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二十八話 引き分け

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 本日二回目の勝利であった。先程と一緒で勝利をした、という事実は変わらない。ただ、同じ勝利でも変わったことがある。それは観客達の反応だった。
 先程の勝利のあとは野次が少なからず飛び交っていた。しかし今回は皆無だった。
 それ程までに今回の勝利は衝撃的だったのだろう。
 ルディアとヘスティアがこそこそっと喜んでいる姿が見える。それ以外は、シーンと静まり返っている観客席がそこにあった。

「さすがに空気を読んで大きな声はあげないか……」

 いつものルディアなら周りの目など気にせず大喜びでワイワイはしゃいでいるのだろうが、さすがにこのシーンとした雰囲気の中では躊躇っているようだった。

「さて……次は……」

 先程の話通りだともう一戦、連戦が残っている。そこでアレフは対戦相手が入ってくる入口に視線をやるとそこには一つの人影が既にあった。物陰からじっとアレフを伺っていた様子のそれ・・がすっと姿を現した。

「お前かよ……」

 そう呟くアレフの目の前に現れたのはカイトであった。

「それはこっちのセリフだ。ことごとく邪魔してくれやがって……」

 カイトは吐き捨てるように言い放ったあと、まるで瞳の奥に憎しみを込めた様な視線をアレフに送った。

「一つ良い事を思いついた。お前とは相応しい場を用意してやる。こんな連戦連戦で疲弊したところを勝っても、文句を言われちゃ敵わん。お前が負ける所を観客どもに見せ付けるのもいいが、それ以上の場だ。今日の賞金はお前に全部やるよ。そんなはした金、俺には必要無い。だから、今日の所は引き分けにしといてやる」

 瞳の力は変わることはなく、不敵な笑みを浮かべつつカイトはアレフに提案を示した。
 が、アレフはどこ吹く風と、肩を竦めて答える。

「俺は別に連戦でも構わないぞ? 思ったより体力無くなってないからな……」

 アレフとしてはこの連戦で消費した体力など無いに等しい。この前の二戦はカイトに関係のある者達だった。仕組まれていた可能性は高い。カイトとしては前の二人で勝てればよし、最悪の場合でも体力を消費させて三戦目の自分の時に有利に働かせようという魂胆だったのだろう。しかし、想定以上にアレフは体力を消耗していなかった。その計画が崩れたカイトはアレフのことを考えたフリをして、自分に有利な方向へ誘導しようとしているのが見え見えだった。
 だからアレフはこのまま連戦でも構わないと提案を蹴ったのだった。

「フンッ! お前のことなんてどうでもいいんだよ! 俺がそうするっていったらお前は従ってればいいんだ! おい、審判! 引き分けにしろ!」

 やはりアレフのことを考えていた訳ではなく、自分の都合だと言い放ったカイトは審判に引き分けの判断を早くするように促した。

「カ、カイト様がそう仰るなら……」

 審判は渋々了承しているようだった。こうなるとアレフに出来ることはもうない。提案を飲むしか無いのである。

「わかったよ。お前の言う通り引き分けでいいよ。ま、お前のいう相応しい場・・・・・とやらを楽しみにしておいてやるから……」

 そしてアレフは闘技場から出ていったのだった。

 闘技場を出たアレフは背後から、がしっと抱き着かれた 。

「おっめでとー!」

「おめでとうございます!」

「っと。ルディアと、ヘスティアか。ありがとな」

 アレフに抱き着いたのはルディアであり、その後ろにはヘスティアが笑顔で立っていた。

「三連勝よ、三連勝! 前代未聞だわ!」

 ルディアは抱きついた手を離し、今度は力いっぱいアレフの背中をばんばんと叩いた。

「いてて……ちょ、ちょっと止めろって。それに、最後のカイト戦は引き分けだぞ、一応……」

 ルディアを制止しつつも、最終戦は引き分けという判定下されたことを一応・・アレフは指摘した。
 しかし、その判定に納得の行かないルディアは不満を隠すことは無かった。

「あんなの勝ったも同然じゃない! 恐れをなして逃げ出したのよ! ねっ、ヘスティアもそう思うでしょ?」

 そう同意を促さたヘスティアは、力強くそして大きく頷いた。

「うん! やっぱりアレフさんが強すぎて逃げ出したんだと思います!」

 二人からの賞賛の言葉にそれ以上の否定は無駄だと思ったアレフは押し黙る。

「そ、そうか……」

 しかし、アレフは相応しい場を設けると言ったカイトのセリフがやけに気になった。今までも事ある毎に嫌がらせをされてきたと言っても過言ではない。そんなカイトがただ引くだけ……そんなはずは無く、もっとアレフ自身にダメージを与えられる事を思いついたのではないか……と少し嫌な感情を抱いていた。

「なーにシケたツラしてんのよ! 勝ったのよ? よーし、今日はパーっと祝勝会よ! パーティー、パーティー、楽しみましょう!」

 ルディアはそう言ってアレフの背中をバァンと力強く引っぱたいた。その言葉にヘスティアも両手を胸の前で合わせて喜びの声を上げた。

「良いですね!」

 ルディアに叩かれ、少し前のめりによろめきながらもアレフはヘスティアに視線を送った。

「まあ、ヘスティアが良いならいいけど……」

 アレフの呟いた言葉に対してルディアが怒りの声を上げる。

「なんであたしじゃダメなのよ!」

「いや、だってお前は手伝いもしないだろ?」

 アレフの指摘を否定出来ないルディアは苦し紛れの言い訳を放った。

「クッ! いや、ほら、アレフが一人で待ってるのも可哀想だから話し相手になってあげてるのよ!」

「まあまあ、別にルディアが何もしないのは今に始まったことじゃないので……」

 ヘスティアにまで揶揄われたルディアはヘスティアの肩をガシッと掴んだ。

「ってヘスティアまで酷いわね!」

「あはは、ごめんごめん」

 ヘスティアはペロッと舌を出して悪戯っぽい笑顔を見せた。そんな二人のやり取りを見ていたアレフがぼそっと呟く。

「ま、しばらくそういうことも出来なくなるし、少しはいいかな」

「え、どういうこと?」

 アレフの呟きが聞こえたルディアその意味をアレフに尋ねた。

「いや、今日でまあまあ稼いだから一週間くらい遺跡ダンジョンに潜ろうかと思って……」

 アレフの返答に顎に手をあててルディアは深く頷いたのだった。

「なるほど。よし、ならさっさとヘスティアの家に行くわよ! 時間が勿体ないわ!」

「あ、いや。すぐに潜ろうと思ってたんだけど」

「そんなの聞いてないわ! いいから行くわよ!」

 大きな声でそう言ったルディアは先導し、アレフの腕を引っ張っりながらヘスティアの家へ向かったのだった。
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