上 下
7 / 123

第七話 妖精リア

しおりを挟む
 僕はふと目が覚めた。あ、しまった! と思ってすぐに窓の外を見るとまだ明るい。夕食の食べ逃しはしなくてすみそう。日が沈んでないということは十時前だからね。

「おっはよー」

 窓の外を眺めていると不意に声をかけられた。聞き覚えのあるような声の気がしてそちらを見ると何か浮いている。まるで妖精みたいだ。身長は五十センチくらいかな? 腰まである髪はウェーブかかっていて、瞳と同じ碧い色をしている。

「あ、ああ、おはよう……君は?」

「お、あたしの姿が見えるって事は思い出したんだよね?」

 僕は首を縦に振った。恐らくこの存在が言いたいことを理解したからだ。夢の場面も、前世の記憶も。でも、別に何か変わったところは特に感じない。別に記憶が上書きされた訳でもないみたい。人格も、そんな性格だったな……ってくらいだし、第一あんまり変わってないみたい。コミュ障なところとか平和主義なところとか……
 一応転生だったからかなあ……

「うん、全部思い出したよ。でも、特に何も変わったところは無いみたい……で、君は? 漫画やアニメとかで見る妖精さんに似てるけど……妖精ってことでいい?」

 目の前の存在はコクリと頷いた。

「うん、妖精さんってことで大丈夫だよ」

「なるほど……」

 漫画やアニメで分かるってことは、僕の前世の世界の知識をある程度理解してると考えていいみたい。話が早くて助かるな。

「ちなみになんて呼んだらいい? 名前はあるの?」

「じゃあアシリアって呼んでよ?」

 僕は少し考えた。
 アシリア? アリシアじゃなくて? 何か意図があるのかもしれないし、特に無いかもしれない。でも、どちらにせよに意味があるかもしれないなら気付かないということにしといた方が良いかな。

「アシリアかー、じゃあリアって呼んでいいかな?」

 目の前の存在はまたコクリと頷いた。これでとりあえずは大丈夫かな?

「じゃあ、僕の事は何て呼ぶ?」

「んー、ならマスターって呼ばせてもらうね。主従関係みたいなの想像してたし。マスターが転生した時から目を付けてたんだから!」

 リアは無い胸を張って答えた。もうマスター呼びは確定みたいだ。

「ってじゃあ生まれた時からずっと一緒ってこと? 今までもそばに居たの?」

「うん! ずっとマスターの事見守ってたんだよ!」

 僕は目を逸らしてしまった。笑顔が可愛くて直視出来ない……
 ってダメだ! せっかく転載したんだし少しずつでもコミュ障治さないと!
 僕はコツンと右手でこめかみを叩いた。

「見守っててくれたんだ。あ、ありがと……で、でもなんで今まで出てこなかったの?」

 リアは肩を竦めて首をゆっくりと横に振った。

「違うよ。ずっといたし、隠れてなんかいない。マスターが見えてなかっただけ。マスターは前世を思い出したんでしょ? 何か心あたりはないかなぁ?」

 リアはニヤリといたずらっぽい笑みを浮かべて僕を覗き込んできた。
 心あたりか……なんだろう……妖精……見えない……前世……あ!

「もしかして三十歳無職童貞だったから? 三十歳超えて童貞だと妖精さんが見えるってやつ?」

「ご名答!」

 右の拳を握りポンっと左の掌を叩いたリアは、その右手の人差し指を僕に突きつけてそう言った。
 どうやら予想通りだったようだ。
 しかし、リアはその突きつけた指を自分の頬っぺたに移し、左手で右手の肘を抱え込む。真剣に考え込んでいる様子になった。

「そう、でもそれが大問題なのよね……」

 その深刻そうな言い方に僕は驚いた。よっぽど不味いことでもあったようだ。

「え? 三十歳で童貞だと何か不味いの? ずっと見えなかったけど、もうリアは見えるし何も問題はないんじゃ……あ、もしかして童貞卒業するとリアのことを……」

 と、僕が最後まで言い切る前にリアが言葉を被せてきた。

「別に前世での出来事が対してだから、今生で童貞卒業しても、私の事は見えるし……って、違う、そうじゃない。問題なのは無職の方よ」

「無職って何が問題なの? 別に無職だって何かしら仕事は出来るでしょ? 無職ってくらいだから、何かしてたらそれの経験で職位クラスが変わったりしないのかな……」

「残念ながらしないわ。特殊な職位クラスなら条件次第で職位クラスが変わることもあるけど、世界が与えたものは基本的に変えられないし、変わらない」

 僕は前世で無職で死んだから今生も一生無職は確定しちゃったみたい。笑うに笑えない。ああ、なんで無職で死んじゃったんだ……って悪いのは全部あの女神じゃんか!

「なるほど……それは確かに大問題だ……きっと無職だと差別とかされちゃうに違いないだろうし」

 僕も深刻そうに頷いた。でも、リアの深刻そうな表情は和らぐことはない。それどころかより一層真剣な表情になっている。

「ごめん。多分マスターが思ってる以上に大問題なのよ……この世界にとって……」

「………………は?」

 なんか壮大な話で理解が出来ない。僕の心配じゃないの? 世界の方にとって僕が問題なの?
 リアの言葉を必死に理解しようと僕は黙り込んだけど、そんな僕に構わずリアは話を続けた。

「そもそも無職ってのは存在しないのよ。この世界に存在する全ては世界から認識されて、職位クラスを与えられるの。砂の一粒でさえもね。逆に言うと、職位クラスが無いって言うのはってことなの」

「はあ……」

「だからね、世界はマスターに干渉できないのよ」

「じゃあ魔法を使ったりは出来ないの?」

 せっかく剣と魔法の世界に転生したんだ。魔法の一つや二つ使ってみたかった。
 なんだよ、あの女神。剣と魔法の世界に転生させてあげるとか言っといて魔法使えないんじゃ意味ないじゃん!
 しかし、そんな僕の心配は何処吹く風と、リアの真剣な表情は変わることはなかった。

「いや、出来るわよ。マスター側から世界に干渉は出来る。マスターは実際存在するんだし」

「え? なんで?」

「逆に聞くけど、今まであたしの存在を認識してた? でも、朝、起こされたりしたでしょ?」

「もしかして、リアが起こしてくれてたの?」

 リアはコクンと頷いた。これで少しは納得がいった。今まで自然と起きてたんじゃなくてリアが起こしてくれてたんだ。僕はリアのことを知らなくても、確かにリアは僕に干渉してたんだ。リアの言ってることも少しは理解出来るかな。
 ってそうだ! リアに今までのお礼言っとかないと!

「あ、ありがとう……」

 あ、多分照れてるっぽいな。ちょっと顔が紅くなったし……

「まあ、リアの言いたいことはわかったよ。でも、それが大問題って程なのかな……」

「そうね……マスターは世界に認識されないから異次元の強さを持っちゃったのよ。もう古今東西で並ぶものがないほどの最強ってやつね」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

伯爵家の三男は冒険者を目指す!

おとうふ
ファンタジー
2024年8月、更新再開しました! 佐藤良太はとある高校に通う極普通の高校生である。いつものように彼女の伶奈と一緒に歩いて下校していたところ、信号無視のトラックが猛スピードで突っ込んで来るのが見えた。良太は咄嗟に彼女を突き飛ばしたが、彼は迫り来るトラックを前に為すすべも無く、あっけなくこの世を去った。 彼が最後に見たものは、驚愕した表情で自分を見る彼女と、完全にキメているとしか思えない、トラックの運転手の異常な目だった... (...伶奈、ごめん...) 異世界に転生した良太は、とりあえず父の勧める通りに冒険者を目指すこととなる。学校での出会いや、地球では体験したことのない様々な出来事が彼を待っている。 初めて投稿する作品ですので、温かい目で見ていただければ幸いです。 誤字・脱字やおかしな表現や展開など、指摘があれば遠慮なくお願い致します。 1話1話はとても短くなっていますので、サクサク読めるかなと思います。

バランスブレイカー〜ガチャで手に入れたブッ壊れ装備には美少女が宿ってました〜

ふるっかわ
ファンタジー
ガチャで手に入れたアイテムには美少女達が宿っていた!? 主人公のユイトは大人気VRMMO「ナイト&アルケミー」に実装されたぶっ壊れ装備を手に入れた瞬間見た事も無い世界に突如転送される。 転送されたユイトは唯一手元に残った刀に宿った少女サクヤと無くした装備を探す旅に出るがやがて世界を巻き込んだ大事件に巻き込まれて行く… ※感想などいただけると励みになります、稚作ではありますが楽しんでいただければ嬉しいです。 ※こちらの作品は小説家になろう様にも掲載しております。

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

神とモフモフ(ドラゴン)と異世界転移

龍央
ファンタジー
高校生紺野陸はある日の登校中、車に轢かれそうな女の子を助ける。 え?助けた女の子が神様? しかもその神様に俺が助けられたの? 助かったのはいいけど、異世界に行く事になったって? これが話に聞く異世界転移ってやつなの? 異世界生活……なんとか、なるのかなあ……? なんとか異世界で生活してたら、今度は犬を助けたと思ったらドラゴン? 契約したらチート能力? 異世界で俺は何かをしたいとは思っていたけど、色々と盛り過ぎじゃないかな? ちょっと待って、このドラゴン凄いモフモフじゃない? 平凡で何となく生きていたモフモフ好きな学生が異世界転移でドラゴンや神様とあれやこれやしていくお話し。 基本シリアス少な目、モフモフ成分有りで書いていこうと思います。 女性キャラが多いため、様々なご指摘があったので念のため、タグに【ハーレム?】を追加致しました。 9/18よりエルフの出るお話になりましたのでタグにエルフを追加致しました。 1話2800文字~3500文字以内で投稿させていただきます。 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載させて頂いております。

退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話

菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。 そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。 超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。 極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。 生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!? これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

大罪を極めし者〜天使の契約者〜

月読真琴
ファンタジー
クラスの何人かと一緒に召喚された 神楽坂暁 みんなは勇者や聖女、賢者など強そうな職業なのに僕は無職? みんなを助けようとしても裏切られ、暗い地の底に落ちていった。 そして暁は人間が心の底から信頼できなくなってしまった。 人との関わりも避けるつもりでいた、 けど地の底で暁は最愛と運命の出会いを果たした。 この話は暁が本当に欲しい物を探しだすまでの物語。 悪い所や良い所など感想や評価をお願いします。直していきより良い作品にしたいと思います。 小説家になろう様でも公開しています。 https://ncode.syosetu.com/n2523fb/

処理中です...