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三十八話 アレフの罪

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「そこまでだ!」

「自警団……」

 大きな声が響き渡り、アレフとルディアは振り返った。二人の目の前には何人もの人が取り囲むように広がっていた。

「召喚士に襲われていると聞いてな。使い魔で人を傷付ける行為は禁じられている!」

「そうだけど! アレフはいままでずっと遺跡ダンジョンで得た物を横取りされたりしてたのに!」

 自警団の一人の言にルディアは反抗の色を示す。が、別の自警団がこう口を挟んだ。

「そんなことは知らん。今はお前らに襲われた者がいる。という話をしているんだ」

 そして、アレフとルディア、カイトに順にゆっくりと視線を送ってからこう呟く。

「実際に来てみれば、この通りだ」

「何言ってるのよ? 元々先に使い魔を召喚したのはこいつらよ? それにヘスティアだってこいつらが殺したのよ!」

「黙れ! 出任せを言うんじゃない!」

 と、ルディアが必死に叫ぶが、自警団の中の一人が大きな声を上げて、ルディアの言葉を遮った。自警団の誰もがルディアの言葉に耳を貸そうともしない。ジリジリと間を詰められ、二人が身構えた、その時だった。

「まあ、待て」

 自警団の背後から男性の声が聞こえてきた。その声に皆がピタリと止まり、振り向いて声の主の名を呼ぶ。

「ベーゼル様」

 そして自警団たちの影から一人の男性が姿を現した。ベーゼルとよばれたその男性は、服の上からでもかなり体格が良いことがわかる。髪は白髪混じりでルディアと同じく黒かった。声と違わずその身に威厳を纏まった、壮年の人物であった。

「君たちの言いたいことはわかった。どっちが先に召喚したか、また、ヘスティアとやらが本当に殺されたのか、きちんと調べればわかること。ただ、事実として今、君は人を襲っているように見える。ここは大人しく一旦縄についてくれないか? これ以上逆らうと、君たちは自警団に逆らった罪、になってしまうぞ」

 視線をアレフとルディア、そしてまだ気を失っているカイトに送りながら、ベーゼルはアレフとルディアにそう告げる。
 その言葉を聞いたアレフは、ルディアの肩にポンっと手を置いてから、一歩前に出た。

「わかったよ」

「アレフ!」

 ルディアがアレフを止めようとするが、アレフは首を横に振りながらルディアに告げた。

「確かにこの人の言う通り。これ以上は……」

「アレフがそう言うのなら……」

 ルディアも諦めて構えを解いた。すると自警団の一人がアレフに近づき、縄をかけた。そしてアレフを引っ張りながら付いてくるように促す。

「おい、男! こっちに来い!」

 するとアレフのみが連れて行かれようとしている状況に、ルディアは混乱の色を示す。

「わ、私は?」

「お前は使い魔を召喚しておらんだろう。お前を捕まえる理由などない」

 と、ベーゼルがさも当然かのようにルディアに告げた。ベーゼルの告げた言葉にルディアは釈然としない様子を隠すことはない。

「た、確かに召喚してないけれども……な、なんで?」

「さあ、行くぞ!」

 そして自警団たちはルディアを残し、アレフだけを連れ去って行ったのだった。

 その翌日、アレフは遺跡ダンジョン地下一階に作られている牢屋の中で空腹を感じ目を覚ました。昨日から閉じ込められて、誰も来ない。食べ物すら与えずに自警団たちはアレフを乱暴に閉じ込めて去っていってのだった。

 アレフは人の気配を感じ、身を起こす。牢の前には誰かが一人、立っていた。暗闇の中、誰か、という認識は出来なかった。

「俺はいつまでここに居ればいいんだ? 腹が減ったんだが、それくらいは用意してくれないのか?」

「別に死んでいく者がそんな心配などする必要はない」

「その声はベーゼルさんか? それはどういうことだ?」

「君は有罪で死刑、という話だよ」

 べーゼルはアレフにそう告げた。アレフは少し驚いたが、その様子を全く見せることなく、こう尋ねた。

「昨日の話は? きちんと調べるって言ったのは嘘だったのか
 ?」

「そんな話はしていない。きちんと調べるなんて言っておらん。きちんと調べれば・・・・・・・・、と言ったのだ。調べる、なんと言っておらん。そう言っただけで調べるかどうかは別の話だ」

「なるほど……そういうことか。都合が悪いことはこの髪のせいにして消しちゃえばいいもんな」

 アレフの白髪は差別の対象。何か都合が悪いことが起きた場合、白髪を持った人間がやった事にして、殺してしまえば全てが丸く収まる。今回は恐らくヘスティアが犯されて殺されたこと。カイトがやった事を全てアレフへ罪を擦り付けて、有罪として処刑してしまうつもりなのだろう。アレフはそれを悟ったのだった。

「お前が何を言っているか知らんが、処刑は明朝行う。それまで最期の日を楽しんでおけ。ま、そんな場所で楽しめれば、だがな」

 ベーゼルは吐き捨てるようにアレフへそう告げると踵を返して牢から出ていってしまった。



 それから数時間後のこと、大きな音がして牢が崩れた。アレフの元へ薄い月明かりが差し込んでくる。壊した主がその月明かりを背に牢を覗き込みアレフに声をかけた。

「アレフ! 大丈夫!?」

「ルディア!」

「逃げるわよ!」

「逃げるって何処に?」

「何処でもいいから!」

 ルディアはアレフをぐいっと引っ張りあげようとしながら、アレフに逃げようと促している。だが、逃げようとしたところで追われることは明白だった。

「さっき、ヘスティアが夢に出てきて、アレフを助けてって。アレフが殺されちゃうって! それで急いで来たのよ! そうだ! 前に暮らせるようにした場所が下の方にあるじゃない? そこでほとぼり冷めるまで!」

 ルディアの言う通り、七階層の村はアレフが生活出来るように手を加えてある。ルディアはそれを思い出してのことであった。

「わかった! とりあえずいつもの所だな!」

 牢を出たアレフとルディアはいつもの滝へと懸命に走った。さほど遠い距離ではない。
 が、脱獄に気付いた者がすぐにアレフたちを追いかける。

「待て! 脱獄だ!」

 脱獄を知らせる大きな鐘の音が響き渡り、周囲から何人もの人が集まってくる。アレフたちは振り切ることが出来ずにいつもの滝の前まで来てしまった。
 急いで滝の中に入るが、それに気づいた者もアレフたちを追って滝の中に入ってきてしまう。魔法陣の存在がバレれば、例え逃げても追って来られてしまうと、アレフは焦り、使い魔を召喚して相対しようと身構えた。

「クソッ! 執拗いな!」

「ダメ! アレフに不利になるわ! ここは逃げて!」

「それはダメだ!!」

「良いから入りなさい!」

 と、アレフはルディアに魔法陣へと押し込まれてしまう。
 ルディアに押し込まれ光に包まれながらアレフが見たのは、ルディアがいくつもの魔法陣を展開している光景であった。
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