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第十話 初めての魔法

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「あの岩山?」

 一度リアに視線を戻して尋ねるとリアはコクリと頷いた。
 なるほど、確かに目標があった方がいい。でも……

「ちょっと遠すぎない? もっと近くにある的みたいのじゃダメなの?」

 岩山の高さは多分数十メートルはあるだろう。でもここからの距離は五百メートルくらいはありそう。結構距離がある。せっかく放った魔法が届かないとかないかな……

「でも、ここにはあれくらいしかないでしょ? 的になりそうなの」

 僕は辺りを見渡した。まあ、見渡さなくても何も無いのは知ってたんだけど……さっき来た時にこの辺りは何も無いなあって思ったんだから。

「まあ、確かにそうだね。届くかわかんないけどやってみるか……じゃあ具体的にどうすればいいの?」

「そうね……じゃあ火炎矢フレアアローを使ってみましょ。右手を目標に突き出して意識集中させるの。で、火炎矢フレアアローって言えば炎の矢が飛び出してくわ」

「なるほど……ってそれだけ?」

「そう、それだけ。言っとくけど余計なことはぜーーーーったいに考えないでね! 先言った知識のこと……酸素を集めようとか水素を混ぜたらどうなるかなとか考えないでね? 何も考えずに火炎矢フレアアローって言うだけ!」

「???? わかったよ?」

 なんかリアが釘を刺してきた。リアも僕が魔法を使うところを見てみたそうだったのに、すごい必死だな。
 わかった。これはあれだ。
 三人組のお笑い芸人がやる、押すなよ押すなよー! って言ってホントは押して欲しいやつだ。リアならやりかねないっぽいし、絶対そうだ。
 こんな感じかな。右手を突き出して意識を集中……集まれさんそー、集まれすいそー……よし!

火炎矢フレアアロー!」

「あ! ダメ!」

 僕が火炎矢フレアアローと言の葉を紡ぐと同時にリアが叫び声をあげた。瞬く間に僕の目の前に火炎で出来た矢がその姿を現す。
 しかし、は矢と呼べるような代物ではなかった。僕の身長を倍にしても遥かに足りない程の大きさだった。
 ゆらりと揺らめくと、その矢は岩山に向かって一直線に突き進み出した。地面を抉りながら……

「マスター! あたし言ったよね! 余計なこと考えるなって! 馬鹿じゃないの!」

 岩山を覆い尽くし、天をも貫く巨大な火柱を呆然と眺める僕の耳元でリアが喚く。
 今ならリアが言ったことが本心だったのは僕にもわかる。天変地異じゃんこれ……
 どうしよう……街の人にバレないかな……この距離だし多分見えるだろう……
 僕がそんなことを考えていると、何かがポツリと僕の身体を濡らした。雨だ。火柱が起こした上昇気流が雨を降らせたのだ。

「ほ、ほら! これできっと消えるよ!」

 リアは呆れ返った目で僕をみている。ご、ごめん……

 しばらく降り続いた雨は無事に火柱を消してくれた。ただ、そこにあったはずの岩山は消え、代わりに大きな湖が出来ていた。岩山を焼き付くし、出来上がったクレーターに雨が溜まったのだろう。
 うん! 地形が変わったね! 知らなかったししゃーない!

「マスター? これでわかった?」

 リアの冷ややかな声が僕に刺さる。僕は黙って頷くことしか出来ない。

「はあ……これでレベルは最低の一だってんだから嫌になるわ……」

 レベルが最低……だと……

「え? 聞いてないんだけど、何そのレベルが最低だって?」

「だって言ってないもん。言っても意味ないし」

 リアは肩を竦めて答えた。呆れたような声色だけど、さっきの魔法の所為って訳じゃなさそうだ。

「意味ないってことはないでしょ?」

「いいえ、意味ないわ。既に現在過去未来において誰も足元にも及ばないんだもん。蟻がどんなに強くなろうとも、数を束ねても恐竜には勝てない……しかも……」

「しかも?」

「マスターはレベルアップするたびにパワーがはるかに増す……そのレベルアップを九十八回もマスターは残している……その意味がわかる?」

 また真剣な話を真剣な顔でしている時にネタを挟み込んできた。困るんだよね……こういう話をしてる時だと突っ込めない……

「あれ? ってことは最大レベルは九十九なの?」

 リアはコクリと頷いた。レベルは九十九で打ち止めみたいだ。

「ちなみにレベルアップの条件ってなに?」

「レベルアップは経験値を溜めると上がるわ」

 なるほど。ゲームみたいだな。わかりやすい。

「経験値はどうやったら手に入るの?」

「魔物を倒せば手に入るわよ」

 と、その瞬間、大きな物音が辺りに響き渡った。
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