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三十五話 消えたヘスティア
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街まで戻ろうとアレフが一階層を歩いていると、少し焦った様子のルディアが駆け付けてきた。
「ア、アレフ! 良かった! まだ居たのね! 探してたのよ!」
「どうしたルディア? 何を焦ってるんだ?」
アレフは眼の前で膝に手を付き、肩で息をするルディアに対して尋ねた。
「ヘスティアが居なくなっちゃったのよ!」
「どういう事だ? とりあえず落ち着いて深呼吸しろ」
ルディアの焦りは尋常ではないと思ったが、未だ事態をはっきりと飲み込めないアレフはルディアの肩にぽんと手を置いて深く息をするように促した。
「はぁ……はぁ……ん、ありがと」
呼吸が落ち着いて来たところでアレフはルディアに水筒を手渡した。ルディアはそれを受け取り一息に飲み干した。
「落ち着いたか? ゆっくり話せよ。ヘスティアがいないとか言ってたな」
そう尋ねるアレフに対してルディアはゆっくりと頷いた。
「さっきヘスティアの働いている店に顔を出したのよ。いつもならもう働いてる時間だったから……でも、マスターに聞いたら来てないって。無断欠勤なんてする子じゃないのに。それであたしも心配になったし、頼まれて家まで様子を見に行ったのよ。そしたら……」
そこまで語ってルディアは少し黙り込んだ。
「そしたら?」
アレフはルディアにゆっくりと問い直した。暫くの沈黙が流れた後、ルディアはゆっくりと口を開いた。
「ヘスティアは居なかったのよ。でも部屋は荒らされてる訳でもなく、鍵もかかってなかった。もしかしたら誰かが寝ている間に連れ去ったとかなのかなって……」
「誰かが連れ去っただって?」
アレフがそう言葉を返すとルディアは首を縦に振った。
「あんなにしっかりしてるヘスティアが部屋に鍵もかけないで出てくなんて。居なくなる理由も無いしそうかなって……」
「でも、どうして? 仮につれさられたとして一体誰が? 何の目的で?」
アレフはルディアの肩をガシッと掴んでしまった。
「ちょっと痛いわよ! そんなことあたしに聞かれてもわからないわよ!」
ルディアは状況に混乱しているせいか、大きな声をあげた。そのルディアの言葉に対してアレフはパッと肩を掴んでいた手を離した。
「ご、ごめん……そりゃそうだ……」
「あたしの方こそ怒鳴ってごめん……」
二人とも顔を伏せ肩を落とし、暗い雰囲気が二人の間に流れた。
「と、とりあえず何か手がかりがあるかもしれないし、ヘスティアの家に行ってみよう」
顔を上げてからそう語ったアレフの言葉に対し、ルディアも顔を上げ頷き、それを合図として二人は無言でヘスティアの家に向かい歩き出した。
「確かに変わった様子はないな……荒らされてる様子も無いし……」
ヘスティアの家に辿り着いたアレフはぐるりと部屋を見渡してそう言った。
確かにルディアの言っていた通り特に荒らされた様子も無く、今でもヘスティアが居ると言っても違和感を感じない程であった。
「そうなのよ……あまりにも普通過ぎてあたしも逆に怖くなって何も触れられなかった……」
ルディアの言葉にアレフはゆっくりと頷いた。特に変わりない日常の一瞬。ただそこにヘスティアと言う居るべき者がいないだけ。ルディアが怖いと言うのも無理はないとアレフはそう思った。
と、その時だった。
ガシャン!
窓が割れ、何かが室内に放り投げられた。
「誰だ!」
アレフはすかさず外に飛び出し辺りを見渡した。
「あれは確か……ギルバートか?」
アレフの視界に入ったのはカイトの子飼いの一人、ギルバートが走り去って行く姿であった。
アレフは追いかけようと身構えたのだが、ルディアに呼び止められたのだった。
「アレフ! ちょっと、これ!」
ルディアの声についアレフは一瞬振り返ってしまった。再度、ギルバートの居た場所に視線を送ると既に見えなくなってしまっていた。
「クソッ……仕方ないか。ルディア、どうした?」
ルディアの元にアレフは向かうと、ルディアは一枚のしわくちゃになった紙を持っていた。
「これが投げ込まれたのよ……その石に巻き付けられて……」
ルディアがふと落とした視線の先にアレフも目をやると確かに一つの石が置いてあった。
「で、なんて書いてあるんだ?」
「ヘスティアは預かった、一階層東の果てに無人の小屋があるからそこに来い。って書いてあるわ。でも、どうしてこんな……」
ルディアはじっと手に持った紙を見つめて呟いていた。そんなルディアにアレフはポツリと呟き返した。
「カイトだ……」
「えっ?」
ルディアはアレフが呟いた言葉に驚いて、アレフを見つめた。
「ギルバートだ、これを投げ入れたのは……走って逃げていくのが見えた。ってことは恐らくカイトの指示だろう。あのバトルの時に言ってた言葉、気になっていたがまさかヘスティアに手を出すとは……クソッ!」
まさか自分以外に手を出してくるとは思ってもいなかったアレフは自分の不甲斐なさを悔やんだ。
「どういうことなの?」
「しばらく何も手出しをしてこなかったのは何かしら準備をしていたからだろう……それが整ったから動き出したといったところか……」
アレフはそこまで言ってから黙り込んでしまう。二人の間には重苦しい空気が流れた。
「なにそれ……じゃあヘスティアは?」
ルディアの問いにアレフは首を横に振りながらこう答えた。
「わからない、ただ、とにかく急ごう!」
その言葉を合図に二人はヘスティアの家を飛び出したのだった。
「ア、アレフ! 良かった! まだ居たのね! 探してたのよ!」
「どうしたルディア? 何を焦ってるんだ?」
アレフは眼の前で膝に手を付き、肩で息をするルディアに対して尋ねた。
「ヘスティアが居なくなっちゃったのよ!」
「どういう事だ? とりあえず落ち着いて深呼吸しろ」
ルディアの焦りは尋常ではないと思ったが、未だ事態をはっきりと飲み込めないアレフはルディアの肩にぽんと手を置いて深く息をするように促した。
「はぁ……はぁ……ん、ありがと」
呼吸が落ち着いて来たところでアレフはルディアに水筒を手渡した。ルディアはそれを受け取り一息に飲み干した。
「落ち着いたか? ゆっくり話せよ。ヘスティアがいないとか言ってたな」
そう尋ねるアレフに対してルディアはゆっくりと頷いた。
「さっきヘスティアの働いている店に顔を出したのよ。いつもならもう働いてる時間だったから……でも、マスターに聞いたら来てないって。無断欠勤なんてする子じゃないのに。それであたしも心配になったし、頼まれて家まで様子を見に行ったのよ。そしたら……」
そこまで語ってルディアは少し黙り込んだ。
「そしたら?」
アレフはルディアにゆっくりと問い直した。暫くの沈黙が流れた後、ルディアはゆっくりと口を開いた。
「ヘスティアは居なかったのよ。でも部屋は荒らされてる訳でもなく、鍵もかかってなかった。もしかしたら誰かが寝ている間に連れ去ったとかなのかなって……」
「誰かが連れ去っただって?」
アレフがそう言葉を返すとルディアは首を縦に振った。
「あんなにしっかりしてるヘスティアが部屋に鍵もかけないで出てくなんて。居なくなる理由も無いしそうかなって……」
「でも、どうして? 仮につれさられたとして一体誰が? 何の目的で?」
アレフはルディアの肩をガシッと掴んでしまった。
「ちょっと痛いわよ! そんなことあたしに聞かれてもわからないわよ!」
ルディアは状況に混乱しているせいか、大きな声をあげた。そのルディアの言葉に対してアレフはパッと肩を掴んでいた手を離した。
「ご、ごめん……そりゃそうだ……」
「あたしの方こそ怒鳴ってごめん……」
二人とも顔を伏せ肩を落とし、暗い雰囲気が二人の間に流れた。
「と、とりあえず何か手がかりがあるかもしれないし、ヘスティアの家に行ってみよう」
顔を上げてからそう語ったアレフの言葉に対し、ルディアも顔を上げ頷き、それを合図として二人は無言でヘスティアの家に向かい歩き出した。
「確かに変わった様子はないな……荒らされてる様子も無いし……」
ヘスティアの家に辿り着いたアレフはぐるりと部屋を見渡してそう言った。
確かにルディアの言っていた通り特に荒らされた様子も無く、今でもヘスティアが居ると言っても違和感を感じない程であった。
「そうなのよ……あまりにも普通過ぎてあたしも逆に怖くなって何も触れられなかった……」
ルディアの言葉にアレフはゆっくりと頷いた。特に変わりない日常の一瞬。ただそこにヘスティアと言う居るべき者がいないだけ。ルディアが怖いと言うのも無理はないとアレフはそう思った。
と、その時だった。
ガシャン!
窓が割れ、何かが室内に放り投げられた。
「誰だ!」
アレフはすかさず外に飛び出し辺りを見渡した。
「あれは確か……ギルバートか?」
アレフの視界に入ったのはカイトの子飼いの一人、ギルバートが走り去って行く姿であった。
アレフは追いかけようと身構えたのだが、ルディアに呼び止められたのだった。
「アレフ! ちょっと、これ!」
ルディアの声についアレフは一瞬振り返ってしまった。再度、ギルバートの居た場所に視線を送ると既に見えなくなってしまっていた。
「クソッ……仕方ないか。ルディア、どうした?」
ルディアの元にアレフは向かうと、ルディアは一枚のしわくちゃになった紙を持っていた。
「これが投げ込まれたのよ……その石に巻き付けられて……」
ルディアがふと落とした視線の先にアレフも目をやると確かに一つの石が置いてあった。
「で、なんて書いてあるんだ?」
「ヘスティアは預かった、一階層東の果てに無人の小屋があるからそこに来い。って書いてあるわ。でも、どうしてこんな……」
ルディアはじっと手に持った紙を見つめて呟いていた。そんなルディアにアレフはポツリと呟き返した。
「カイトだ……」
「えっ?」
ルディアはアレフが呟いた言葉に驚いて、アレフを見つめた。
「ギルバートだ、これを投げ入れたのは……走って逃げていくのが見えた。ってことは恐らくカイトの指示だろう。あのバトルの時に言ってた言葉、気になっていたがまさかヘスティアに手を出すとは……クソッ!」
まさか自分以外に手を出してくるとは思ってもいなかったアレフは自分の不甲斐なさを悔やんだ。
「どういうことなの?」
「しばらく何も手出しをしてこなかったのは何かしら準備をしていたからだろう……それが整ったから動き出したといったところか……」
アレフはそこまで言ってから黙り込んでしまう。二人の間には重苦しい空気が流れた。
「なにそれ……じゃあヘスティアは?」
ルディアの問いにアレフは首を横に振りながらこう答えた。
「わからない、ただ、とにかく急ごう!」
その言葉を合図に二人はヘスティアの家を飛び出したのだった。
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