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十八話 初昇格
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進化と合成の秘密を知ってからちょうど一月が経った。そう、今日はランク戦の日である。
アレフはFである。Fの試合は一番早い時間に組まれている。だからアレフは日が昇ると間も無く家を出ていた。誰にも会わずに闘技場に向かいたかったからだ。
バトルと違いランク戦の相手は目の前に出てくるまでわからない。バトルは見世物であり賭けの対象なので告知する必要がある。バトルの場合は知ることにより対策も練れるし、相手によっては使い魔の選択も重要だ。それによって大番狂わせも起こりうる。そして見世物として事前に告知することは必須のことなのだ。
それに対し、ランク戦はその召喚士自身がそのランクに見あった実力があるかどうか、と言う事のみを試す場である為、事前に相手の情報を知ることは出来ないのである。同じランクの相手と闘い、自分の実力を指し示す必要があるのだ。
勿論、対戦相手によっては運の要素も絡む。だからFからEへは一度でも勝てば上がれるが、Eになってしまえば落ちることは無い。運も実力の内だからである。最低限の運さえあれば良い。それがFとEの差である。
逆にEからDに上がるには安定した強さを持っていることを示さなければならないので、連勝することが必要であり、それより上のランクはより過酷になることは当然のことだった。
そしてD以上で実力が見合ってないとされるとランクは下に落とされる。
そんなランク戦が間も無く始まる。アレフにとっては先月は参加していない為二ヶ月ぶりのランク戦だった。
先程呼ばれたアレフは既に魔法陣の中心に立ち、対戦相手の入場を待っていた。
「これで勝てばEか……しかし、勝たなければ、母さんとの約束が……」
そう、今日勝ってEに上がらなければ遺跡ダンジョンを深くまで潜ることを諦めなければならない。そういう約束だった。
アレフは初めての体験に酷く緊張していた。今までは負けて当然……負けることに慣れていた。が、今日は負けられないのだ。敗走しても次に挑めばいい。百回やってもダメなら千回やってみる。そういう行動を取ってきたアレフにとっては後がない経験は今まで無い。
そして……対戦相手には運の要素が絡む。Fとはいえど、召喚石で強い使い魔を複数引き当てている可能性もあるのだ。そんな相手を引いてしまったら……そう思ったアレフは背筋に冷たいものが走っていくのを感じた。
と、その時アレフの目に対戦相手の姿がうっすらと見える。現れたのはレイモンドだった。
レイモンドはアレフの姿を見るや否や激しく狼狽し、ガタガタと震え出してしまう。挙句の上泣きだしへたり込む。
審判は引き摺って魔法陣の中へ運び込もうと画策するが、レイモンドは壁にしがみつき絶対に動こうとしなかった。
呆れ果てた審判がふぅと一つ溜息を吐いてから、唖然としているアレフに向かい言い放った。
「おい、お前の勝ちだ」
「え? うそ」
アレフの初昇格が戦うこともなく達成されてしまった瞬間だった。
「あ、いたいた。アレフおめでとー」
アレフが帰宅しようと通路を歩いていると、観客席への階段からルディアが降りてきた。
「ああ……ありがとう」
スっと手を挙げてアレフは応えた。勝ちの実感が無いアレフには戸惑いの色が見えている。
「見てたわよー。闘わずして勝つ! なんてやるじゃない!」
バンバンと肩を叩くルディアに対し、アレフは手を横に振った。
「いやいや、俺は何もしてないから」
その後アレフは腕を組んで呟いた。
「それにしてもレイモンドとは一回闘っただけなのになぁ……」
思い出すかのように呟くアレフに、ルディアも腕を組んで思い出すかのように答えた。
「その一回の負け方が印象的過ぎたんでしょうね。まあ、あの調子じゃもうダメかもね。あいつは……」
「ダメって?」
アレフの問いにルディアは少し深刻そうな表情で答えた。
「召喚士としてもう無理……辞めちゃうしかないでしょうね」
ルディアの言葉に驚きの声を上げるアレフ。
「え……あの程度でか? 怪我の一つすらしてないのに?」
そのアレフの問いにルディアは肩を竦めた。
「アレフの姿を見ただけであんななのよ? 漏らして泣き喚いてたし。それにあの程度ってあんな負け方、恐怖の何者でもないわよ。トラウマになっても可笑しくないわよ」
「あいつまた漏らしてたのか……」
ルディアは、ふぅと息を吐いて続けた。
「元々カイトに付き従ってただけの小者なのよ、向いてないわ。ちょうど良かったのよ。だからアレフが気にする必要はないわ……誰でも壁にぶつかって辞めていく。そう、自分の才能に限界を感じて辞めていく……悲しいものだ……」
歳下のルディアの物言いにアレフは疑問を呈した。
「ルディア……やけに知ったふうだな……」
ルディアは自慢げに無い胸を張って答えた。
「フッ……憧れのSランク召喚士、アマンダ様のお言葉よ! ちなみに続きがあるのよ! しかし、私は限界を感じることは無い。それはそれで悲しいものだがな……って、素敵! さすが天才女性召喚士、アマンダ様!」
恍惚の表情を浮かべるルディアに、アレフは若干引き気味になってしまった。
「お、おう……」
そんなアレフに素知らぬ顔でルディアは続ける。
「アマンダ様は凄いのよ! 溢れる才能だけじゃなく、女性すらうっとりする様なお姿、抜群のスタイル、従える使い魔は全て最高のUR! 憧れるわ……」
「そ、そうですか……」
「アマンダ様のような女性になりたいなぁ……」
抜群のスタイルに関しては多分無理だろうな、とアレフはルディアの胸を見て思ったが、さすがにそれを口にすることは無かった。
「あ、はい……頑張って下さい……」
そこでルディアはキッとアレフに向き直る。
「だからアレフ! あなたも上に来なさい! あたしはあたしの思うがまま強くなる! あなたはあなたの思うがまま強くなって! もうあなたとは模擬戦はやらない バトルで勝負よ!」
急な物言いにアレフは少し動揺しつつも、同意を表す。
「お、おう、約束だ!」
「じゃああたしは準備もあるしこれでね」
そう言って、ひらひらと手を振りながら通路の奥へと消えて行くルディアの後ろ姿を、アレフは見送るのだった。
アレフはFである。Fの試合は一番早い時間に組まれている。だからアレフは日が昇ると間も無く家を出ていた。誰にも会わずに闘技場に向かいたかったからだ。
バトルと違いランク戦の相手は目の前に出てくるまでわからない。バトルは見世物であり賭けの対象なので告知する必要がある。バトルの場合は知ることにより対策も練れるし、相手によっては使い魔の選択も重要だ。それによって大番狂わせも起こりうる。そして見世物として事前に告知することは必須のことなのだ。
それに対し、ランク戦はその召喚士自身がそのランクに見あった実力があるかどうか、と言う事のみを試す場である為、事前に相手の情報を知ることは出来ないのである。同じランクの相手と闘い、自分の実力を指し示す必要があるのだ。
勿論、対戦相手によっては運の要素も絡む。だからFからEへは一度でも勝てば上がれるが、Eになってしまえば落ちることは無い。運も実力の内だからである。最低限の運さえあれば良い。それがFとEの差である。
逆にEからDに上がるには安定した強さを持っていることを示さなければならないので、連勝することが必要であり、それより上のランクはより過酷になることは当然のことだった。
そしてD以上で実力が見合ってないとされるとランクは下に落とされる。
そんなランク戦が間も無く始まる。アレフにとっては先月は参加していない為二ヶ月ぶりのランク戦だった。
先程呼ばれたアレフは既に魔法陣の中心に立ち、対戦相手の入場を待っていた。
「これで勝てばEか……しかし、勝たなければ、母さんとの約束が……」
そう、今日勝ってEに上がらなければ遺跡ダンジョンを深くまで潜ることを諦めなければならない。そういう約束だった。
アレフは初めての体験に酷く緊張していた。今までは負けて当然……負けることに慣れていた。が、今日は負けられないのだ。敗走しても次に挑めばいい。百回やってもダメなら千回やってみる。そういう行動を取ってきたアレフにとっては後がない経験は今まで無い。
そして……対戦相手には運の要素が絡む。Fとはいえど、召喚石で強い使い魔を複数引き当てている可能性もあるのだ。そんな相手を引いてしまったら……そう思ったアレフは背筋に冷たいものが走っていくのを感じた。
と、その時アレフの目に対戦相手の姿がうっすらと見える。現れたのはレイモンドだった。
レイモンドはアレフの姿を見るや否や激しく狼狽し、ガタガタと震え出してしまう。挙句の上泣きだしへたり込む。
審判は引き摺って魔法陣の中へ運び込もうと画策するが、レイモンドは壁にしがみつき絶対に動こうとしなかった。
呆れ果てた審判がふぅと一つ溜息を吐いてから、唖然としているアレフに向かい言い放った。
「おい、お前の勝ちだ」
「え? うそ」
アレフの初昇格が戦うこともなく達成されてしまった瞬間だった。
「あ、いたいた。アレフおめでとー」
アレフが帰宅しようと通路を歩いていると、観客席への階段からルディアが降りてきた。
「ああ……ありがとう」
スっと手を挙げてアレフは応えた。勝ちの実感が無いアレフには戸惑いの色が見えている。
「見てたわよー。闘わずして勝つ! なんてやるじゃない!」
バンバンと肩を叩くルディアに対し、アレフは手を横に振った。
「いやいや、俺は何もしてないから」
その後アレフは腕を組んで呟いた。
「それにしてもレイモンドとは一回闘っただけなのになぁ……」
思い出すかのように呟くアレフに、ルディアも腕を組んで思い出すかのように答えた。
「その一回の負け方が印象的過ぎたんでしょうね。まあ、あの調子じゃもうダメかもね。あいつは……」
「ダメって?」
アレフの問いにルディアは少し深刻そうな表情で答えた。
「召喚士としてもう無理……辞めちゃうしかないでしょうね」
ルディアの言葉に驚きの声を上げるアレフ。
「え……あの程度でか? 怪我の一つすらしてないのに?」
そのアレフの問いにルディアは肩を竦めた。
「アレフの姿を見ただけであんななのよ? 漏らして泣き喚いてたし。それにあの程度ってあんな負け方、恐怖の何者でもないわよ。トラウマになっても可笑しくないわよ」
「あいつまた漏らしてたのか……」
ルディアは、ふぅと息を吐いて続けた。
「元々カイトに付き従ってただけの小者なのよ、向いてないわ。ちょうど良かったのよ。だからアレフが気にする必要はないわ……誰でも壁にぶつかって辞めていく。そう、自分の才能に限界を感じて辞めていく……悲しいものだ……」
歳下のルディアの物言いにアレフは疑問を呈した。
「ルディア……やけに知ったふうだな……」
ルディアは自慢げに無い胸を張って答えた。
「フッ……憧れのSランク召喚士、アマンダ様のお言葉よ! ちなみに続きがあるのよ! しかし、私は限界を感じることは無い。それはそれで悲しいものだがな……って、素敵! さすが天才女性召喚士、アマンダ様!」
恍惚の表情を浮かべるルディアに、アレフは若干引き気味になってしまった。
「お、おう……」
そんなアレフに素知らぬ顔でルディアは続ける。
「アマンダ様は凄いのよ! 溢れる才能だけじゃなく、女性すらうっとりする様なお姿、抜群のスタイル、従える使い魔は全て最高のUR! 憧れるわ……」
「そ、そうですか……」
「アマンダ様のような女性になりたいなぁ……」
抜群のスタイルに関しては多分無理だろうな、とアレフはルディアの胸を見て思ったが、さすがにそれを口にすることは無かった。
「あ、はい……頑張って下さい……」
そこでルディアはキッとアレフに向き直る。
「だからアレフ! あなたも上に来なさい! あたしはあたしの思うがまま強くなる! あなたはあなたの思うがまま強くなって! もうあなたとは模擬戦はやらない バトルで勝負よ!」
急な物言いにアレフは少し動揺しつつも、同意を表す。
「お、おう、約束だ!」
「じゃああたしは準備もあるしこれでね」
そう言って、ひらひらと手を振りながら通路の奥へと消えて行くルディアの後ろ姿を、アレフは見送るのだった。
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