私と目が合ったご主人様は、少し照れくさそうな表情で、こう口にしました。
「おはよう。昨日は散々だったね」
きた! でも、大丈夫。この状況は何度も想定してる。冷静に、冷静に……
私はそう心の中で唱えながら、少し惚けた表情で言葉を返します。
「昨日? 大変申し訳ありません。酔っ払って何も覚えて無いのです。もしかして何か失礼な事を致しましたでしょうか?」
「いや、覚えてないならいいんだ。気にしないで」
ご主人様はほっとしたようなでそう答えてくれた。先程までの少し照れくさそうな表情は抜けていました。
「かしこまりました」
私はお辞儀をし、ご主人様に顔が見えないようになったらほっとしました。そして、心の中で喜んでしまいます。同時に謝っても……
勝った……賭けに勝った……二つの賭けに。ご主人様。本当に申し訳ありません。と。
本当は覚えているんです。私が昨日、口走ったことを。酔った勢いではありますが、ご主人様を困らせてしまったことを。
だから私は酔って寝たフリをしてしまいました。これが一つ目の賭け。二つ目の賭け。それは嘘を吐いたこと。覚えてないという嘘を。
これも全てご主人様のため。嘘がバレて罰せられるならそれはそれでしょうがない。罪悪感が無いと言ったら嘘になります。でも、その覚悟は出来ております。でも、取り敢えずはバレずに乗り切れて、今はほっとさせて下さい……
少し落ち着いたので、私は顔を上げてにこやかにこう伝えます。
「ご主人様、朝食の準備は出来てます。お弁当も作ったので、いつでも出発の準備は出来ております」
「ありがとう。ちょっと日も高くなってるみたいだし、遅くなっちゃったみたいだね。約束だったし、早めに行こうか? そうだ、ついでにギルドでめぼしいクエストが無いか確かめてから行こう」
私の言葉にご主人様はそう答えてベッドから降りたのでした。
準備は出来ていたので、すぐに家を出た私たちは冒険者ギルドでめぼしいクエストを探しました。でも……
「ないね……薬草採取のクエストばっかり。あとはゴブリン討伐とかかな……」
ご主人様のお眼鏡に適うクエストは無いみたいです。
「ちょっと聞いてみますね?」
私はご主人様にそう伝えて、近くに居た受付の女性にこう尋ねます。
「すいません。クエストって薬草採取しか無いんですか?」
でも、その人はボーっとしてて答えてなんかくれない。私は少し身を乗り出して、再度尋ねました。
「どうしたんです?」
「あ、すいません。めぼしいクエストは下級の冒険者でも受けられるので、早朝すぐに無くなってしまうんです!」
その女性は一瞬、ハッとした表情になったあと、尋ねた私ではなく、何故かずっと見ていたご主人様に向かってそう答えてしまいます。
「なるほど。ありがとう」
「じゃ、このクエストでお願いします! さ、ご主人様! 行きましょ!」
笑顔でそう返すご主人様を後目に、少しイラついた私はさっさとギルドを出てしまいました。あの人、ご主人様に見惚れてたに違いないわ。ご主人様、結構可愛い顔立ちしてらっしゃるから、私も気をつけないと……
そんなことを思っていると、後ろから追いかけてきたご主人様の声が聞こえてきました。
「なんであの人、レオナが聞いたのに、僕に答えて来たんだろう」
「知りません! 行きましょ!」
そうして、私はご主人様の手を引っ張り、目的の場所へと向かったのでした。
私は何度も心の中でそう呟いてから、コンコンコンっとノックを三度しました。
そして少しの間だけ、その場でしばらく待ちます……
「ご主人様。失礼致します」
ノックに反応が無かったので、一言、挨拶をして部屋を開ける。そこにはまだお休みになっている、ご主人様の姿がありました。
私はご主人様の横に立って、優しく揺すりながら声をかけさせて頂きます。
「ご主人様。おはようございます」
ゆっくりと瞳を開けていくご主人様。伸びをしながら起き上がると、私と目が合ったご主人様は、少し照れくさそうな表情で、こう口にしました。
「おはよう。昨日は散々だったね」
きた! でも、大丈夫。この状況は何度も想定してる。冷静に、冷静に……
私はそう心の中で唱えながら、少し惚けた表情で言葉を返します。
「昨日? 大変申し訳ありません。酔っ払って何も覚えて無いのです。もしかして何か失礼な事を致しましたでしょうか?」
「いや、覚えてないならいいんだ。気にしないで」
ご主人様はほっとしたようなでそう答えてくれた。先程までの少し照れくさそうな表情は抜けていました。
「かしこまりました」
私はお辞儀をし、ご主人様に顔が見えないようになったらほっとしました。そして、心の中で喜んでしまいます。同時に謝っても……
勝った……賭けに勝った……二つの賭けに。ご主人様。本当に申し訳ありません。と。
本当は覚えているんです。私が昨日、口走ったことを。酔った勢いではありますが、ご主人様を困らせてしまったことを。
だから私は酔って寝たフリをしてしまいました。これが一つ目の賭け。二つ目の賭け。それは嘘を吐いたこと。覚えてないという嘘を。
これも全てご主人様のため。嘘がバレて罰せられるならそれはそれでしょうがない。罪悪感が無いと言ったら嘘になります。でも、その覚悟は出来ております。でも、取り敢えずはバレずに乗り切れて、今はほっとさせて下さい……
少し落ち着いたので、私は顔を上げてにこやかにこう伝えます。
「ご主人様、朝食の準備は出来てます。お弁当も作ったので、いつでも出発の準備は出来ております」
「ありがとう。ちょっと日も高くなってるみたいだし、遅くなっちゃったみたいだね。約束だったし、早めに行こうか? そうだ、ついでにギルドでめぼしいクエストが無いか確かめてから行こう」
私の言葉にご主人様はそう答えてベッドから降りたのでした。
準備は出来ていたので、すぐに家を出た私たちは冒険者ギルドでめぼしいクエストを探しました。でも……
「ないね……薬草採取のクエストばっかり。あとはゴブリン討伐とかかな……」
ご主人様のお眼鏡に適うクエストは無いみたいです。
「ちょっと聞いてみますね?」
私はご主人様にそう伝えて、近くに居た受付の女性にこう尋ねます。
「すいません。クエストって薬草採取しか無いんですか?」
でも、その人はボーっとしてて答えてなんかくれない。私は少し身を乗り出して、再度尋ねました。
「どうしたんです?」
「あ、すいません。めぼしいクエストは下級の冒険者でも受けられるので、早朝すぐに無くなってしまうんです!」
その女性は一瞬、ハッとした表情になったあと、尋ねた私ではなく、何故かずっと見ていたご主人様に向かってそう答えてしまいます。
「なるほど。ありがとう」
「じゃ、このクエストでお願いします! さ、ご主人様! 行きましょ!」
笑顔でそう返すご主人様を後目に、少しイラついた私はさっさとギルドを出てしまいました。あの人、ご主人様に見惚れてたに違いないわ。ご主人様、結構可愛い顔立ちしてらっしゃるから、私も気をつけないと……
そんなことを思っていると、後ろから追いかけてきたご主人様の声が聞こえてきました。
「なんであの人、レオナが聞いたのに、僕に答えて来たんだろう」
「知りません! 行きましょ!」
そうして、私はご主人様の手を引っ張り、目的の場所へと向かったのでした。
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