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十話 カイト戦の条件

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「なんだ、尻尾を巻かずに来たのか。どうせ負けるんだから来る必要など無かったのに」

 訓練場で待っていたアレフとルディア。その前に現れたカイトは、アレフの姿を見つけると吐き捨てるように語った。

「はぁ……バカじゃないの? それはこっちのセリフよ? 三十分も遅刻してきやがって、どの面下げて言えんのよ?」

 ツカツカとカイトに近づき、呆れ切った顔つきで右手をビシッとカイトに突きつけてルディアは言い放った。

「おお、ルディアよ! 無能なんかに脅されて怖い思いをさせてすまない! すぐに救ってやるからな。付き合えるからって照れ隠しに暴力的な言葉を使うお前も可愛いぞ」

 その言葉にルディアの背筋に悪寒が走った。そしてたじろぎ、後ずさりをしてしまう。

「やだ……いつにも増して気持ち悪い……」

 そんなルディアの肩にポンっと手を置いてアレフはルディアの耳元で囁いた。

「……安心して見てろって……」

 そして遮るようにルディアの前に立ち、カイトに向かって言葉を吐いた。

「さすがに勝てるとは思ってないが、ルディアの顔も立てないといけないからな……逃げ出したいのは山々だったけどな……」

 これはアレフが考えていた作戦から出た言葉だった。
 実はカイトの闘い方も使い魔もアレフは全て知っている訳では無い。その為にどうすれば有利に闘いが進められるかを考えたのだ。
 カイトは傲慢な性格だ。アレフ以外にもそうなのだが、アレフに対しては他人への傲慢さと比にならない。
 それを逆手に取るのだ。油断……もしくは激怒……どちらかに誘導させてその隙を衝こうとしたのだ。まずは油断させられるかどうか様子を見る為に下手に出る発言をしたのである。

 正直、昨日ルディアに一回だけとはいえ勝ったのだ。カイトはEであり、上がったばかりではあるがルディアのカイトより二つも上のCである。しかも昨日とは状況が変わって使い魔はもう一体いる。勝てる可能性は高かった。

 しかし、今までの経験からアレフは油断をすることなどない。他の召喚士と違い魔法陣の外で自らの体を傷つけることを恐れずに闘ってきた。そして、命の危険がある遺跡ダンジョンで鍛錬を続けてきた。
 そんなアレフの経験は勝ちに対して妥協することはない。妥協は死へとつながるのは身に染みている。

「フンッ! まぁいい……模擬戦をやる前に条件がある」

 カイトが引いた。恐らく相当今まで以上に下に見ているのは間違いない。格下過ぎる相手と議論するまでも無いという事なのだろう。

「ああ……もちろん条件を詰めないとな……」

 アレフはカイトの言葉に同意を示した。するとカイトは右手を突き出し人差し指だけを立てた。

「まず一つは使い魔の数だ。お前が卑怯なことを出来ないようにこっちは全部の使い魔を使わせてもらう。勿論お前も使いたいだけ使うがいい。ああ……俺はなんて優しいんだ……」

 予想通りの提案だった。どっちが卑怯かは言うまでも無いが、カイトにとってアレフはゴミみたいな存在だ。自分が卑怯だなんて微塵も思ってないだろう。
 言い方は変わらず傲慢だが、そこに言及したところで話は進展などしない。ちなみにアレフの使い魔が一つだけだと皆が知っている。ルディアと先程の神官以外の皆であるが。

「ああ……好きに使い魔を召喚していいぞ……他の条件はあるか?」

 アレフが同意を示すと次にカイトは中指を立てた。


「もう一つは勝利の判定だ。お前の存在が目障りだし、お前が死ぬまでだ。降参なんぞ認めんぞ……」

 殺すまでと来るのは少し意外だった。

「ってそれってカイトも死ぬまでってことでいいのか?」

「俺がお前に負ける訳なかろう?」

 カイトはアレフに負けることなど想定していない。
 アレフは別に殺すつもりなど毛頭無かったが、このままだと勝敗の行方は互いの死でしかない。
 また、模擬戦だとしても殺人は犯罪である。カイトとカイトの親の社会的地位、逆にアレフの社会的地位を考えれば、カイトがアレフを殺したところで罪に問われることなどないだろうが……
 目撃者もルディア一人だし、事故として揉み消されて終わるのは目に見えている。

「ちょっと! それはダメよ! あたしが認められないわ!」

 さすがに生死を望んでいないルディアが、アレフの背後から飛び出し叫んだ。

「おお……ルディアよ! 俺の事を心配してくれるのか!
 だが、安心するがいい……この無能を殺して俺がお前を解放してやるから」

 カイトの思考回路は驚く程に自分勝手に出来ている。呆れ切ったルディアはボソリと呟いた。

「バッカじゃない……」

 そして、キッとカイトを睨みつけてルディアは大きな声をあげた。

「流石に死人を出す訳にはいかないから、その条件はダメよ! 普通に降参はありにします! じゃなきゃあたしも裁かないわ!」

「まぁルディアが俺の事を思ってなら仕方ないな……お前もそれでいいか!」

 そしてカイトはアレフに向かって条件の確認をしたのであった。

「ああ……助かるよ……」

 そのアレフの言葉にカイトはニヤリと笑った。そう……何か企んでいるような笑みだった。
 笑みの理由をアレフには推測がついた。やはりカイトはアレフのことを殺すつもりなのだろう。最初から事故にするつもりだったのだろうから、別に条件を飲んだ上で殺してしまえばいいとでも思ったように見えた。
 アレフの回答で、アレフの気が緩んだとも思っているようにも思えた。

「さて、他に条件が無かったらはじめないか?」

 アレフがカイトに問うと、カイトがフンっと顎を突き出して答えた。

「お前がごちゃごちゃ言うからだ。こっちはとっくに準備は出来ている。さっさと始めるぞ」

 その言葉を合図にお互い魔法陣の中に立ち、開始の合図として言葉を放つ。

Diveダイブ onオン Stageステージ!」
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